第22話 イン軽井沢③

 次の日の朝も雲1つないブルーの空が何処までも続いていた。でも流石避暑地だけあって、風がひんやりとして心地よかった。


 朝食を食べた後チェックアウトをし、車に乗り込んだ。もちろん助手席は彩乃さんだった。


「さて、皆様!快適な眠りだったでしょうか。これから行く所は軽井沢に来たら外してはいけない場所ですよ!」


「何処よ?」


「その名も『旧軽井沢銀座通り』です!散策しながら、食べ歩きやお土産を買ったりと自由にお楽しみ下さい」


「いいねいいね~」


「あたしお土産買いたいな~」


「彩乃ちゃん?俺が買ってあげるっす」


「あたし戻ったら実家に帰りたいの。だから皆にお土産買いたい!」


「え?俺もお供していいすか?」


「いいよ~♪日向君にも是非来て欲しいなぁ。とーさん達が会いたがってたから」


「そう?是非行かせてもらうよ。じゃ、美怜もな!」


「なんでそうなる訳?」


「いいっすね~、またこの4人でお出かけっす!」



 やがて目的地に着いた。何処までも続く通りは人で溢れかえっていた。建物は高さがなく一定で、軽井沢らしくレトロモダンをただよわせていた。


 もちろん自由行動。燿は彩乃さんと手を繋ぎ楽しそうに話しながら行ってしまった。


「美怜行こうか」


「んだんだ~」


「ねぇ、日向。彩乃ちゃんの実家と言えばさやかちゃんと同じ所だよね」


「そうだよ」


「さやかちゃん、実家に帰ったんだから、まだいるかもよ?お土産買ったら?」


「美怜は本当によく気が回るな~感心するよ。ま、お節介なだけだけどな!」


「もう!人が折角言ってやってるのに!」


「僕は美怜に買う!」


「はっ?うちここに居るし…」


「なんか記念になる物を買おうよ。ペアでさっ」


「え……」


 美怜の顔がみるみる紅潮していった。初めて見る美怜の女らしさだった。素直に可愛いと思った。考えてみたら告白をされたのに、女として見ていなかった。凄く悪い事をしていたな…。それなのに明るく振る舞う美怜が愛おしい。


「美怜見てごらん。木彫りのカップ」


 中は木で外にはカラフルな色が塗ってあった。


「これ、可愛いくないか?モモンガだよ」


「日向…」


 美怜はテンションが低くなり僕を呼んだ。


「どうした?」


「消えて無くなる物がいいよ。食べ物とかさ」


「それじゃぁ、記念にならないし…」


「記念なんか要らない。後に残って悲しくなるだけ」


「美怜……」


 美怜の気持ちを察してあげていなかった。そうだよ、付き合って無いのにそんな物もらっても虚しくなるだけだよな…。


「美怜、ソフトクリーム売ってる!食べよ!」


「うん!」


 本当にいい子なのに…なぜ心の中に入らないんだろう。まださやかがいるんだろうか……。


 美味しそうなジャムが沢山あったので、美怜に選んでもらって買ってあげた。


 お昼になったのでピザを食べる事にした。ランチ時なので並んでいた。


「待つ?それとも別の店行く?」


「並んでるって事は絶対美味しいんだよ!」


 美怜は嬉しそうにそう言ったので、待つ事にした。前に進むにつれチーズのいい匂いがして来た。思わずお腹が鳴る。


 やっと席が空いた。僕達の番だ。2人でピザを美味しくいただき、駐車場に戻った。


 とっくに燿達は戻って来ていたらしく、後部座席に2人で座り楽しそうに喋っていた。


「ただいま!さて、帰りましょうか」


 僕の運転の番だった。ゆっくりと帰路に着く。


「なんか音楽かけてよ!」


 助手席の美怜が言った。


「ここに入ってるから適当に選んで」


 美怜はHarry Stylesの曲を何故か選んだ。たまたまだろうが僕の中にさやかが溢れてゆく。思い出が消えない事が辛い。


「いいねぇー、この人の声!」


 美怜も気にいったみたいだった。


「で、彩乃ちゃん明日行くっすか?」


「うん、そのつもり…皆大丈夫?」


「俺は大丈夫っす!」


「僕もいいよ。美怜は?」


「うち本当に行くんだ?てか、行っていいの?」


「あたしのお友達だもん!来て欲しいな~」


「なら、行く!」


「決まりっすね!じゃー明日9時に会社の駅にしますか?」


 明日の予定は決まった。僕の親戚では無いが何故か大好きな人達で場所だった。


 もしかしたらまださやかがいるかも知れない。避けられるのは嫌だし避けたくもない。ただお別れをするなら、気持ちよく笑って別れたい。それが果たして行動に移せるのか…まだ分からなかった。





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