第12話 何故、そんなことを?
永山 大輔、31歳。情シス所属、既婚者。
人付き合いも良く、普通に仕事をこないしている。
はた目には、ごくごく普通のサラリーマン―――。
だが俺は、彼を疑っている。
彼は、おそらく異世界転生者、または異世界転生関係者だ。
そうと疑いだしたのは一週間ほど前の事。
偶然、全くの偶然で、彼が自分の鞄に話し掛けているのを、見かけてしまった。
「おい!会社に付いて来ちゃだめだろ、まったく!」
そして鞄から覗いて見えた、もふもふとした謎の生物―――。
あれは、おそらく人語を解するタイプのマスコットキャラだ!
そんなものが、何故この世界に?
理由は一つ。
彼が何らかの主人公ポジションだということだ。
夢見がちな者なら、『美少女宇宙人が出てくるドタバタコメディなんじゃ?』などと言うかも知れない。
だが、そんなものはアニメや漫画の話であって、ここは現実だ。
そんな子供の夢想が、現実に起こる訳もない。
だが、異世界転生なら話は別だ。
それは、現実だからだ。
異世界からこの世界への逆転生―――そんなパターンも、中にはあるかも知れない。
もしそうなのだとしたら、社内異世界担当者として、看過はできない。
状況を正しく把握し、然るべく措置をしなければ。
もしこの世界に多大な影響を与えるタイプの転生だとしたら、最悪彼には『未完』のルートも―――。
俺は、ひと気が無い頃合を見計らい、意を決して彼に話し掛けた。
「永山さん、貴方、転生者…または、転生者が、側にいますね?」
彼は、ゆっくりと、こちらに振り向く。
「月形君か。意味が解らないな…君は、何故、そんなことを?」
二人の間に緊張が走る。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
「…謎のイキモノを、見ました」
「ほお…それで?」
「…先日、モブ子Aとの、ラッキースケベも、ありましたね?」
「おいおい、そんなの、ただの『ちょっぴりえっちなラブコメ』かも、しれないじゃあないか」
彼は、ゆっくりと立ち上がる。
ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ
「中に!浮いてる!見えない何かを操作していたッ!!」
「!!」
「アレは、ステータスを、見ていたんじゃあ、ないスかねぇ?!」
「キ、キサマッ!!」
結論からいって、彼自身は異世界転生者ではなかった。
どうやら皆が奥さんだと思っていた人物が、実は異世界からやってきたのだという。
ある日突然、部屋に現れたのだそうだ―――ペットの謎生物を連れて。
しかも聞けばビキニアーマーを着たポンコツ褐色エルフだとの事だ。
褐色エルフ…課長が羨ましがるだろうな。
ポンコツ褐色エルフは人気が高いため、嫉妬を恐れてみなには黙っていたようだ。
どうも、ほのぼの日常ライフをエンジョイしているだけとの事。
危険はないと判断し、胸を撫でおろす。
「みんなには、ナイショでな?」
「わかってますよ。特に課長には」
正直言って羨ましい。現実世界を現実通りに生きる俺には、ラッキースケベなどないのだから。
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