第33話 春先公園
昨夜は泣きじゃくる美怜を家に泊めた。
「眠れた?」
「うん…少しは」
「仕事休んだら?ここでゆっくりしてるといいよ」
「ありがとう……でも行きたい」
2人で車通勤をする事にした。美怜の家族の話は一切していない。彼女が本当に話したくなったら、聞いてあげたい。
「帰りも一緒に帰ろ。6時には終われるから…」
「…うん」
額の傷を前髪で隠しながら彼女はそう言った。
会社に着くと燿が心配してやって来た。
「電話出来ずごめん」
「それはいいっスよ!何があったんすか?」
「美怜のプライベートな事なんだ…だから……」
「分かったっス!問題無ければそれでいいっス…」
「うん…ごめんな。ランチ一緒に出来る?」
「あぁ、いいっスよ!ちょっとアポが入ってて、1時なら大丈夫っス」
少し早めに着いたので美怜にLINEを送った。
-大丈夫か?疲れてないか?
-平気平気!心配しないで仕事ガンバ!
元気を装った内容だった。美怜らしいな…。
「お待たせっス!いや~やっと注文頂けたっスよ!」
燿が急ぎ早にやって来てそう言いながら座った。
「お、やるね~!おめでとう」
「あざーすっ!何食うかなぁ」
2人でハヤシライスを注文した。
「で、なんスか?美怜の事じゃないすよね~」
「うん、自分の事」
「ホッ!珍しいすね」
燿は何でも話てくれる。僕も燿にはそうしたいと思ったのだ。
「美怜に告白して付き合うつもりなんだ。イヤがっても付き合う!」
「どしたんすか…」
「守りたいんだ。彼女の全てを守りたい」
昨日の1件で心からそう思った。彼女は自分の事は言わない。泣きつきもしない。人の事を最優先する性格だった。だからこそ自分が傍に居て彼女を1番大切にしたかった。
前から気づいている…確かに彼女を好きな事。一緒にいて不快にならず楽しめたのは彼女の気遣いや優しさだという事。
「それで燿を見習って同棲する」
「ほぉー、何か珍しく強引じゃないすか。まぁ、元々美怜は日向を好きっスからね!」
「強引かな~?」
「日向にしては強引と言うか~思い切ったというか~」
そうだろうな…奥手だったのに、今は彼女を守りたい気持ちが強い。迷惑をかけるのが嫌いな彼女、頼るのを良しとしない彼女。だからこそ少々荒っぽいが「うん」と言わせる。
底抜けの明るさを取り戻す為に…。
「僕に先に言ってくれただろ?プロポーズの時。だから燿に先に言いたかったんだ」
「あざーす!嬉しいっすよ!成功祈ってるっす!」
「うん。必ず報告するよ」
夕方仕事が終わり営業事務課に向かった。美怜の姿がなかった…。
「さやか、美怜は?」
「少し気分が悪いからって昼過ぎかな?帰ったよ」
アイツめー、また心配かけないようにしたな…。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない。ありがとう、お先」
さやかにそう言って事務所を飛び出した。
美怜の部屋に行ったが留守だった。電話をしてみた。
「美怜、今どこ?」
「警察に呼ばれて帰るところ」
「どこの?迎えに行くよ」
「いい、電車で帰る」
「じゃ、瀬川駅に行くよ」
「もう!いいの!大丈夫だから」
断られてしまった。迷惑をかけたく無いのはわかるけど…甘えたり頼ったりして欲しかった。
そうか…ちゃんと告白して彼女になったら、そういうのも無くなるかな…。
休日の朝早く、何を着ていこうかと悩みに悩む。オシャレなんて縁遠いが今日は決めて行きたい!美怜に告白するからだ。
うんと悩み淡いブルーのシャツにブラックのチノパン。悩んだところで持っいる服があまりないのだ。こんな事なら買っておけば良かった…。
下りると美怜は珍しく先に来て、車の横で待っていた。
「ごめん、待たせたな。準備に手間取って…」
「なんか、オシャレした?」
「えっ?いや……」
そうなんだけど、改めて指摘されると恥ずかしい。
「で?今日はなにかな?」
美怜には時間を空けといて、としか伝えてないので不思議そうに聞いて来た。
「海行かない?」
「え?そんな革靴で?」
あぁー、オシャレするのに夢中でTPOまで考えてなかった…。
「そ、そうだよな…美怜行きたい所ない?」
人任せにする僕…ん~冴えない奴。
「なになに?用事じゃなくて、もしかしてデート?」
「ま~、そんな所かな…」
「ほぉー、遊園地以来だね!行きたい所あるよ!」
「どこどこ?」
「【春先公園】!ネットで見たんだけど今梅が満開だよ?行って見てみたいんだ!」
「よし、行ってみよう」
ナビを設定し目的地【春先公園】に出発した。
「ちゃんと前もって分かってたら、お弁当作ったのにな~」
「ごめん…」
「謝らなくていいよ~。でもさデートコースきっちり設定されるより、うちはこういう方が好きだよ!」
美怜らしいナイスフォローだった。
2時間位車を走らせ、やっと【春先公園】に着いた。
駐車場も列をなし、込み合っている様子。
そこから徒歩で小高い丘を登って行くのだが、両脇には1面梅が見頃を迎え咲き誇っていた。
「きれーい!」
ここにいる人達もそうだが、美玲もスマホをかざし写真を撮っていた。
「1年間ずっとずっと耐えて、ようやく咲いたんだよ!凄くない?なんか健気だな~」
「梅好きなの?」
「梅だけじゃなくて花は好きだよ」
本当に嬉しそうに歩き、そう言った。
小高い山を登りきると、店が沢山立ち並んでいた。
「お腹空いたよな」
「うん!何か食べよ」
2人で楽しく話しながら葛うどんを食べた。ここで告白はしたくないな…。
「ねぇ~、夕方までいちゃダメかな?」
「まだかなり時間あるけど?」
「ここの夕焼けが見たいんだ!んで、夕日に照らされた梅も見たいんだ~」
「じゃ、のんびりするか」
奥に行くと下を見下ろせる場所があり、ベンチがいくつもあった。下も梅が満開で絶好のロケーションだった。1つ空いてるベンチに2人で座った。
たわいのない話でも2人なら笑い合える。今まで様々な事があり、お互いを充分に理解しているからこそ、言える言葉もある。
言葉を耳で聞くと風に流されてしまう。だが、心で聞くとリラクゼーション音楽ように温かく解放され染み渡る。美怜と話していると、そんな気持ちの良い状態になっている事に気付いた。
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