第10話 追加点

『それにしてもセルシオさん、世田谷三中の先制点にはビックリしましたねぇ』


『そうだネ。さっきの発言は撤回するヨ。世田谷はワンマンチームじゃないみたいだネ。でも、東条はまだまともに攻めて無いカラネ。ここからエンジン掛けて来るんじゃないかナ』


『そうでしょうね~。ここで、両チームの主な選手の紹介を行います。東条のキャプテン日向は、15歳にしてU―15、更には飛び級でU―17にも選出され、既に日本の至宝として期待される選手です。

 そして、センターバックの三年生・権田と、右サイドの二年生・内村の二人もU―15に選出されています。他にも、東京都選抜に8名が選出されています。

 対する世田谷三中も、香田を始めとしたスタメン5名が東京都選抜に選ばれています。

 まさに、東京都の頂上決戦に相応しい一戦ですねぇ』


『デスネぇ。でも、今の得点を上げた世田谷の6番は素晴らしかったネ。そして、その6番が切り込むスペースを空ける為の10番の動きも悪くなかっタ』


『香田ですね?やはり世田谷三中のエースですからねぇ』



「す~…王者・東条の力を見せてやるぞっ!」


 深呼吸してから大声で叫ぶ内村。甘いマスクに似合わず、熱血と云うか馬鹿と云うか…。


「ったく、言った言葉は守れよ」


 キックオフと同時に軽くパスを回してから、内村にボールを渡す。すると、早速マーカーが一人内村に寄って来た。


「へっ、一人かよ…舐めんな!」


 次の瞬間、内村は一気に加速してドリブルを開始した。


 内村の持ち味はスピードもそうだが、トップスピードに至るまでの初速の速さだ。


 高橋も足は速い。トップスピードなら、内村よりも上かもしれない。でも、サッカーでより必要なのはトップスピードよりも加速の方だ。



 その加速力を生かし、内村は一気に攻め上がる。流石に警戒したのか、内村の前方には世田三のディフェンスが二枚。このままだと囲まれるな…。


「へい!」


 なので、俺が寄って行ってパスを貰い、また返す。ワンツーの間に、内村はディフェンス二枚を置き去りにして一気にペナルティーエリア付近まで駈け上がった。さて、ここから向こうのディフェンスをどう崩して行くかだが…


「くらえっ!」


 打つのか?無謀だ!コースも空いてないし、ディフェンスもいるのに?内村のヤツ、ちょっと高橋を意識し過ぎたか!?



 内村から放たれたシュートは、結構鋭いシュートだったが、コースが甘く、キーパーにキャッチされた。


「クソゥ!」


 何がクソゥだ。内村は乗って来ると手が付けられなくなるんだが、どうもムラがあるのがたまに傷だ。



「速攻!」


 香田の掛け声と共に、世田三の面々が一気にラインを押し上げて来た。


 まずい…出だしの失点で、東条ウチの面々は珍しく浮き足立ってる。カウンターに対する反応が若干遅れてしまった。



 高橋にボールが渡ると、またもスピードに乗ったドリブルで一気に攻め上がる。


 先程のプレイが頭を過ったのだろう。高橋を警戒してディフェンスが香田を一瞬だけフリーにしてしまい、その隙に、高橋から香田へパスが通ってしまった。



「打たせるな!」


 後方から叫ぶ。ペナルティーエリア付近から香田にシュートを打たれれば、高確率で止められないだろう。だから、打たせない…もしくは、シュートコースを潰さないと!


「打たせるか!」


 香田のシュートモーションに反応したセンターバック権田が、香田の前に立ちはだかる…が、シュートはフェイントで、香田は更にペナルティーエリア内に踏み込み…。


「なにぃ!?」


 権田を置き去りにしてキーパーと一対一になった香田は、冷静にゴールの隅にボールを蹴り込み…ボールは再び、ネットを揺らした。



『き、決まったーー!また、またも決めたのは世田谷三中!今度はエース、香田が決めたーっ!』



 …嘘だろ?開始数分で0対2?こんな展開、俺が東条に入学してから初めてだな。



『これは驚きの展開!全国二連覇の王者東条を相手に、世田谷三中が前半7分、2点目のゴールを上げました!』


『見事なカウンターだったネ!そして、10番のシュートも良かったヨ。あそこで冷静にシュートフェイントで一人かわしてから決めるとはネ。彼がなんで年代別の代表に選ばれてないのカ?不思議になる程の実力だヨ!』



 完全に流れが世田三に傾いている。まさか、この展開は俺も予想してなかった。


 確かに、1点目も2点目もウチにミスはあった。でもそれは、ほんの些細なものだったハズ。世田三は、その小さなミスをしっかり得点に結び付けたのだ。



「まいったな…。世田谷三アイツら、ホントに強くなってやがる」


 高橋を含めた小学生時代のチームメイトの成長に驚きと共に喜びを感じる。だが、それ以上に驚きなのは香田だ。


 これ程まで我を捨てて、チームプレーに徹するとは…。やはりタイムスリップ前の香田とは一味違う。



 面白い…。タイムスリップ前と一番違うのは誰か…それを証明してやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る