14.俺達は、家族を守るために来た

夜安もすぐに駆け寄り、朝日と共に風麻達の手を掴む。


「ッ!父ちゃん!」

「何をしているっ!?」

「うるせえ!これは、解除出来ねえのかよッ!?」

「無理よ!飲み込まれたら二度と抜け出すことは出来ないわ!」


二人の腕を必死に掴んでも、それは止まることなく引きずり込まれて行く。


「ク、ソ....ッ!!止まり、やがれ....ッ!!」

二人の身体は既に下半身まで飲まれている。


「冬地夜安!その腕を!離せ!」

「うっせえ!!誰が離すかよ!!」

「ただの協力関係だと言っただろう!」


風麻が叫んだのと同時に、二人の身体はずるり、とまた飲み込まれていく。


「それでも....仲間であることに、変わりはねえだろうがッッ!!」


ベビーカーが激しく揺れ、そして!

とてつもない光と共に、亜空間が歪んで行く!


「う、うそだろうそだろ嘘だろせっかく一組殺せたと思ったのにいいいいいいいいいいい」

ほぼ全身漬かりきった状態の敵が泣き叫び、亜空間が端の方から崩れていく。


「「あ、ああああああああああ────ッ!!」」


しかし、夜安と朝日が全力で力を込めても、それは消えない。


「チ、クショウ....!!」


夜安は激痛に耐えながら身体を震わせる。沙暗との戦闘での傷が、今になって痛み出した。

二人の腕を掴む夜安の手は、限界を迎えていた。


(俺はまた....また、目の前で誰かを失うのか....!?)

沙暗は、一瞬で消えた。彼はすぐ隣でそれを見ていた。何も、出来なかった。


「沙、暗....ッ」


眩しい光にあてられながら、彼の名を呼んだ。

どうしてかは分からない。けれど、夜安は彼の名前を呼んだ。


「──夜安」

「は....」


蒼い髪が風に吹かれる。沙暗だ。沙暗。どうして。


「忘れたんですか?僕は貴方のパートナーですよ」

彼はそっと、夜安のベビーカーに触れた。


「さあん....」

「大丈夫。貴方なら、必ず壊せます」


その言葉と共に夜安は目を開き、朝日の手を強く握り締める。


「父ちゃん!」

「ああ....!!」


割られた窓から風が吹く。二人の身体が赤く輝き、掌が痺れる。

腕に力を込めれば、風、空気、重力、全てがひとつになった。


「「第五形態──、

       クラッシュッッ!!」」


二人の声が重なった瞬間、それは一瞬にして消滅した──。


亜空間が消え、風麻達は解放される。


「嘘....でしょ」

「亜空間を、破壊しただと....」

「ひ、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


同時に解放された敵はその場から立ち上がり逃げ出した。


「第三形態──

     ストップド!」


男の白い髪が宙に浮き、そのままの状態でぴたりと止まる。


「なっ、に....」


阿知影津は男の後ろ髪に触れると、ふう。と息を吹きかけた。


「やあ....君の動きだけを....止めさせてもらったよ....」

「う、わあああああああああああああああああ」


パニック状態になった敵は涙を流しながら泣き叫ぶ。


「うるっせえわッッ!!このドクズ野郎ッッ!!」

阿知光が男に蹴りを入れ、男はまたしても泣き喚く。


「いっ、痛いのに動けないッ!?何でッ!?何でだよおおおおおおおおッッ!?」

「僕の能力はあくまでも動きを止めるだけ....勿論、声も出せるし意識もハッキリした状態でね....拷問にも、ピッタリだよ....」


阿知の言葉を聞き敵は震え上がる。


「ハッ....滑稽な奴」

藤沙明は、その様子を黙って見ていた。


「覗かせてもらうぞ」

そして風麻が近付き、男の頭に手をかざす。


「別にレクター博士みたいに脳味噌を覗いたりはしないわよ?」

「や!やめてえええええええええええええええ」

「第三形態──、

      エンター」


能力発動と同時に、男は意識を失い、がくりと首が下を向く。


「──教えろ。お前の仲間は何人いる?」

「....三人、です....」


明らかに意識を失っているというのに、男の口からは自然と言葉が出てくる。

(この能力で、本拠地を突き止めたのか)

改めて全員の能力を見てみて、夜安はその多様性に驚かされる。


「お前達の目的は?」

「....お父さんの....力になること....」

「お父さん?どういうことよ?」

「そいつは誰だ?名前は?」

「わから....ない....でも....だいじょうぶ....」

「....何がだ」


「もうすぐ....みんながここに、くる....」


瞬間。電車が大きく揺れた。


「ッ!つぐ!全員にバリアを張れ!」

「オッケー!第一形態──、ガー、ッ!?」


二は能力を発動しようとしたが、突然の眩暈に襲われてしまう。


「なっ、によこれ....」

「つぐっ!?」

バランスが取れず、平衡感覚が失われたような感覚。耐え切れず、二はその場にしゃがみ込む。


「風....、ッ!」

「アァ!?んだよこれ!?」


続けて阿知親子は突然、硬いベルトのようなものに拘束されてしまった。

それは容易く解けるものではなく、ぎしぎしと音を立てて二人の身体を締め付ける。


「一体、どうなってやがる!?」

「父ちゃん!奴がいない!」


気が付けば男の姿が消えていた。

社内を見渡しても、男は何処にもない。


「クソ!逃げられたか!」

「朝日!外だ!」


沙明の声を聞き、夜安と朝日が敵の姿を追おうと走り出す。

絶対に逃がす訳にはいかない!ドアを破壊し、二人は外に飛び出した。


「──お前ら、よくもやってくれたなァ!」


しかし夜安と朝日の動きは、目の前の男の声により停止させられる。

電車の外に目を向ければ、そこには黒い布を身に着けた、三人の男達が立っていた。


「テメェら!何しに来た!」


白い髪をした男を背中に抱えるのは、黒髪の男。

その隣には褐色肌の少年。そして、声の主であるニット帽の男─。


「俺の名は、チェアー!」黒髪の男が叫び、

「俺はシート!」褐色肌の少年が笑う。


「そして俺が、ハンドだ」

ハンドと名乗ると男は帽子を抑えながら声を上げた。


「俺達は、家族を守るために来た!」

「....は?」


予想の斜め上を超えるその言葉に、夜安は戸惑った。


「明日、八月五日!俺達は家族の為、この世に存在する奴等全員を始末する!」

「「!」」

「もし邪魔をしたら....その時は、お前等を最優先に殺す」


ニット帽を被った男は濃い紫色の髪を振りかざし─、夜安に向けて指を差した。


「....勘違いするなよ....テメェらと、動機は何一つ変わらねえんだ....」


そしてそれだけを言い残すと、男達は姿を消した。



───────────────────


辺りからは救急車やパトカーの音が聞こえてきた。

騒ぎを聞きつけた人々が周囲に集まり始めたため、夜安達は見つからないよう身を隠した。


「あの白髪の男は負傷していた。敵が動くとすれば宣言通り明日になるだろう」

「つまり、私達も明日まで何処かで休んだ方が良いってコトね」


風麻達が話す中、阿知親子は作戦を立てる。


「光....あのベルトのようなもの....僕達の瞬間移動を使っても、抜けなかった....」

「ああ。明日までにどうにかしなくちゃいけないな」


藤沙明は誰と話すこともなく、全員の様子を眺めていた。

一方、夜安は先程の敵の言葉が頭から離れず、悶々とした気持ちのまま皆の話を聞いていた。


「父ちゃん!」

朝日が肩を叩けば、夜安の顔色はひどく青ざめていた。


「おい?大丈夫かよ?」

「....気にすんな、何てことは....ねえ」

「傷が痛むんだろ、無理すんなって」


夜安の頭の中で、ぐるぐると、敵の言葉が巡る。

家族を守るために、この世の人達を始末する?そんなのどう考えてもおかしい。

けれど、俺達も家族を守る為にあの白髪の男に攻撃した。あの男が泣き叫ぶ中、あの怪物達を始末した。そこには善も悪もない。互いに、守りたいものがあっただけだ。


「っるせえ....俺は....」

「父ちゃん!?」


朝日の声が遠のく。

消え行く意識の中、夜安は未だに答えを見出せないでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る