第37話 ガーデニング

 GWに突入した。

 僕達は燿や彩乃さんが頑張っている事を思い、旅行はやめて家で過ごす事にした。

 マンションの1階はベランダがない代わりに、専用庭というものがあった。そこは洗濯物干し場だけ使用していて、普段手入れしないので荒れ放題の雑草だらけになっていた。

 折角のお休みだから、その専用庭を綺麗にしたいというのが美怜の希望だった。


 まず物干し場の撤去から始めなければならない。


「突破らって部屋干しにしようか?」


「という事は~、部屋もそのように片付けて突っ張り棒でも付けるか!」


 2LDKで1つは寝室、もう1つはタンスと物置部屋になっていた。


「先にどっちからする?」


 庭の物干し場を片付けてから聞いた。


「草むしりだネ!明るいうちに出来る事しなくっちゃ!」


「なるほど」


 朝ごはんを食べてすぐ取り掛かった。雑草は根が深く容易に手で引っ張る事は出来ない。家にはガーデニング用具などなかった。


「いったんホームセンターでも行く?」


「行こ!」



 車に乗り込み店に向かう。


「あ、除草剤があるよ?」


「ダメだよー、次にお花植えるんだから」


 そういうもんなのか、僕はあまりよく分かっていない。

 熊手、スコップ、突っ張り棒、軍手等をカゴに入れた。


「花は買わないの?」


「また今度。すぐに植えられないと可哀想!」


 そうだった…美怜は花が好きなんだった。なら今、楽しいだろうな。そう思うだけて嬉しかった。


 家に戻り早速草むしりが始まった。強くなった日差しは容赦なく照りつける。だが苦にはならなかった。なぜなら美怜とずっと話しながらの作業だったからだ。

 雑草を抜き終わると、美怜は雑草の太い枝を持ち線を描き始めた。


「ここに花壇、この端に何か木があるといいな。ここにガーデンテーブル。あ、BBQも出来そう!」


 結構広い敷地で、目隠し用の木のオシャレな柵がありプライバシーも保たれるだろう。


「ちょっと待てよ。買い物をメモしよう。花壇ってなんだ?」


「花壇は花壇だよー!お花を植えるの」


「いや、それ位は分かる。柵とかレンガとか囲う?」


「ん~どうしようかなぁ。一応花壇の柵って書いてて。お花の色とかと合わせたいんだ~」


「ふむ、んで、何かな…木だな。テーブルにイス。BBQセット…こんなもんでいいかな?」


「ライト!花や木を照らすライト」


「ライトね」


 庭の灯りは予め備え付けがあったので、その辺は大丈夫だろう。

 時間を見ると3時を回っていた。昼飯も食べずに汗だくだ。


「美怜、お腹空いたなー」


「今日はここまでにしようか!」


 さやかといる時は主導権は常に僕だった。そして甘えるのもさやかと決まっていた。

 美怜はいつも気遣ったリーダー役。そして甘える事もなく、逆に優しい美怜についつい甘えてしまう。

 相手によって自分が変わるという事を初めて知った。



 木は紫陽花を買い隅に植えた。花壇はアイボリーのレンガを買い囲み、そこに美怜が様々な色の花を植えた。全てが宿根草で毎年きちんと世話をしてあげれば咲くらしい。

 ガーデンテーブルとイスは、パラソルの付いたホワイトの4人がけを頼み運んで貰った。


 こうして3日目、美怜が設計したガーデンが出来上がった。

 夕食の後、2人でガーデンのイスに座りライトに照らし出された花々を見つめた。


「うちガーデン作るの夢だったんだ~」


 ワインでほろ酔い気分の美怜が、何とも幸せそうな表情でそう言った。


「それなら早く言えばいいのに…」


「うん…そういうのって自分から言うのは苦手」


 美怜の性格からしてそうかも知れない。だがやはり言って欲しい。


「他にはないの?僕には何でも言って。美怜を幸せにしたいんだからね」


「ありがとう。他…何かな~今幸せ過ぎて分かんないよ」


「僕といる事?それともガーデンが出来た事?」


「両方だよ!」


「告白した時に美怜言っただろ?今まで生きてきた中で1番幸せって…その時よりも今は幸せなの?」


「もちろんだよー!」


 今の幸せよりも先はもっと幸せなのかな。それとも年月と共に霞んでしまうのかな。未知の事で分からない。


「何考えてる?」


「幸せについて…」


「今が幸せならそれだけで十分だよ。明日の事なんて分かんない」


「不安にならない?」


「ならないよ…うちはずっとずっと不幸だった…だから今が幸せだけで十分に思える」


 なるほどな、わかる様な気がした。

 美怜と2人で有意義な休日はその日で終わった。


 次の日、彩乃さんから美怜に連絡が入り、彩乃さんの兄義文さんが行方不明になったらしい。燿も呼びそれを伝えた。


「どこに行ったとも分からず探しようがないな」


「警察には言って無いんすか?」


「だってもう立派な大人だよー?自分の意思で家出たんじゃないの?」


「探偵雇うか?」


「あ、それいいかも!以前友だちが浮気調査で使ってたよ」


「高くないすか?」


「どうかな~、ま、その辺も相談してみようよ」


 探偵に頼み義文さんが見つかったのは、3日後だった。

 ここから車で40分位の所にある繁華街で、女の人と住んでいるらしい。

 あの真面目で寡黙な人が…親に内緒で飛び出して、連絡もしないとは信じられなかった。

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