第18話 何もかも全て
「さて、まずはサイトーパイセンか。確か一人だけ学園に残ったはず…」
俺は、狸親父と共に空間転移し、初期地点の魔法学園へ赴いた。
パリピなサイトーパイセンなので、不安が残る。
学園をテンアゲなクラブ風にしてなきゃあ、いいが…。
「おぉ月形!こっちだぜフゥ~!」
「ウェーイっすー」
どうやら、学園は元の形を保っている。
と、いうことは真っ当な学園ハーレムを謳歌したという事か。
「ちょ、パイセン!これは一体?!」
「いいだろ?ここが俺のハーレムだぜぇ!」
そういうパイセンを囲む20人程の美少女達は―――全員が黒髪ぱっつんだった。
「…こーゆーのが、好みなんスね…」
「ウェ~イ!」
正直、誰一人見分けがつかない。
いくら好きでもコレはないだろ!怖いわ!
「もお、行きますよ!そろそろ合流しましょう」
「じゃ、みんなの所で新しい黒髪ぱっつんでもスカウトすっかな~!」
まだ増やすのかよ…。
次は永山さんだ…確か郊外でスローライフをしていたはず。
「あっ月形君ちょうど良いところに!その子をつかまえて!」
「おっとなんスか!ほら捕まえた!…この子供たちは?」
「なんか孤児院してたら、増えちゃって…」
一体何人、というか何匹、というか。
小さな孤児院には詰め込まれた、大勢のモンスター幼女たち。
ゴブリン幼女、オーク幼女、ドワーフ幼女にエルフ幼女。
あぁ、アラクネ幼女やスライム幼女まで…あれはヴァンパイア幼女か?
「あらあら、お友達ですかぁ~?」
孤児院から、一人の金髪巨乳おっとり系シスターが出てきた。
「あ、どうも。月形と申します。お世話になっております」
サラリーマンの習性として、取りあえず会釈をしてしまう。
「永山さん、この人は…?」
「これは!孤児院経営が大変だから、その、手伝いっていうかね?」
「…巨乳ですね」
「…嫁がビキニアーマーなのに貧乳だから…いや、ちが、そうじゃなくて」
「…」
「嫁には!嫁には黙っててくれよな!」
「はぁ~」
ちなみに、はめ太郎は4メートル程に育っていた。
さて、恒山先輩はどこに。
俺は限界まで高めた魔力で極限まで精緻化された究極の探査魔法を使う。
…隣国にいるな?何故そんな所に。
俺たちは、先輩を探しに隣国まで飛翔魔法で翔んだ。
「…なんだ、お前たち」
「内政チート系ッスか?そろそろ、行きましょう」
会議中らしい恒山先輩をつかまえる。
「もうか?きたばっかだろ?始まったばっかだぞ」
「いや、もう結構経ち…」
俺たちが話している間も、大臣達からの報告は止まらない。
「陛下、金山の産出量についてですが…」
「A国との友好条約が…」
「福祉政策の見直しを…」
「先月比較で税収が…」
「陛下…」
「いや、なんでこんな面倒な事してるんですか」
「そうだよ。内政系ならチートでしょ?」
「はぁ?馬鹿かおまえら。そんな事したら楽しくないだろ」
「これ、いつまで続くんだぜぇ~?」
「あと四千年くらい君臨して、強固な帝国を築き上げたいんだけど…」
いや、そういう世界じゃねーから!
「あっ待ってくれ!憲法!憲法だけ制定しなおさせて!あと軍備の見直しと港の改修工事も!」
「はいはい、行きますよ!」
四千年も、地味な内政を続けられてたまるか。
「なんか真面目に冒険してたの、アタシ達だけだねー」
うるさい。乳を押し付けるな。あとアタシとか言うな。
「後は…武井だけだな」
最初に武井がどこへ向かったか、そういや見ていないな。
「武井君なら、最初の国の王宮に向かったような…?」
「おう、俺も見たぜぇ~。ウィー」
「王宮か…取りあえず、行ってみますか」
俺たちは元の国へ戻り、王宮へ向かった。
武井のヤツ、王宮で何を?恒山先輩の様に内政をしているようでもないし。
王宮をくまなく探すも、武井の姿は無い。
「後は、ここだけなんだが…こんなトコにゃ、いないよな…」
美しく彩られた離宮の中庭、鳥のさえずりが聞こえる。
「あぁ、そなたの瞳は薔薇に溜まる露よりも美しい…」
「あぁ…我が愛しの王子…」
そこには、イケメンイケボの王子と、それにうっとりとしなだれる武井の姿があった。
「おい武井!お前、何してんだよ!」
「だっ誰よアナタ達!…ん?月形か?」
武井は、ヒラヒラフリルのワンピースを着ていた。
「おまっ…」
「あっ!違っ!」
「…ヒュー…」
「ぅわぁ…」
「なんだ貴様ら!俺の篤弘を奪いに来たか!」
「おっと違いますよ王子!僕らは、トモダチ!ただのトモダチ!」
「そうよ王子。アタシ達の愛は誰にも邪魔させないわ。大丈夫、少しだけ待ってて…」
つまり、そういう事らしい…。
「いやあ、ははは。これはアレなトコを見られたな!」
誤魔化す武井が白々しい。
俺たちは、武井から一歩距離を置いた。
「やめろって!違うっつってんだろ!」
武井は、キレた。
どうにか集まった俺たちは、収集のつかない事態に頭を抱えた。
「どうすんだよコレ…カオスすぎんだろ…」
「俺の…帝国が…」
「…上手い事、ヒロインを陥れた所だったのに…」
「どなたか、ここから話をまとめる妙案はありませんか?」
「地味な内政で地盤を固めてる国が隣にあって、幼女あふれる孤児院を内に抱え、頼りの魔法学園は黒髪ぱっつんだらけ…しかも王子はヒゲゴリラな武井に夢中、と」
「マジ…この国こっからどうすんの…」
「討伐ランクがSからSSSまでのモンスターは全部アタシ達が倒しちゃったし…」
プロジェクトなんて、いつだって行き当たりばったりだ。
「…だから、最初に方針決めるべきだと思ったんだよ!」
「そもそも俺の意見を聞いておけば!」
「当時の資料残ってないの?!」
「このままじゃ未完だよ!」
出たよサラリーマン特有の責任擦り付けあいが。
こうなると比較的仲の良い俺達でもアウトだ。
「…わかりました!仕方ない、やりたくは無いですがこうしましょう!」
「なにか、良い手が…?」
「時間を、戻します。何もかも全て」
俺は、指パッチンでこの世界の時間を巻き戻した。
その後は秒でグッドエンドだ。
…結論。船頭多くして船山に上る。サラリーマンあるあるだ。
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