第9話 聞いてくれよォ~

 デスクで異世界転生データを眺めていた、ある日。

「月形よぉ~」

「あ、サイトー先輩」

彼の名は斉藤 彼方。部署違いの先輩だ。


「ちょっと異世界転生で愚痴聞いてくれよォ~。オマエ詳しいだろ?」

「まぁ、ちょっとなら」

正直、彼の軽いノリは苦手だ。

いつもチャラチャラと、パリピ感を出している。


「俺もお前みたいに異世界転生したら、しくじっちまってよォ~」

「しくじった?」


 彼の話は、こうだ。

ある日思い付きで異世界転生をしようとしたらしい。

そして手頃なトラックを探したが見つからず、ようやく見つけた反対車線のトラックに勢い飛び込んだものの、その前にうっかりとおばちゃんの乗る原付バイクに撥ねられてしまったようだ。


「それで転生はしたんだけどよォ~、チート能力はくれねーし、ヒロインは原付乗ってたBBAだし、結局世界は滅んだしマジ最悪だよォ~」

「ぁ~、それは災難でしたねー」

「ま、オマエも気ィつけろよ」

「うす、あざす」

彼は、俺の肩をぽんぽんと叩き、去っていった。


 異世界転生にも、マナーというものがある。

作法を守らなければ、ズレた世界に飛ばされる事だってある。

ちょっとした失敗譚として笑い飛ばす事はできない。

何せ、俺はそれを仕事でやっているのだから。


「よし!」

俺は自分の頬を叩き気合を入れ、立ち上がった。


「異世界回りに行ってきます!」


 サラリーマンに、休息は無い。

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