続報三 晴空

 カトリーヌと付き合いだしてから仕事の後やデートの帰りにはいつも彼女を王宮の宿舎まで送って行く。


 そして宿舎の入口前でお別れのチューをするのだが、時々住み込みの寮母のオバチャンがわざとらしく出てくるのだ。そうしたらカトリーヌが恥ずかしがって体を離してしまうから、キスも抱擁もおちおちできない。


「カトリーヌ、お帰り」


「寮母さん、帰りました。ティエリー、お休みなさい。送ってくださってありがとうございました」


「……じゃあね、カトリーヌ。失礼します」


 このクソババアめ……彼女は体の全てのパーツがカトリーヌの三倍のデカさがある。体当たりされたら俺なんか吹っ飛びそうだ。


 いや、ババア呼ばわりしてはいるが彼女には感謝もしている。カトリーヌがあの下衆野郎に襲われた日、宿舎に帰ってきた彼女の様子がおかしいのにオバチャンは気付いていたと言う。カトリーヌから翌日少し事情を聞き出した彼女は、それからというもの宿舎周りを気を付けて見張ってくれているのだった。


 しかし、俺はカトリーヌに不埒なことを働こうとする輩とは……断じて……違う! 俺は彼女の婚約者(予定)だ! すぐに婚約は成立するはずなのだ!




 そう言えば、先日年末の市を見た後にカトリーヌが寄った食堂のオバチャンも居たな。体の全てのパーツがカトリーヌの二倍はある。食堂の上は宿で、カトリーヌは学生時代にここに時々避難してかくまってもらっていたというのは副宰相の報告書で知っていた。


 どうやらカトリーヌは肝っ玉母さん系女性の庇護欲をそそるようである。




 とにかく、結婚までカトリーヌがこの宿舎住まいというのは辛い。キスもゆっくり出来ない。何とか対策を考えねば。さっさと婚約して引っ越しさせよう。しかし結婚前に我が屋敷に来てもらうわけにはいかない……下宿なんてことも……そこで俺は名案を思い付いた。


「カトリーヌ、俺達の婚約が決まったら宿舎を引き払って弟の家に住まないか?」


「えっ? マキシムさんとローズさんのお宅に居候ですか?」


「うん。彼らは問題ない、君なら大歓迎だと言ってくれているよ。それに俺の屋敷にも近いしね」


「あの、マキシムさんたちはまだまだ新婚さんなのに、私がお邪魔するわけには……でもティエリーやご両親はやはり婚約者が宿舎住まいだと体面がよろしくないのですか?」


「いや、まずマキシムの家は君一人が居候しても余りあるくらいの広さがあるから大丈夫。それから体面の問題ではなくて、婚約したら式の準備などで忙しくなるから近くに住んでいると便利が良いからだよ」


 よし、もう少しで彼女は落ちるぞ。


「そうですね。ではお世話になります。下宿代というか家賃はマキシムさんと交渉すればよろしいですか?」


「何言っているの、カトリーヌ! マキシムもローズも君の家族になるのだから家賃なんて受け取らないに決まっているよ」


 そうだ、金の問題ではないのだ。俺がまたマキシムに多大な借りができただけである。しかも奴とローズにはどうして俺がカトリーヌをここまでして宿舎から出そうとしているかバレてしまったのである。


『へぇ、王宮の宿舎は異性禁制ですからねぇ。兄上の気持ちもよぉーく分かりますよ』


 男性職員用の宿舎も同じで、女の子を連れ込むなんてまず出来ないらしい。


『理由はともあれ、カトリーヌさんが我が家にいらっしゃるのね。楽しみだわぁー』


 弟夫婦はニタニタ笑いを隠そうともしなかった。




***ひとこと***

さてこうして結婚まではマキシムの屋敷に住むことになるカトリーヌですが、事はティエリーさんの思惑通りに運ぶのでしょうか?

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