12.適材適所ってやつだ

ベビーカーを持った親子の集団が車で移動するとなると、個人行動が強調され怪しまれる。

そのため出来るだけ人が多く、紛れることが出来る交通手段を選んだ。

夜安達はベビーカーを折りたたみ、一両車に乗り込んだ。

運転席のすぐ後ろになるこの場所なら他の車両よりも広く、ベビーカーが数台あっても迷惑をかけることはない。


阿知影津あちえいつは?」

駅前で見た時以降、金髪の親子の姿が見当たらない。


「アイツらならこの車両全体を見張っている。」

藤沙明が腕を組みながら答えれば、同時に電車が動き出した。


「ねえ。夜安は仲間全員が揃っていないと不安になるタイプなんですか?」

すると藤沙暗が夜安に近付き、にっこりと笑う。


「ハァ?いや、別にそういうワケじゃねえが」

「おい!いちいち父ちゃんをからかうんじゃねえ!」

「ちょっと!アンタこそ電車で騒がないでくれる!?」

「お前ら、静かにしろよ。子供が調子に乗って騒いでると思われたくない」

「「ハァ!?」」


藤沙明が注意したことにより二人はヒートアップし、また子供達の中で口論が始まる。


「....信用出来ないのは分かるが、それはこちらも同じだ」

子供達の声を背景に、風麻一ふあざはじめが壁に寄りかかりながら静かに話す。


「俺もお前も共通の敵を追っている。目的が同じだから今はただ手を組んでいるだけだ」


夜安は風麻の方を見向きもせず、外の景色を眺めた。


「....俺だってそうだ。協力関係になっただけで、特に深い意味はねェ。」

藤が「困りましたねえ」と溜め息をつく。風麻一と夜安は互いに別の方向を見る。


─その時だった。


「        コロォ」


突然、甲高い声が響いた。


「「「!?」」」


三人はすぐに声の方を振り向き、騒いでいた子供達も一瞬にして口論を止める。 

──そこにあるのは、運転席だ。


「父ちゃん」

朝日が身体を光らせる。


「....俺が、やる」


夜安が運転席のドアノブに手をかけた。

風麻親子が身体を緑色に光らせ、藤達も続けて蒼いオーラを纏う。

ドアを開こうとしたその時。


「ころおおおおおおおおおぉぉおおぉおおおああああぉおおおおおおお!!」


怪物が声を上げ、ドアが勢い良くぶち破られる!


「しまった!!」


次の瞬間、電車内に大量の怪物達が現れた!

まるで何処かのマスコットキャラクターのような見た目をした奇妙な怪物だった。

顔はまるく、手足は細く短い。目は顔の大半を占めており、口は開かれたまま笑っている。


「きゃあああああああああああッ!!」


怪物達は電車内の乗客に飛び掛かる。


「第一形態──ッ!!」

「夜安!!貴方の能力では他の人達も巻き込まれてしまう!!」

「ッ....!」


子供連れの母親の怯える顔が、夜安の視界に入った。


「クソ、ッタレ──ッ!!」

夜安は無防備な姿のまま、乗客を庇おうと敵の元へ飛び込んで行く。


「父ちゃん!!」

「ころおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


夜安が家族の前に立ちはだかり、敵が攻撃しようとしたその時─!


「「第一形態──、

       ガード!」」


夜安の目の前に、透明な空間が張られた。

それは硬く分厚く、まるで壁のように夜安達を防御している。


「ったく!何て無茶すんのよ!」

「乗客は全員バリアで守った。安心しろ」

「な....どうやって」

「防御力が特化してんの。これがアタシ達の能力よ」


驚く朝日に対し二つぐがそう答えれば、風麻一は身体を光らせ、ベビーカーを回す。


「こお....ろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

しかし。敵は目的を変えたのか、各自飛び上がり電車の窓を割り始めた。


「なっ!?」

「野郎!!乗客達を窓から放り投げるつもりか!!」

沙明が、飛び込みかけた朝日の腕をつかむ。


「んだよ!?」

「適材適所ってやつだ」

「は?」


「第一形態──、

       スピード」


瞬間。金色の髪がふわりと揺れた。

三輪のバギー型のベビーカーが現れ、それを手にし、阿知影津は身体を黄色に光らせる。

黄色の閃光が電車内に現れ、席に座っていたはずの乗客が次々と姿を消して行く。

気が付けばいつに間にか、阿知の息子の光が姿を現していた。


阿知光あちひかり。全員避難させたか?」

「アァ?ったりめーだろうが!!」

「見張っていたおかげで....最後尾の車両まで、全員避難出来たよ....」

阿知影津あちえいつも続けてその場に現れる。


「速度が、特化した能力....」

どうやら阿知親子はこの数秒の間に、乗客全員を二人で避難させたらしい。


「電車の運転なら僕に任せてくださいね~」

運転席からは藤沙暗の声が聞こえる。


「アイツ、運転出来るのか!?」

「運転手の技術と情報を、能力でコピーしただけだ」

驚く朝日に対し、沙明が冷静に返した。


「ころおおおお....ころおおお....」


敵達に目を向ければ、何処か動揺した様子でその場で動きを止めていた。


「所詮は駒だ。乗客を人質にするか皆殺しにでもする予定だったんだろう」

「計画が実行出来なくなって混乱しているのかしら?─まあ、すぐに始末してあげるわ」


二が身体を光らせれば、風麻一はベビーカーを片手に持ち、ぐるりと円を描く。

─瞬間。


「う、わあああああああああああああああああああああああ」


突然!見知らぬ男が天井を突き破り襲い掛かってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る