16.生きて戻れることを、祈るぜ
─翌朝。八月五日。
朝日達が元の時代に戻るその日まで、残り三日。
各自チェックアウトを済ませた後、目的の場所へと向かう。
「結局あの後タクシーを使ってあの駅まで来たんだ」
「あそこなら宿泊先も多いしね」
風麻親子の声を背景に、夜安は辺りにを見渡した。
かなり広い公園らしく、周りからは子供達の笑い合う声が聞こえてくる。
目の前には噴水があり、バーベーキュー場もあった。
「見えた....アレだろう....?」
「デケえな」
阿知親子が呟けば、視線の先にはとても大きな花時計があった。
高層ビルに囲まれたそれは想像以上に迫力があり、鮮やかな花々で彩られている。
「綺麗ですね....」
「....ああ」
藤親子の声が響き、日差しが差す。
そしてその目線の先には─、この景色には似合わない、四つの黒。
夜安は花時計の前に立つそれを見て、ベビーカーを押す。
四人の男達はそこから動かない。
ベビーカーが芝生の上を、一歩、また一歩と進んで行く。
「死にに来たか。ベビーカー野郎....」
ニット帽の男が吐き捨てれば、夜安はそれを鼻で笑う。
「ちげえなァ」
「あぁ?」
藤が、風麻が、阿知が、そして夜安と朝日が──、隣に並ぶ。
「俺達は....生きるために、此処に来た」
そしてその言葉と共に、全員が身体を光らせた。
「ハッ!せっかく親切に警告してやったのに、馬鹿が....ッ!
テメェらァァよく聞けッッ!!
コイツらを、始末するッッ!!」
同時に敵達も飛びかかる!
「「第一形態──、 ガード!!」」
風麻親子が能力を発動し、周り全体に巨大なバリアを張る。
「「第一形態──、 スピード」」
そして阿知親子が高速で移動し、辺りの人々を別の場所に避難させた。
「夜安!!」
藤沙暗が叫び、夜安と朝日が敵達の方へ、飛び込んで行く!
「「第五形態──、
クラッシュ────ッ!!」」
爆発音と共に、辺りは激しい音を立てた。
砂煙が舞い、バリアの中にいる仲間達は目を閉じる。
「やったか!?」
顔を上げ、敵達を確認する─。
「チェアーッ!奴等の感覚を!奪えッッ!」
しかし瞬間。
男の低い声が、芝生を伝わって聞こえてきた。
「ッ....な、んだこれ、」
「クソ!立て、ねえッ!」
いつの間にか、夜安と朝日はその上に倒れていた。
「幼児用の椅子だ。お前等も使ったことがあるだろう?」
そして目の前には、黒髪の男の姿が現れた。
その隣には、昨日の白髪の敵。
「あ、はははははは!!ざまあ見ろ!!このクソ野郎!!こんな奴、すぐにブッ殺してやるッッ!!」
男が二人を蹴りあげようとしたその時─、
「ご、ブッ、うえええええええええええええええええええええ」
男の顔は、空気砲のような何かにより撃たれた。
「ッ!?」
「アンタの相手はこっちよ....クソ野郎....!!」
「ひ、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
風麻二が手をかざしたまま敵を睨み付ければ、男は逃走する。
同時に風麻が「ここは任せろ!」と叫び後を追った。
「....ハッ。任せろも何も、コイツはすぐに死ぬんだがな」
「おやおや。それは違いますよ?」
藤親子がゆっくりと歩いてくれば、敵の男は驚いた表情を見せた。
「貴様....蒼い父親は....確か死んだはずでは....」
「やっかいな奴がいたっっーワケだ」
するとニット帽の男が現れ、チェアーと名乗る男の肩に手を置き、笑った。
「どうやら敵は二手に分かれたようですね」
「ああ。向こうは風麻と阿知達が追いかけた筈だ」
藤達は敵に反撃するタイミングを見て、臨戦態勢を取った。
四対二という状況。これなら勝てる見込みがある。夜安はふらつく思考の中、考えた。
「面白え....それじゃあ、この六人で”決まり”だ!」
「「!」」
しかし次の瞬間。
男は手を上に挙げ、大きな声で叫んだ。
「ハンド!これからこの六人で、生死を賭けたゲームを開始する!」
空間が四角いキューブのようなものに囲まれ、辺りから完全に閉鎖される。
「なっ....クソ!んだ、コレ!」
朝日が壁を叩くが、それはビクともしない。
「ルールは簡単!その名も──、”ワード人狼”!」
「テメェッ!!何フザけたこと言ってやがるッ!!」
夜安が必死に立ち上がれば、それは藤によって止められた。
「どうやらこれは彼の能力のようです....ルールを聞いておかないと、死にますよ」
「なっ....」
男が手をかざせば、目の前にはスクリーンが現れた。
そこには四人の名前と、チェアーという名の黒髪の敵、そしてこの能力者のハンドの名前があった。
「これからそれぞれにキーワードを与える!しかし、その中に違うワードを与えられた”人狼”がいる!それを見事当てることが出来れば、お前達の勝ちだ!」
「成る程。人狼ゲームの亜種のようなものですね。
ひとつ聞きたいんですが、僕達四人の誰かが一人でも人狼を当てれば良いんですか?」
「それはダメだなァ?お前等の誰かが一人でも間違えたら、その場で全員死ぬ。
また、お前等の中に人狼がいたとしよう。その場合は当てられても、死ぬ。」
「ほう....本来ならこのゲームは個人戦ですが、今回はチーム戦ということですか」
「人狼がいるチームは、圧倒的に不利だな。気付かなくてはいけない上に、チームのメンバーが人狼だとバレないよう誘導しなければいけないのか」
ハンドは「そういうことだ。」と笑うと、何もない空間に机と椅子を出現させる。
「チェアー。能力を解除してやれ」
「....俺まで巻き込むことはないだろう」
「分かってねえなァ....俺が、このハンドが、ゲームで負けるワケねえだろうが....」
チェアーという男は能力を解除した。眩暈が消え、夜安と朝日の感覚が戻ってくる。
「クソが....!!テメェは後で、俺がブッ倒してやる....!!」
「ハッ....。生きてここから出られたらな」
夜安が睨み付ければ、男はそれを鼻で笑った。
「さあ....テメェら、”ワード人狼”の始まりだ....!生きて戻れることを、祈るぜェ?」
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