11.仲間が来るとは聞いていたけど
夜安達の自宅付近からJRの駅まで、車で二十分程の距離がある。
藤沙暗の車で移動し、近くに車をとめて四人は駅前まで向かう。
「んな騒がしい場所で、仲間と落ち合うのかよ?」
「敵は既に僕達の存在に気付いているかもしれません。人が多ければ多いほど、紛れることが出来ますから」
「こんだけ人がいんのに、もし襲撃でもされたらどうすんだよ....」
バスから降りて行く人達の波を掻き分けながら、朝日が嫌な顔をする。
「その心配はないわ」
「って言ってもよォ....って、は?」
突然、聞き慣れない声が朝日の耳に入る。
急いで振り向けば、そこにはテイクアウト用のドリンクカップを手にした少女の姿があった。
緑の明るい前髪と暗い後ろ髪、パーマがかけられたツインテール。そして緑色のシャツに、黒いフリルスカート。
「アンタが冬地朝日?」
「そうだけど....お前、誰だよ」
少女は溜め息を吐くとドリンクを口にした。
「アンタ馬鹿なの?」
「ハァ!?」
顔に似合わない言葉を吐き、ツインテールを揺らす。
「この状況で分かんないのかしら?見た目通りお子ちゃまね」
「アァ?どう見たってテメェも歳変わんねえだろうが!」
「あーた?お前何してんだよ」
中々動かない朝日を不思議に思い、夜安が足を止める。
「今このワケ分かんねえ奴と話してっから、邪魔しないでくれる!?」
「はぁ?ワケ分かんないのはアンタの方でしょ!ガキ!」
「んだと....このババア!」
「...アタシのこと、ババアって言ったわね....!?」
すると少女は、身体を緑色に光らせた。
「ッ!お前ッ」
「仲間が来るとは聞いていたけど....まさかこんなバカだとはね。
──第一形態、」
少女が唱えれば、透明の大きな空間が生まれた。
「おい!?何やってんだ!?」
急いで息子の元へ行こうと夜安が動き出した瞬間─、
「──つぐ。やめろ」
それを止めたのは、緑色の髪をした男だった。
「パパ....!」
少女は男の方を見て、安堵の表情を見せる。
一方朝日は臨戦態勢を取っており、夜安は状況が読めず困惑していた。
明るめと暗めの緑が混ざった髪色。短髪で整った顔立ち、背は夜安よりもいくらかは高い。
白いシャツの上からグレーの上着を羽織り、黒いジーンズを履いた、真面目そうな男だ。
男が手にするA型式のベビーカーは、夜安のものよりも少し大きめだ。
様々な装飾品、水筒入れや小物入れなど沢山の物が付属されていた。
「おやおや。ちょっと目を放したらこれですか」
藤は楽しそうに笑いながら間に入る。
「藤。コイツ達が例の仲間か?」
「そうですよ。彼は僕のパートナーになりました」
男は夜安に視線を向けた。
「....冬地夜安。俺は、
「アタシは
続けて少女が割り込み、ヨロシクね。と挨拶をした。
「誰もテメェに聞いてねえわ」
朝日が嫌味を吐き捨てれば、二と名乗る少女は負けじと言い返す。
「こっちだってアンタに言ったつもりはないけど?」
「ハッ!いちいち突っかかってくんじゃねえよ!ババア!」
「うるっさいわね!このクソガキ!」
そのまま口論を続ける子供達は放置して、夜安は辺りを見渡す。
「あと一組は?」
「ああそれなら、すぐ横にいますよ」
「えっ?」
隣を見れば、そこには金色の髪を揺らす二人の男の姿があった。
「やあ....はじめまして。」
「ッ!?」
(いつの間に!?というか、いつからそこにいた!?)
白いタートルネックにベージュの上着を羽織り、黒いボトムスとブラウンの靴,
そして黒いスカーフを風に揺らした、成人男性の男。
アッシュ色をした短めの髪、傷だらけの顔。絆創膏を鼻に貼り薄黄色のパーカーと黒色のズボンを履いた少年。
「僕は、
「俺は
「冬地夜安クンと、朝日クンだよね....話は聞いてるよ....」
「あ、ああ....よろしくって、あ?」
金色の髪をした親子はそれだけ挨拶すると、いつの間にか姿を消していた。
「何が....どうなってやがる」
まるで気配を感じさせないその行動に夜安は驚きを隠せない。
「ね?曲者ばかりでしょう?まあお喋りはここまで、そろそろ行きましょうか」
「待て、行くって何処に」
「敵の本拠地です。」
「近くに大きな花時計と海があるそうだ」
夜安は驚愕した。まさか敵の居場所まで抑えているとは予想もしなかった。
「....賭けた甲斐はあったみてえだな」
朝日が夜安に近付き、小声で話しかける。
「ああ....そうだな」
夜安はベビーカーの持ち手部分を強く握り締めると、息をゆっくりと吸い込む。
ぴり、と小さな痛みが掌に走った。
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