第8話 一緒にどう?

「お世話になっております~」

「あ~どーもどーも」

今日は、以前迷惑を掛けた客先に出向いている。


「で、その後異世界転生は?」

「お陰様で、ぼちぼちといった所です」

「うんうん、そーかそーか。ま、ウチは注意してもらえばそれでいいから」

「申し訳ございません。助かります」


 特に用事がある訳ではないが、大事な取引先なので、時折顔を出してご機嫌伺いをする必要があるのだ。

客先での雑談も、大事な仕事だ。

この客も、見たまま狸親父だが決して悪い人物でもなく、会話も苦ではない。


「そーだ、今度こっちのほう、一緒にどう?」

狸親父は、見えないゴルフクラブを振り回す。

「私、ゴルフはちょっと…」

「そーか。残念」


「じゃあ、こっちは?」

今度は、腰から見えない剣を振りぬく。

「…転生、ですか?」

「そうそう。いるんでしょ?ビ・ショ・ウ・ジョ」

狸親父は下卑た笑いを隠そうともしない。

やれやれ、困ったものだ。

「弊社としましては…まだご案内できるほど商材が揃っておりませんし」

「そこを、なんとか、ね?」

「…プライベートでということでしたら、まあ、機会があれば」

「十分十分!いやあ楽しみだなあ!」


 帰り道、俺は溜息をもらす。

「一人で行くのも大変だってのに、オッサン連れだなんて、はぁ…」


 気落ちしても仕方がない。

俺は帰社前にひと世界救おうかと、目ぼしいトラックを探す。

あぁ、あのトラックでいいか…。


 すこし、憂さ晴らしも、してこようか。

「そーれっ!」


 そうして俺は例によって例のごとく、異世界転生特典となるチート能力を得たが、『パっと見使えないけど後から開花する系』の能力だった。

だが俺は怯まない。

俺には既に数々のチート能力が備わっているからだ。


 俺は、鬱憤を晴らすように無双に無双を重ね、ハーレムに次ぐハーレムを楽しんだ。

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