続報六 長雨

 皆さんこんにちは。ワタシ、この物語になくてはならない重要な役割を担っている魔法の笛です!


 ビアンカさまとアナさまのお手により命を吹き込まれて以来、ワタシはご主人さまであるカトリーヌちゃん一筋に懸命にお仕えしているのです!


 こんなに活躍しているワタシなのに、どうして主要登場人物に入っていないのでしょうか? 作者に文句を言ってやらなくっちゃ、プンプン!


 ワタシの指定席はカトリーヌちゃんの胸元なのです。ここでいつも彼女の身に危険が迫った時のために待機しています。


 カトリーヌちゃんは不安になると、心を落ち着けるためにドレスの上からワタシをギュッと握ってくれるのです。


 こうしてワタシは一生懸命仕事をしているのに、何だかワタシが生まれるために奔走していたアノ男に良く睨まれるのです。カトリーヌちゃんのドレス越しでもいつもねっとりとイヤァな視線を感じてしまうのです。


 大体ね、アンタがモルターニュさんに貞操の危機も省みず頼み込んだからワタシが誕生して、アンタ自身の手でワタシをカトリーヌちゃんに渡したのでしょ?




 もちろんワタシの存在はあまり知られていません。他にはカトリーヌちゃんの親友のソニアさんくらいです。魔術師の彼女はカトリーヌちゃんと軽く抱擁を交わした時にワタシに近付いて魔力を感じたようです。


 ソニアさんはワタシの姿を見てこう言いました。


「まあ、思った通りよ。素晴らしい、としか言いようがないわ」


 エッヘン、分かる人には分かるのです、ワタシはとても貴重な存在なのです!


 ソニアさんはワタシからビアンカさまの魔力も察知したようです。そうなのです、カトリーヌちゃんがワタシを吹くと魔法の防御壁が彼女の周りに築かれるだけでなく、ビアンカさまの動物たちが応援に駆けつけてくれるのです!


 とにかく、ワタシは優しいカトリーヌちゃんに仕えることが出来て笛冥利に尽きるの一言です。彼女がお風呂に入る時と寝る時以外は一緒なのよ。


 カトリーヌちゃんはワタシを毎日布で拭いてくれて話しかけてくれます。でもそれはほとんどアノ憎き男の話題が多いのだけどね……


「笛さん、今日はガニョンさんが私の書類の出来を褒めてくれたのよ」


「ガニョンさんはね、宰相室に勤めている方々とも交流があって、将来有望な文官なのよ」


 ある日カトリーヌちゃんが悲しそうにしていたからどうしたのかと思いました。


「ガニョンさんにね……素敵な恋人が居るみたいなの……ローズさんっていってね、次期副宰相さまのお嬢さまなのよ……」


 そう言えばカトリーヌちゃんは今日お昼を同期の子たちと一緒に食べていて、噂好きな彼女たちが何かそんな事を言っていたわね。


 何てことでしょう! アノ男は自分の出世のために上司の娘とイイ仲になっておきながら未だにカトリーヌちゃんの胸元をジロジロとねめつけるように見ているってわけ? 許せないわ、女の敵よ!


 カトリーヌちゃん、今度アノ男が近付いてきたらワタシを吹いて!




 それから数日後、カトリーヌちゃんは叔父さんと叔母さんと一緒に舞踏会に出席したのです。舞踏会だなんてヤラシいケダモノの群れの中に清純なカトリーヌちゃんが……彼女に身の危険が迫るわ!


 結局カトリーヌちゃんはワタシをドレスの袖の中に隠して出かけました。任せて、ワタシは出動準備万端よ。


 そうしたらね、舞踏会でもアノ男がカトリーヌちゃんにまとわりついてきたのです! アンタ、上司の娘とよろしくヤッてたんじゃないの? なんだかまたヤラシーい視線を感じるのですけれど!


「あ、もしかして笛ですか? 今日もちゃんと持っていますよ。流石に首には掛けられませんから」


 カトリーヌちゃん、ヤツがワタシの普段の居場所をジロジロ見ていたのはね、スケベ心からなのよ! ワタシの心配をしていたわけないじゃないの!


「今は紐を腕に巻いて、袖の中に忍ばせているのです。ほら、ここです」


 ゲッ、何だか今悪寒が走ったわ。ヤツがワタシの方をと言うより、カトリーヌちゃんの脇の下を見ているのが分かるの。イヤラシい妄想でもしているに違いないわ! 不潔っ、破廉恥ぃ!




***ひとこと***

ティエリーさんがやたら敵対視している魔笛ですが、どうも女の子のようです……

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