ティエリー 番外編

続報一 朝虹


 カトリーヌに告白した次の日の朝だ。俺はドキドキしながら目を覚まし、昨夜のことを思い出していた。この全てが夢だったとか、そんなことはあり得ないはずだ。俺は彼女の唇の感触や抱きしめた時の温もりをしっかりと覚えている。


 今朝はいつもより歯磨きも髭剃りも念入りに行った。いつ職場で二人きりになって口付ける機会が訪れるとも限らないからな。もちろん今日は勝負下着だ。……まあ一応念のためだ。


 両親がニヤニヤしている俺を不審そうな顔で遠巻きに見ている。仕事のし過ぎでおかしくなったと思われているのだろうか。それは断じて違う。




 いつものように出勤して執務室に入ったら愛しのカトリーヌは既に居た。


「ガニョンさん、お早うございます」


 まあ職場だったらガニョンさんでもいい。俺は辺りを見回して誰も他に居ないのを確認し、その美味しそうな唇に一瞬口付けた。


「お早う、カトリーヌ」


 彼女の照れた笑顔を見るともっとキスしたくなってしまった。しかし、いつ誰が出勤してくるやもしれない。


「ティエリー、私昨晩は幸せすぎて、興奮してしまって……あまり眠れませんでした」


「俺もだよ」


 カトリーヌの興奮と俺のそれは意味合いが大いに違うに決まっている。彼女の興奮とは初等科の生徒が遠足の前夜に高揚しているのと同程度だろう。俺の昨晩の興奮は詳しく描写するとカクヨムの規定に触れまくる十八禁の内容だ。


 今すぐにでも彼女をそこの会議室に連れ込んでアンなことやコンなことや……ハッ、いかん。


 何を妄想しているかおくびにも出さず、鼻血も出さず、爽やか笑顔で取り繕うことには悲しいかな、もう慣れきっている。


「ねえ、カトリーヌ、今度の休みは予定あるの?」


 邪念など微塵もないフリをして彼女に尋ねる。


「はい、年末の市に行こうと思っています。毎年家族にちょっとしたものを買うのです」


「もしかして去年俺にコーヒー豆を買ってくれたのもそこで? 俺も一緒に行っていい? もちろん君が良かったらだけど」


「ええ、是非。でも庶民ばかりの市ですよ?」


「じゃあ、着古した上着を着て徒歩で行くかな」


「はいっ」


 その嬉しそうな笑顔に癒されていたところで他の同僚たちが出勤してきた。




***ひとこと***

ラブラブバカップル予備軍の二人……ティエリーさんはまだ暴走を抑えているようですが……


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