第25話 それぞれの愛の形

 燿と彩乃さんは2人で住む家を探し、やっと見つけた愛の巣に招待してくれた。そこは瀬川駅に隣接したマンションで2LDKの広さ。燿なりにかなり頑張ったと思う。


「貯金はたいたッスよ!」


 綺麗に整理整頓したのは彩乃さんだと言う。


「凄いな。燿」


「コレから仕事頑張らにゃ~いけないっすけどね!日向、御指導してくれるっすか?」


「もちろん!僕でお役に立つなら」


 彩乃さんは料理を振舞ってくれた。田舎に住んでいた事もあり、多分叔母さんに教えてもらってたんだろう。煮物や和え物、酢のもの、漬け物が並んでいた。


「遅れてごめーん!」


「お、美怜待ってたッスよ!」


「わ。何か凄い料理!」


「彩乃ちゃんは漬け物も梅干しもつけるっすよ、凄いっす」


「本当に?すごーい!」


「こんなのは田舎では当たり前なんだよ?凄いって言われると照れるよ」


「よし、皆集まったから食べよ!」


 ビールで乾杯した。


「同棲おめでとう!」


「何かそれはおかしくないっすか?」


 そう言いながら燿は笑った。


「で?2人住まいは上手くいってるの?」


 美怜が興味深々で尋ねた。


「ま、何となく?」


 燿は少し照れた。


「楽しいし、なんたって心細くないんだ~」


 彩乃さんは嬉しそうに語った。


「ふむふむ…そういうもんなんだ~。日向!同棲してみる?」


 僕は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。


「アハハ、冗談だよ~♪」


 美怜は僕の背中を叩き、嬉しそうに笑った。


「で、寝室はどこ?」


「み、美怜!それはさぁ……」


 燿はいつになく動揺していた。


「やる事やってんでしょ~?いいじゃない」


「い、い、いや、」


「え?まだなの!?一緒に住んでんのに??おかしいよー!」


「美怜、いろいろあるんだよ?そこまで詮索しないの」


 僕が制したが美怜はお構いなしだった。


「彩乃さん的にはどうよ?それでいいの?」


「ん~、そこが悩みの種で~、燿君はまだ早いって言うの」


「い、いや、だってほら、そのために同棲した訳じゃないし……できたら順を追って……」


「何言ってんのよ?しっかりしなさいよ!」


 美怜は今度は燿の背中を叩いた。そして2つある部屋を開けて覗き始めた。


「なにこれ?!同棲って言うよりシェアしてるだけじゃん!お互い別々の部屋で~何考えてんのよ!」


 半ば怒ったように美怜が言った。


「あのネ、燿。一緒に住むって決めたらさ、女はそれなりの覚悟はしてんの!なのに何よ!別々の部屋でシングルベッド…ばっかじゃないの?」


 美怜は容赦が無かった。


「いや、だから~」


「だからじゃないわよ!よし、いいわ。日向、お祝いに2人でダブルベッド買お!」


「ちょ、ちょ」


「何我慢してんのよ!抱きたいんでしょ?」


「いや、それはもう…そうすけど、いいのかなぁー」


「彩乃さんはどう?」


「ダブルベッド!大賛成です!」


 彩乃さんは素直に喜んだ。


「ね~?燿、解った?」


「は、はい。ありがとうっす」


「ホント、ウチが居ないとどうなってたことやら!ったく!」


 燿は頭を掻きながらタジタジだった。僕も美怜の迫力に圧倒された。何故かその後、美怜とダブルベッドを買いに行くハメになってしまった。


 家具屋で何故かはしゃぐ彼女。1つずつ寝ながら確かめやっと決まった頃にはもう夕方になっていた。


「何か食べようか?」


「ねぇ日向」


「ん?」


「日向の家で何か作りたい」


「なんもないよ?」


「一緒に買い物して~んで一緒に作るの」


 そう言えば昔さやかとよくしたっけなー。美怜は燿達の生活を見て羨ましくなったんだろう。僕は美怜に何をしてあげれるだろうか…。


「よし、買い物に行こ!」


「うん!」


 2人でスーパーにやってきた。僕がカゴを持ち美怜が選ぶ。


「ねぇー、何か食べたいものは?」


「ん~、暑いから冷麺かな」


「あら、カンタンな料理で良かった」


 美怜は野菜を物色しながらカゴに入れていった。


「よぉ、日向」


 見ると神川先輩とさやかが買い物をしていた。


「あ、偶然ですネ」


「同じ新入社員の…えっと」


「橘美怜です!神川先輩よろしく!てかもうかなり経ってますけど!」


「そうだったな、悪い悪い」


「さやかも買い物?」


「うん、夕飯の食材をね。美怜さんと日向君が買い物って意外です」


「まぁね~、日向んちで料理して食べよってなったの」


「そう…」


 さやかは美怜を見ながら僕の方をチラッと見た。何故か悪い事をしている様な気分になるから不思議だ。


 さやか達と別れた後、美怜が小声で言った。


「会いたく無かったよねー、ごめん」


 美怜はどうした訳か謝った。もちろん会いたくはない。2人で買い物なんて…その後何をするのか……。考えてしまう自分が嫌だった。



 家に着き、美怜は手早く料理をしてくれた。


「本当は料理得意じゃないんだ~」


 舌を出して美怜は言った。


「美味しいよ、すごく美味しいよ」


「ねぇ、日向。さやかとちゃんと話したんでしょ?好きとかは言わなかったの?」


「そんな事言わないよ…友達だけど、ちょっと親し過ぎたからそのお別れみたいな…」


「お別れ?!そんな事する必要あんの?」


「ケジメだよ。神川先輩もいるしね」


「日向はさ~自分よりも人の事考え過ぎなんだよ!それ、良くないよ」


 美怜はそう言ったが、本当にそうだろうか?ただ自分が辛かったから逃げただけのような気がする…。


「美怜はどうなんだ?付き合ってなくても、今楽しいのか?」


「ん?ほら、可能性って0じゃないじゃん!いつかは日向もうちをみてくれるかもって…淡い期待?」


「そんなの辛くないか?僕なら耐えられないよ…」


「うちはね、何でも楽しむ方なの。今だってこうして日向と向かい合わせで食事してる。それだけで楽しいの。だからさ~」


 美怜はそこで口を噤んだ。


「だから何?」


「だからね、こんな関係は可哀想だとか、さやかみたいにケジメをつけたいとかは思わないで欲しいの。うちはうちで楽しんでるから……」


「わかった」


 美怜は僕よりもはるかに強かった。

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