第34話 告白
3時を過ぎ小腹が空いたので、お茶処に入った。
「うわ~、何しよっかなぁ」
メニューには甘党の物が沢山あった。それが抹茶とセットになっているようだ。
「全部食べたいけど…ん~そうだなぁ。葛餅きな粉黒蜜と抹茶!日向は?」
「そうだな~、抹茶ゼリーと抹茶」
運ばれて来るとオシャレな器で抹茶のグリーンが引き立つ、いかにもインスタ映えするものだった。
美怜は綺麗に並び替えスマホで写真を撮った。
ゼリーの甘みと抹茶の渋みが最高にマッチする。そこでも2人の会話は途切れる事は無い。
少し長居してしまったかな。外に出るとひんやりした風が吹いていた。人通りも少なくなっていた。
さっき座ったベンチも、込み合っていたのにめっきり人が少なくなっていた。谷合からの風が吹きちょっと肌寒いからだろう。
「美怜、寒くないか?大丈夫?」
「うん。平気平気!」
ここなら告白しても誰かに聞かれる心配はない。
「美怜…」
「ん?」
「ちょっと話しがあるんだ。その為に今日誘った」
「ふむ…何よ改まって」
「美怜とは、もう長い付き合いだよな。その中でいろんな美怜を見て来た」
「うん…」
「それで気付いたんだ。僕は美怜が好きだ。大好きだ」
「……ぇ」
「美怜にはかなり前に告白してもらったけど、今もその気持ちに変わりはない?」
「ないよ。むしろ好きが増したかな」
「ありがとう、嬉しいよ!僕と真剣に付き合ってください」
なぜか告白する時には丁寧語になってしまう。ベンチに座っているため頭を下げること無く美怜の目をしっかりと見つめて言った。
「……日向…無理」
ずっと目を見ていたが沈黙の後、彼女は俯きそう小声で言った。
美怜が拒む理由は分からなかったが、なぜかすんなりとOKを貰えるとは思っていなかった。
「どうして?」
「さやかちゃんはどうするの…」
「もう僕はさやかを好きじゃないよ。過去の人なんだ」
「……ん~、そっか」
「なら、OK?」
「いや…母親見たでしょ?あんな母親なんだよ?父親は誰か分からない。本人も分からないんだ。そういう奴…。」
「うん、それが?」
「うちはしっかりとそんな母親の血を受け継いでしまった…。日向にはもっと素晴らしい人が似合うよ」
「そうは思わないな」
「それと……実は鬱病は初めてじゃないんだ。だから何かあってまた発病するかも知れない…」
「また僕が守る」
美怜はずっと自分の足先を見ていたが、その言葉で僕の方をしっかりと見た。
「……本気なの…?」
「本気だよ。何も心配しなくていい。迷惑だなんて思わなくていい。僕が美怜と共に歩きたいんだ」
「……また、母親は来るよ。アイツはそういう奴なんだ」
「引越ししなくてはね、一緒に住む家に」
「えっ?!」
「同棲して欲しいんだ」
「そこにもまた探し出して来るかも知れないよ?いいの?」
「そのための同棲だよ。母親からだけじゃない。いろんな事から美怜を守りたいんだ」
「……」
美怜は泣き出した。僕は彼女を抱きしめた。ひとしきり泣いた後
「今まで生きてきて…こんなに幸せな気持ちになったの初めてだよ……日向」
「ん?」
「ありがとう……うち日向を幸せにするから。絶対するから!」
「それ、お前が言うの?じゃぁ、そっくりそのまま返してやるよ。きっと幸せにする、一緒に幸せになろうな!」
「……うん」
周りを見渡すと人1人居ない。夕日がゆっくりと傾き雲と辺りを淡いオレンジ色に染めていた。
彼女を抱きしめたままキスをした。
「美怜の待っていた夕焼けだよ」
美怜は立ち上がり当たりを見回し空を仰いだ。
「うち、この夕焼け絶対に忘れない。絶対絶対に忘れない!」
「写真は?」
「ううん、心に刻むの!こんな気持ちで見た夕焼けは写真なんかに収まらないんだ!」
そう言うとまた溢れた涙を拭った。
「美味しい物食べに行くか?」
「行く!」
2人はどちらからとも無く手を繋ぎ、坂道を夕日に照らされた梅を見ながらゆっくりと下った。
車に乗り帰り道、もう辺りは暗くなっていた。
「うち、日向の彼女…」
不意に美怜が呟く。
「そう」
「……なんかまだ信じられないよ」
窓からの景色を見ながらまた呟く。
「何かルール作る?これはして欲しいとか、これはして欲しくないとか有れば言って」
「今のままで変わらずにいて。それだけで充分…」
「僕は変わらないよ。ずっとずっと大切にする」
美怜は運転する僕の方を向いて
「ありがとう」と言った。
半分位走った所にオシャレなレストランがあったので、そこで夕食をとることにした。
「彼女さん、何でも好きなものを食べて下さいね」
「やだ~いつも通りじゃないじゃん!」
2人で笑いあった。美怜が幸せを感じる以上に、僕も幸せを噛み締めていた。
2人で住みたい所を言い合い、引越しの話題に夢中になって話した。
旅行も行こうという話にも、2人で笑いながら喋った。
絶対に離さない。絶対に守りたい。僕の気持ちは揺ぎのない物になっていた。
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