第19話 愛がありません!

 ある日、中途の後輩であるモブ山Bに異世界について持ち掛けられた。

聞くところによると、モブ山Bは趣味―――プライベートで異世界転生を嗜んでいるのだという。

参考にしたいとの事で、社内屈指の転サーである俺の話を聞きたいのだそうだ。

これからひと転生に逝こうと思っていた矢先だが、随分と熱心な様子だったため、俺は時間を取り話をする事にした。


「やっぱ、基本はトラック転生ですか?」

「まあ、大概は。狙って逝けるしな。もちろん他パターンもあるが」

「子供を庇ったりも、ありますよね」

「通り魔に刺されたりもな」

自ら『嗜んでいる』と言うだけあって、色々と話は通じるようだ。


 俺たちは、異世界転生のアレやコレについて、語り合った。

あまり異世界転生について他人と深く話す機会はなく、話に花が咲いていると、思ったのだが。

「え?そんなに早く帰還するんですか?」

「まあ、効率よくいきたいしな」

「そんな!それは、間違ってると思います!」

なんだか、雲行きが怪しくなってきた。


「じゃあ、貰ったチートで、試行錯誤しないっていうんですか?」

「ほとんど、既に持ってるので間に合うし…」

「複数の美少女ハーレムを堪能したりは?」

「いや、だって9割方、人格の欠片もないし…」

「異世界人相手にドヤ顔で知恵を見せつけたりは?!」

「さすがに知能が低すぎて張り合いが…」

「そんなの、そんなの、愛がないです!!」

「ファッ?!」

モブ山Bは、熱弁を振るい、目頭には涙を溜めてすらいる。


「いや!俺も気が向いた時にはチーレム楽しむし、ドヤる事もあるよ?!」

俺は慌てて取り繕う。

「先輩の、先輩の異世界転生には、愛がありません!」

「愛…だと…」


 モブ山Bは語る。

どれだけ見覚えのある能力でも、それを駆使し障害を乗り越えるべきだと。

どれだけ人格が無かろうと、ハーレム要員全員を愛でるべきだと。

どれだけ住民の知能が低くとも、ドヤって見せるべきだと。

どれだけ、イジメだけ生々しくとも、それを甘受すべきだと。


 俺は、正に目からウロコといった心境になった。

俺の、俺の異世界転生には、なんと愛が無かったことか。

「モブ山B…俺が、俺が間違っていた…」

「先輩…」

「モブ山B…」

「これからは、ちゃんと、俺tueeキョトン顔、してくださいね…」

「あぁ…」


 もう一度、初心に帰ろう。ひとりの転サーとして。

俺は、そう強く思った。


 そして、俺は、心機一転し、手頃なトラックを探し―――。


 転生直後に魔王を秒殺した。いや、仕事なんだから効率重視だし。

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