第17話 パッシブ・トリップ

「さて、六人か。どうする?」

「大型トラックでは、ダメかな」

「流石に六人は同時は」

「不運な、事故ねぇ」


 何時ものように、手頃なトラックに飛び込むアクティブ・トリップは難しい。

我々はそう判断し、タイミングは読めないものの、パッシブ・トリップを試みる事にした。

社内の使われていない一室をプロジェクト専用室とし、通常業務を進める。

狸親父には当然仕事はないが、学生向け集団転移だと担任教諭が同時にトリップするパターンもある。

おそらくは、大丈夫だろう。


「…来ないな。ブチサゲー」サイトーパイセンが両手を上げる。

「待つしかないね」永山さんは、謎ペットのティンポコはめ太郎と遊んでいる。

「…腕がなるぜェ~」恒山先輩は、ショットガンの手入れをしていた。

「あぁ…俺の王子が…」武井はどうやら乙女ゲーを悪役令嬢視点でプレイしているらしい。


「ねえ、なんか…」

狸親父が窓の外を指す。

「来たみたいです」

俺がそういうやいなや、室内は謎の光に包まれた。転移の光だ。


「う…ここは…」

「マジブチアゲっしょー?」

『…お前たちは…選ばれたのです…』

清楚ローブ大胆露出系女神が、現れ、以下略だ。


「さてどうするかな」

ざっと俺が調べたところ、この世界もベタな俺tuee系学園チーレムだ。

俺たちもみな、15歳の肉体を与えられている。


「冒険、しちゃう~?」

ちょ!狸親父!なんでまた赤髪つり目のチビ巨乳になってんだよ!

「今回も、しっかり守ってよね!」

だから乳を押し付けるな。乳を。


 俺tuee系学園チーレムに六人は多い。

なんならベタなお涙頂戴要員として数人の死人が出る可能性もある。

「仕方ない。ここは一旦、別れよう」と俺。

「素敵な王子…いるかな…」と武井。

「美少女だぜウェ~イ!」とサイトーパイセン。

「あっこら、はめ太郎!勝手にいくな!」と永井さん。

「貴族制度下における学園というのはそもそも…」アンタはキャラを固定してくれ、恒山先輩。


 差し迫る脅威は無いものと判断し、俺たちは別れた。

いつもなら、各種チートとレアスキル連発で無理やりイベントを起こすところだが…。

「ねぇ~アタシ達はどうするぅ~?」

なんで俺についてくるんだよ。なんで一人称がアタシになってんだよ。

俺は突っ込み切れないツッコミを抱え、元狸親父、現赤髪つり目のチビ巨乳と行動を共にした。


 あれから数か月。

俺と元狸親父は、ベタな冒険者としてベタな冒険者ギルドに登録し、ベタなモンスターを倒し、ベタに知能の低い住人たちにドヤ顔をして過ごした。

「すっすごいわっ!眠るときに枕を使うと安眠できるなんてっ!」

「だれもこんなの思いつかないぜ…天才だ!」

ドヤァ!


 不満があるとすれば、元狸親父がヒロインポジションのため、他にはいかにもモブな女キャラしか登場しないことくらいだった。

そんな生活にも飽きが来た頃、他のみんなの様子を見に行くことにした。

しかし数か月も放置してしまったのが悪かっただろうか。


 まさか、あんな事になっているなんて…。

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