第10話 思いもよらぬ訪問者
午後になると二人がやって来る。
屋敷裏の家庭菜園前でお茶をする。
他愛のないおしゃべり。
そうやって三か月が過ぎたある日。
その日もやはり裏庭でまったりしていた。
ドンドンドンドンっ!
突然玄関のドアが荒々しく叩かれる。
「なにかしら、こんな時間に」
「変ね。
ドアはさらに激しく叩かれ、怒声まで聞こえてくる。
「ごめんなさい、お茶はお開き。また今度ね」
「あ、ああ。気をつけるんだぞ。なんだか様子が変だ」
冒険者たちをそこに残して、二人は屋敷の中に戻っていく。
玄関の前で深呼吸し、笑顔で扉を開ける。
「お待たせいたしました。どちら様でしょうか」
そこにはいかつい顔の鎧の集団が待っていた。
「こちらに住まうのはその方らか」
「はい、さようでございます」
いかつい騎士らしき男たちにエリカは一瞬怯んでしまう。
それに気づいたアンナが前に出る。
「騎士様方にはどのようなご用でお越しでございますか」
「この屋敷を不法に占拠している者がいるという訴えがあった。間違いないか」
「訴えられたお方のお考え違いでございます。
毅然とした少女の言葉に、男たちは少したじろいだ。
「ところで皆様方はどちらの騎士様でございましょうか。
アンナはニッコリと笑って続ける。
「近衛のお方ではないのは・・・」
「ぶほっ !」
屋敷の陰で誰かが噴き出した。
近衛騎士団と言えば、文武両道、清廉潔白、血筋がはっきりしていることはもちろん、容姿端麗という条件をクリアしなければ入団を許されない超エリートだ。
残念ながら目の前にいる御仁は・・・うん、残念だ。
「とにかく、室内を改めさせてもらう」
「お断り申し上げます」
アンナがピシャっと返す。
「正式な令状もなく女所帯に押し入ろうとは、なんの狼藉でございましょう。
「口の減らぬ小娘らが。お上に逆らうか !」
「はいはい、おっさん、その辺りで止めておきなよ」
建物の陰からさっきの「ぶほっ !」が出てきた。
「所属も名乗らず命令口調で女の子口説いたって落ちやしないよ」
「何だ、貴様らは」
「庭園管理部と営繕課から依頼を受けた冒険者でーす」
ファーがヘラヘラした笑顔で紙を差し出す。
「日頃手を掛けにくいところを回って現状報告するのが仕事なの。その子たちのことも注意を受けてる」
「なんだと ?」
騎士たちが顔を見合わせる。
「その子たちは
「そんなことは・・・」
「とりあえずどこの騎士団か教えてくれる ? 今日の日報に書かなきゃいけないからさ」
騎士団の親玉は渡された依頼書を見ていたが、それをペシッとファーに投げ返す。
「今日のところは帰る。だが確認してからまた来る。逃げるなよ」
「ご苦労様でございました」
エリカとアンナは深々と頭を下げる。
「冒険者の方々にも感謝申し上げます」
「良いってことよ。じゃあな」
二組の客人を見送り、少女たちは家の中に戻る。
ドアをしっかりと施錠すると、大きくため息をついた。
「アンナ、立派だったわ。誇らしかった」
「正直、負けるかと思った。さすがに冷や汗かいたわ」
「おい、ちょっといいか」
声の方を向くと、裏口からファーとライが顔を出している。
「少し、中で話をしてもいいか。耳に入れておきたい」
◎
「さっきはありがとう。とっても助かったわ」
エリカは二人にお茶を出しながら礼を言った。
「あたし、怖くて全部アンナにまかせてしまったわ」
情けないわねとエリカは悲しくなる。
お茶請けはアンナが用意する。
オレンジの皮を甘く煮たものを細かく刻んで入れて焼いたパウンドケーキ。
このところの二人の自信作だ。
「それで、耳に入れておきたいことってなにかしら」
「待って。その前になぜあの時、
「あんたたちが言ってたじゃないか。
そう言えばそんなことを口走ってしまった気がする。
「それで、さっき俺はあんたたちのことを
少女たちは頷いた。
「そのとき、ライが下っ端そうなのがこう言ってるのを聞き逃さなかった」
黙り込んだ二人にファーが続ける。
「その顔だと、
ポットから自分でお替りのお茶を汲み、ファーは続ける。
「まず、騎士がいきなり鎧姿で現れるなんてありえないぞ。有事の際でもなければ、王宮内では制服か略装のサーコートが精々だ。名は名乗らない、どこの所属かも言わない。正直胡散臭さしか感じない」
「・・・あたしたち、そういうのに疎くて・・・」
「アンナが拒否しなければ、どんな目にあっていたかわからないんだ。危機感を持ってくれ。屋内に入れなかったのは正解だった」
少女二人は自分たちに何が起ころうとしていたのかに気づき、顔を青くする。
ファーはエリカの頭をポンポンと叩く。
「心配するな。こちらでも色々調べてみる。本当に戸締り用心、気を付けてくれ。明日は午前中は人が来るんだったな。午後、早い時間に来る」
エリカは黙ってうんと頷いた。
冒険者二人は帰り支度をする。
「誰か来ても決して確認せずに扉を開けるな。俺たちは裏口を一つ、三つ、一つで叩く。それで判断してくれ。出来る限り力になるから」
「うん、ありがとう、ファー。気をつけるわ」
エリカはファーに肩を抱かれて裏口へと向かう。
アンナはその後に続くライの袖を引っ張った。
「ライ・・・あの、あなたは、その、何かないの ? 注意事項とか」
エリカがファーに気を使ってもらっているのを見て、アンナは何となく仲間外れにされたような気がした。
まあ、寡黙なライが気の利いたことを言ってくれるなんて期待はしないけれど。
「アンナのことは・・・」
「なあに ?」
「・・・僕が必ず守るから」
そう言ってライはギュッとアンナを抱きしめた。
突然の出来事に固まってしまうアンナ。
「あ、ありがとう・・・」
呆然としているうちに、裏口のドアがパタンと閉まった。
「アンナ、顔、真っ赤」
「エリカもよ」
もしかして、前世と現世を通じて、初めてのモテキが来た ?
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