第10話 ちゃんと守ってよね!

「いやぁ~悪いね休日に!」

「いえいえ、たまには息抜きも、必要ですよね」

「楽しみだなぁ~、異世界美少女!」

俺は今日、この狸親父と異世界転生をする。


 仕事上の関係者―――取引先だが、どうしても異世界に転生したいというので、仕方なく異世界慣れしている俺が、案内する事になってしまったのだ。

接待転生になる事は目に見えているので、正直余り気が乗らない。

しかし今日の転生は記録に残すつもりもないし、気楽にやらせてもらうとしよう。


「おっ!あれは、あのトラックはどうだい?」

「2トントラックですか…ちょっと衝撃力に不安が残りますね。少なくとも4トン。出来れば8トン以上で、後ろはコンテナが良いです」

「ほぉ~、難しいもんだねぇ」

そんな事も知らずに異世界転生がしたいなんて、のんきなものだ。


「ん、良さそうなトラックが来ました」

「いよいよかい!」

「逝きましょう!…今ですっ!」


 そして俺たちは、気付くと薄暗い空間に不思議と浮かんでいた…転生前の亜空間だ。

「つきましたよ、というか、始まりますよ」

狸親父に声を掛けるが、返事が無い。

というか、居ない。

代わりにそこに居たのは…。

「もぉ…異世界、来ちゃった?」

赤髪つり目のチビ巨乳が、そこに居た。


『では、生まれ変わるが良い、二人の勇者よ…』

「ちょ!おい!待てよ!!」

俺の叫びも空しく神は消え、俺たちは見知らぬ世界の草原に、立っていた。


「ねぇ~月形君。ここが異世界~?」

元狸親父、現赤髪つり目のチビ巨乳が甘ったるい声を出す。

「なんだか怖いなぁ」

ええい五月蠅い。

なんでなにがこうなった?ホワイ!

しかも初っ端から魔物が次から次へと。

どうやら数々の魔物が跳梁跋扈するハードな世界を、この元狸親父と旅する必要があるようだ。


「ふざけるなぁ~!」

俺は、空に叫んだ。

「元の世界に戻れるまで、ちゃんと守ってよね!」

乳を押し付けるな、乳を。


 ご都合主義的に人々を救い、ご都合主義的に人々から感謝される。

どこの異世界も変わらないが、地政学を無視した意味不明なゲーム世界で、俺はステータスを眺める。

過去取得した『ステータス永続継続スキル』のお陰で、俺はステータスのある世界では、毎回数値を持ち越している。

どうやら最初に与えられたスキルを駆使し、少しずつ先に進むタイプの異世界だったようだが、俺のステータスはどれも振り切れているし、スキル一覧も枠から盛大にはみ出ている。


 いや、いいんだこの異世界の世界観なんて。

問題は。

問題は、ヒロインポジションはこの元狸親父ただ一人だということだ。


 俺は、まったく上がらぬテンションと、元狸親父の乳に挟まれながら世界の謎を解き明かした。


「いやあ、楽しかったねぇ。美少女がいなかったのが残念だけど!」

「いやあ、ははは」


 もう、素人を異世界に連れて行くのは止めよう…。

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