17.キミは、いつも僕を照らしてくれる
一方、風麻達は白髪の男を追っていた。
「チッ!アイツ、高層ビルの中に逃げたぞ!」
「ビルの人達も一応避難させたはずだけど....探すのが面倒ね!」
すると閃光が走り、阿知親子が姿を見せた。
「僕が....先回りするよ....挟み撃ちにしよう」
「早くとっ捕まえて、あの野郎ブッ殺してやるよッッ!!」
「「了解!」」
二人は瞬間移動により、ビルの中に移動した。
当然のことだが、避難させたことにより中には誰もいない。
静かな空間が広がる中、二人は目配せをする。
「僕は....下から....」
「オッケー。俺は上から行くよ」
二手に分かれ、阿知影津が一階を調査しようと動き始めた。
─しかし!
「やっほー!俺、シート!お前を殺しに来たよん!」
明るい緑色の髪。褐色肌の少年が目の前に現れ──、
「シート!このスピード野郎を、高速しろッッ!」
「!」
阿知影津の身体を捕らえた!
「やりい~っ!!一匹ゲット~ッ!!」
「ッ!第二形態──!」
「無駄だよ。そのベルトからは絶対に逃げられない。お前の瞬間移動でもね」
身体を動かそうとしても、それはビクともしない。
阿知影津は上階に向かった息子を気にかけ、視線を動かす。
「....お前は本当に息子ばっかだよなあ」
「何....?」
「”阿知先生”こう言えば分かる?」
阿知の頭の中にひとつの記憶が浮かび上がる。
孤児の少年。
大学病院の中で、いつも窓の外を見て、一人きりで過ごしていた。
「キミは....あの時の....」
「はは!やっと分かった?まさかアンタが生きていたとはね」
少年が皮肉に笑うその姿を見て、阿知は吐き気を覚えた。
「ウッ....」
フラッシュバックされる。泣き喚く患者達の声。血が飛び交い、倒れる人々。
見舞いの花が赤く染まり、妻が倒れ、泣き叫ぶ二歳児の息子。
すれ違いざまに、手を伸ばした少年。怪物に手を引かれ、先生、助けて。と。
「お前は....俺を見捨てたよな?」
「違う....僕は....」
もっと早く動ければ。もっと早く動ければと、何度も後悔をした。
「あの時....俺はハンドに救われた....親がいない俺を、受け入れて家族にしてくれた....」
阿知の身体が、ベルトにより強く締め付けられる。
「俺を見捨てた、お前とは違ってなッッ!!」
首元まで締め付けられ、阿知の呼吸が止まる。
「ッ、はッ....!!」
「お前を見つけた瞬間に決めたよッ!俺が、お前と息子を殺してやるとッ!」
ぎりぎり、ベルトは強さを増し阿知の顔は世生気を失っていく。
頭の中で、あの時の光景が浮かび上がる。
人々が倒れ、血で汚れた床を見ながら、三輪型のバギーをとにかく走らせた。
急げ。誰よりも早く走れ。立ち止まるな。振り返るな。息子と共に走り抜け。
誰よりも、早く....!
「第一形態──、スピード!」
黄色の閃光が素早く敵のシートの元へと向かい、激突した!
「ッ!」
敵が怯んだことにより、首のベルトが緩む。
「っ、か、はッ!!」
「父さん!」
阿知影津は咳き込み、その場に倒れこんだ。
すぐに光が駆け寄りベルトを外そうとする。
「ひ....かり、」
「クソッ!!ほどけねえッ!!動かすことも出来ねえのは、何でだッ!!」
まるで固定されているように、その場から移動させることすら出来ない。
「光....僕は....良いから」
「何言ってんだよ!」
「これはほどけない....彼を、倒さない限りは....」
阿知の瞳から微かに涙がこぼれる。
彼の胸には今、悔やんでも悔やみ切れない後悔があった。
「そう簡単にほどけるワケ、ねえだろッ!!」
シートが背後から飛びかかれば、光は高速移動でその場から姿を消す。
「さすが親子だなァ!いつもいつも逃げ回りやがって!少しは!攻撃してみろよ!」
シートは阿知を床に転がし、そのまま思い切り蹴り上げた。
「ッ!テ....メェッ!!」
光は瞬間移動で反撃しようと動くが、シートはその度に父親を盾にし利用する。
せめてあの場所から父を移動出来れば良いが、光にはその方法がどうしても見つけられない。
「滑稽だなァ先生!言っておくけど、これは自業自得だぜ?」
蹴りを入れられ、床に転がる度に、少年の声が響く。
「逃げることばかりを考えていた、お前の弱さが原因だッッ!!!!」
「違うッッ!!」
阿知は揺れ動くの中、あの時のことを思い出していた。
泣き喚く患者達の声。血が飛び交い、倒れる人々。
「何が違う!お前の父親は!俺を!他の人達を!大勢見殺しにした!」
すれ違いざまに、手を伸ばした少年。怪物に手を引かれ、先生、助けて。と。
少年は怪物に連れて行かれた。もっと早く動ければと、何度も後悔をした。
阿知の手の中には、息子を乗せたベビーカーがあった。
「父さんは!!!!家族を助けただけだ!!!!」
足を止めた阿知の前に、怪物が現れた。ベビーカーを握り締め、走った。
怪物が、ベビーカーに触れようとした。阿知は怪物の手に噛み付き、ベビーカーを守った。
怪物に殴り飛ばされ、頭を掴まれたその時、逃げることしか出来なかったと彼は涙を流した。
そして涙がベビーカーに落ちたのと同時に、病院が黄色い閃光に包まれたのだった。
「光....」
「うる、せええええええええええッ!!スリングッ!!今すぐその父親を絞め殺せえええええええええええッ!!」
あの時もそうだった。
キミは、十五年後から来たと言って、僕に向かって言ったんだ....
『──俺を守るために、走ったんだろ?』
「自分の家族を守ったッッ!!それのッ!!何処が間違ってんだアァッッ!!」
阿知影津の身体が輝き、同時に光の動きも止まった。
──真っ白な空間の中。
そこには二人以外、誰も存在しない。
「これは....」
「僕達だけの....世界だ....」
「父さん....」
「ありがとう....光....キミは、いつも僕を照らしてくれる....」
「....当たり前だろ。家族なんだから」
二人は視線を重ね、手を取り合った。
「「第五形態──
インビジブル!」」
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