続報四 新雪
カトリーヌは年末年始の休みに実家に一週間ほど帰ると言う。その時に俺も一緒に彼女の両親に挨拶をしに行くことにした。
爽やか好青年のフリなら任せろ。いや、フリではなくて本当に好青年だから!
やはり緊張するな。いきなりちゃぶ台をひっくり返して、娘はやらーん! なんて言われることはないと願いたい。
俺の馬車で一緒に行き、俺は日帰りで王都に戻る予定だった。馬車の中で隣に座ったカトリーヌが言い難そうに口を開く。
「ティエリー、両親の前でその……あの護衛のジョゼの話をしないで下さいますか? 彼は私が学生時代に下宿していた親戚の家の息子なのです。その家に私が居づらかったこと、両親は薄々知っているのです。あまり裕福ではない両親は私に王都で住まいを与えられなかったことを気に病んでいるところがありますから」
「もちろん心配しなくてもいい。カトリーヌ、俺は何も言わないよ」
俺は思わず彼女の体を引き寄せてしっかりと抱きしめた。クズ野郎は今になってもカトリーヌの心の中で不安の種として存在しているのが許せない。
クソッ、あの時奴のキ〇タ〇の一つや二つ、踏み潰しておけば良かった……
俺はクロトー家の面々に温かく迎え入れられた。父親は素朴で人が良さそうだ、母親はカトリーヌと同じ見事な金髪だ。それにカトリーヌは母親似だな。彼女の弟は二人ともまだ中等科の学生だ。
「ガニョン様もご覧の通り、田舎の弱小貴族ですから、娘が王都に出る時も何もしてやれず……好成績を修めて王宮に就職したというのに宿舎住まいで……周りの貴族の方々との付き合いに卑屈な思いをしているのではないかと心配でした」
「ええ。ですからいつでも領地に戻ってくるなら歓迎だとは申していたのです」
「それがガニョン様のような立派なお方に見初められるとは……」
「カトリーヌさんを幸せにするとお約束します。いえ、彼女が私を幸せにしてくれるのです」
「頭をお上げください、ガニョン様。良かったなぁ、カトリーヌ」
カトリーヌと両親は涙ぐんでいる。
それから和やかな雰囲気のうちに皆で昼食を取り、結婚式は春に挙げることもカトリーヌの両親の了承を得た。そして日帰りで王都に戻る俺は午後一家に見送られていた。
「来週迎えに来るよ、カトリーヌ」
「ティエリー、私なら乗合馬車で戻れますわ」
「ガニョン様、そんなお手数をお掛けするわけにはいきません」
「いえ、私が一日でも早くカトリーヌさんに会いたいのです」
「まあ、カトリーヌは幸せ者ねぇ」
カトリーヌは真っ赤になり、彼女の母親はうっとりとした目で俺達を見守っている。一週間会えない分だけ彼女に熱く口付けて抱きしめたいところだが、両親の前ではそうもいかないだろう。軽く口付けるだけでお別れかと思っていた。
「さあ貴方、私たちは屋敷に入りましょう。恋人たちの別れの邪魔はしないわよ」
話の分かるお母さんじゃないか。まあ、それでもカトリーヌの弟達が窓から覗いているやもしれん。教育上よろしくないことはやめておこう。王都の貴族は乱れきった生活をしている者も多いが、ここクロトー家の人々は善良で信心深く昔気質のようだ。
それに俺の第一印象を崩すわけにはいかない。ということでお別れのチューは軽めにしておいた。その代わりにずっと抱きしめていたらカトリーヌに笑われた。
「ティエリー、そろそろお発ちにならないと暗くなる前に王都に着きませんわ」
そうだった、彼女をこれ以上抱きしめていたらムスコの方がそろそろおタちになりそうだった。
***ひとこと***
彼女の両親に会うという難関も容易に突破のティエリーさんでした!
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