15.夜はいつか明ける

─泣いている。

誰かが、遠くで泣いている。

誰かは分からないが 俺はその声を知っている。

瞼が震えて、暖かい何かが掌に触れられ、そしてすぐに離された。

それが嫌で嫌で、俺は必死になって手を伸ばした。

行かないでくれ。お願いだから....もう二度と、俺から離れないでくれ....




「はっ....!」


目を覚ませば、そこは見慣れない天井だった。

夜安は痛む身体で起き上がり、辺りを見渡す。

そしてそこで初めて、自分はホテルのベッドの上で眠っていたのだと気が付いた。


「父ちゃん....?」

ドアが開く音がし、視線を向ける。


「あーた....ここ、何処、ッうわっ!?」


すると突然、朝日は夜安の身体に抱き着いてきた。


「いっ、て!ちょっ、お前!身体、いてえっての!」


夜安が驚くのとは対照的に、朝日は黙り込んだまま父の身体を強く抱き締める。


「死んだかと....思った」

朝日の身体は、微かに震えていた。


「バカ....死ぬワケ、ねえだろ」

夜安は息子の背中を軽く叩き、「ほら。良いからどけって」と声を掛ける。


「目を覚ましたみたいだね....」


すると続けて阿知親子が部屋に入り、鎮痛剤と抗生物質だよ。と父親から薬を渡される。


「抗生物質?何でこんなもの」

「ウチの父さん、医者なんだよ」

阿知光は淡々と答える。


「ふうん....って、医者!?」

阿知影津は微笑むと、今は休業中だけどね。と呟いた。


「お前が、治療してくれたのか?」

「軽くね....熱も出ていたから、今日はゆっくり休むと良い....」


上半身にはしっかりと包帯が巻かれている。

夜安は阿知の顔を見て、頭を下げた。


「ありがとう....あと、迷惑かけて悪かった」

「迷惑....?」

夜安は拳を握り締め、嫌な記憶を蘇らせる。


「俺が警戒せずに運転席のドアを開けたから....攻撃されちまった」

「父ちゃん、」

(そして、その結果、沙暗が....)

「ああ....それについてですが....大丈夫ですよ....」


すると廊下から騒がしい音が聞こえてきた。


「何だようるせえな!」

朝日が様子を見るために立ち上がり、部屋のドアを開けると──、


「夜安!やっと起きましたか!」

そこには、藤沙暗の姿があった。


「藤沙暗ッ!?」

驚く朝日と、呆然とする夜安。


「敵に気付かれないように、しばらく死んだ振りをしていた」


後ろから藤沙明が現れる。

しかし朝日は納得がいかないようで、不思議な顔を見せた。


「でも、アレ完全に食われてたよな....?」

「これですよ。

   第三形態──、アバター。」


すると目の前には本物そっくりの、藤沙暗の姿が映し出される。


「げ、幻覚か....!?」

「あなたはパワー系、風麻は防御、阿知がスピード。そして僕は応用みたいなものですかね。敵が消えるまで姿を現す訳にはいかなかったので。驚かせてしまってすみませんでした」


藤沙暗が能力を解除すれば、同時に廊下から風麻親子が顔を見せた。


「見事だったな。」

「まっ。アタシのパパには負けるけどね」


結局全員が部屋の中に集合し、辺りはにぎやかになる。

夜安は変わりなく皆と話し続ける沙暗を見て、安堵した。

すると沙暗の視線がこちらに向けた。彼は夜安の元に近寄り、にっこりと笑う。


「僕が死んだと思って、びっくりしましたか?」

「....お前みてえな奴が、そう簡単に死ぬタマかよ」

「あはは。それもそうですねえ」

沙暗は部屋にいる全員を見渡し、そして夜安を見た。


「....あの男の言葉を聞いて、怖くなった?」


同じ目的で集まった。ただそれだけだと思っていた。だけどそれは違った。

ここにいる全員は、大切な仲間だ。


「怖くねえよ」

家族を守る為?そんなの、こっちだって同じだ....!


「俺は今度こそ....家族と、お前達を守るために戦う」

「父ちゃん....」


全員が、夜安を見た。

それ以上言葉はない。

けれどそこには、確かにそれぞれの決意が静かに存在していた。


夜は必ず明ける。

朝はきっと、もうすぐそこだ。

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