第21話 イン軽井沢②

 車に乗り込もうとすると燿が遮った。


「申し訳ないっす!折角彼女が出来たので、助手席には彩乃ちゃんで願いたいっすよ」


「全く現金な奴だよ~彩乃さんどうぞ」


 僕が助手席を譲ると、彩乃さんは少しハニカミながら乗った。


「お、俺…助手席に彼女……初めてっす」


「緊張して事故らないでね」


「それは大丈夫ッスよ、大切な人を乗せてるんすから。では、彩乃ちゃん行きましょうか」


「チョイチョイ、後ろのウチ達も忘れないでよね」


「そうでした…タハッ!では皆さん次はリゾート施設『軽井沢タリアセン』に参ります!」


「何があるの?」


「いろいろっす!」


「何よ~いい加減だな~」


「ボートも乗れるし、彩乃ちゃん一緒に乗りましょう!」


「はい」


「ダメだ…ウチ達は蚊帳の外だよ」


 軽井沢タリアセンに着いた。湖が広がり周りに木々が囲んでいる。軽井沢らしい素敵な建物が自然と調和し美しかった。


「彩乃ちゃん、手繋ぎませんか?」


「はい…」


「もう、見てらんないわ…別行動で楽しんで来て~」


「いいっすか?!マジっすか?」


 燿と彩乃さんは喜んで歩いて行った。


「あーガイド無しだよ~日向どうする?」


「ボート乗ろうよ。きっと自然の中で気持ちいいぞー」


「何?なんで日向までテンション上がってんのよ」


「やっぱなんか、嬉しいよな!彩乃さん幸せになれるよ」


「ま、そうだね…じゃ、振られ組同士仲良く行きますか?」


「振られ組って……」


 そんな言葉は無視して美怜はどんどん先に歩いて行った。


 ボートに乗ると陽射しはあるが、風を感じられた。


「気持ちいいなぁー!」


「ご満悦だね~、私じゃ無きゃもっと良かったのにね!」


「いいや~、美怜だからいいんだよ!気を使わない最高の相手だ」


「あのね~、そういう言葉グサっとくるんですけど?女として見てないって事じゃん」


 美怜は少し拗ねた。


「そうかなぁー、自分が自然体で居られる相手ってそうはいないよ?」


「じゃーいい意味で受け取っていいんだ?」


「いいよ、美怜。この関係大事にしような!」


「なんからしくないな~、どうしたのよ?さやかちゃんの話したら怒るかもだけど、実際どうなっちゃったのよ~」


「どうなったのかな…、僕にも分からないんだ」


 そう、分からなかった。あの日CDを買いに行き、僕は初めてさやかにイラついた。それはさやかにもわかったはずだった。それから、さやかは僕を避けた。


 今回のこの旅行を断ったのも、もしかしたら避けたかったからなのかも知れない。


「男と女って難しいよな……」


「そうでも無いんじゃない!ほら、さっきカップルになった燿達。あんな風に簡単に付き合えるんだもん。凄いよ…。多分思うんだけどさ、魂が呼び合う?そんな事あるんだよ。運命的なものを凄く感じたよ…」


 魂で愛し合っていたと信じて疑わなかった僕は、脆くも崩れてしまった。運命のイタズラか、それとももっと違う人がいるのか。



 合流した僕達はまた車に乗り込んだ。2人だけで過ごした時間のおかげだろうか、燿と彩乃さんは距離を縮めていた。


「さて、皆さん。小腹空きませんか?」


「さんせーい!スイーツ?」


「はいな!これからご案内するのは『軽井沢チョコレートファクトリー』でございます」


 車はゆっくりと進み、2人のラブラブ会話で包まれていた。

 到着するとまず工場見学をして、皆食べたい衝動にかられ買いあさった。


「上手い!」


 美怜はすぐさま開け食べ始めた。皆も後に続く。美味しい美味しいを連発しながら、立ったまま食べ比べをする。他の人から見るとまるでサクラ状態。


「燿のガイドとコースはホンットに最高だネ~彩乃さん、これから楽しめるね」


「あたしもそう思っていました!本当に嬉しいです」


「いや~、なんか照れるっす」


 人は思わぬ所で得意分野を発揮するもんだな。今回の燿を見てそう思えた。


 やがてホテルに到着した。茶色を基調にした洋館で皆当然気にいった。


「ツインを2つ予約してるッスよ!今日の所は男女で別れましょうか?」


「当たり前じゃー!このボケ!」


 燿は美怜に頭を叩かれた。


「痛てーすよ…じゃ入浴して7時頃ロビーで、お願いッスよ!」


 部屋は白と茶色を基調にした、落ち着いた綺麗な部屋だった。


「日向、露天風呂もあるッスよ」


「そうなんだ!このホテルいいなぁー、気にいったよ」


「今度は彼女とどうぞ!」


「お前調子に乗ってるな?コイツめー」


 燿の首に腕を廻し締め付けた。


「わかったわかったッスよ…ぐへ…もう言わない…っす」



 お風呂に入り皆で集まると、レストランでワインや美味しい食事をいただき、皆大満足で部屋に戻った。


「でも本当に良かったな。燿、僕は嬉しいよ」


「あざーす!日向はキューピットっす」


「僕が?なんで?」


「彩乃ちゃんが家出して来た事やいろんな聞いたっす…日向がちゃんと彩乃ちゃんの世話をしてくれたから、俺達が知り合った。でしょ?」


「1つの運命だったのかもよ?美怜もそう言ってたよ」


「それより俺歯痒いっすよ」


「ん?」


「さやかちゃんの事好きなの知ってるっす。美怜が日向の事好きなのも…知ってるっす」


「いや、僕は別に……」


「なんなんすかっ!」


 燿は僕の言葉を遮り、ベッドを両手で叩き反発した。


「水臭いすよ…そんな関係望んでないっス……俺は日向を本当の親友と思ってるッスよ?それなのになんで本当の事を打ち明けてくれないんすか?」


 燿はいつに無く真剣だった。いつもチャラけた奴なのに…、多分こんな燿を見たのは初めてだった。


「話せば長くなるし…言いたく無いことも出てくる。でもこれだけは言っておくよ。さやかの事が大好きだった。心から愛してたし守りたいとも思っていた」


「過去形すか…」


「そう、過去の事なんだ。さやかは違う人を選んだ。だからと言って嫌いになったりはしない。まだ僕の中で整理がついてなくて…ん~もしももしも、神川先輩と別れたらまた守りたいと思うかも知れないし…自分でもまだわからないんだ……」


「そう…すか……。なんか辛いっすね…」


「だから、言いたく無かったんだ。一緒に落ち込んだって仕方ないだろ?」


「いや、それは違うッスよ!辛さも悲しみも分け合えば半分になるッスよ!俺はそう思ってるし、そうでありたいっす!」


「燿、ありがとな」


「告白…しないっすか?」


「しないつもりだ。これ以上彼女を苦しめたくないんだ」


「そうすか…なんかそれ大きいッスね……」


「大きい?」


「愛情っすよ。俺は相手の事なんか考えずにがむしゃらに突き進むタイプなんで…いや、大きいっすよ」


 実際大きくも深くもなかった。ただ自分が傷つきたくないだけなんだ。神川先輩を見てはにかんだ笑顔が、僕は忘れられなかった。心の中に今でもナイフを突き刺された様な痛みを感じている。


 弱いんだな…弱すぎる。がむしゃらに行ってぶち当たって、そんな燿が羨ましかった……。

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