0.はじまりもベビーカーの傍で

暗くなった辺りには、血の臭いが広がっていた。

情けない呼吸音が脳内まで伝わってきて、もう自分は長くはないのだろうと、そう感じる。


名前を呼びその手に触れれば、慣れ親しんだそれはとても冷たかった。

心臓が大きな音を立てたのと同時に、足音がすぐ目の前まで聞こえてくる。


途絶える事は怖くない。

それよりも、この事実がこわくて仕方がない。


冷たい。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

もう動かぬその手を最後に握り締めた。


(今度こそ、絶対に守る....)


そして次の瞬間─、彼の視界は閉ざされた。

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