第8話 彩乃さん①
次の日、早速さやかに電話で報告した。
「本当に?本当にいいの?」
さやかはすごく喜んでくれた。まず社長である叔父直々に面接をするが、さして問題は無い事だけ伝えた。
【篠山事務用品】はさやかの家からだと電車で30分位だから、通勤も問題ないだろう。これから同じ職場になる事もさやかは喜んでくれた。
数日後面接を終え就職が決まった事もあり、2人でさやかの叔父さんに会いに行く事にした。これで訪れるのは3度目だった。なぜかさやかの故郷なのに自分の故郷のように思えて懐かしい。おかしな話だが無人駅に着くと、すごく癒された。
駅前に白いワゴン車が止まっていて、叔父さんが出迎えてくれた。
「よぉ帰って来てくれたのー、遠い所疲れただろー」
そう言いながら叔父さんはさやかのバックを持った。
「なんだな、さやちゃん重いのー」
「叔父さん達のお土産が沢山入っているのよ」
さやかは嬉しそうに笑った。
「なんも要らんのにーありがとうな」
「叔父さん、ご無沙汰しております」
「森さん、よぉ連れて来てくれた!ありがとうな」
3人は車に乗り込んだ。
「叔母さんも
「義文…彩乃?」
「さやちゃん忘れたかいのぉ。わしの子どもじゃ、さやちゃんのいとこになる。んで、歳はえろういっとるけんどな」
そう言うと叔父さんは高笑いをした。
「私よりも年上なんだ?」
「そじゃよ~。兄さんの結婚が遅かったのとわしが早かったので逆転してしもうた。義文は今年28になるのぉー。誰かいい人がいればいいんじゃが…、こんな田舎ではなかなかじゃわ」
叔父さんは子どもの話をしながら山を登って行く。以前見たのどかな風景がどこまでも続き、新緑をつけた木々達は陽に照らされ輝いていた。眩しい位の鮮やかなグリーンが村を彩っていた。
やがてさやかの実家に着くと、にこやかな叔母さん達が出迎えてくれた。
「よう来なさったな!さやちゃん元気だったか?」
「はい!叔母さんは?」
「元気だよぉ!」
そばに居た息子と娘もにこやかに挨拶を交わした。
「さっ、入った入った!」
叔父さんはさやかのバックを持ち、家に先導した。
さやかはまず仏壇の前に座りお供え物を置いた。蝋燭に火を付けお線香をあげ、静かに手を合わせた。皆さやかのそんな様子を神妙な面持ちで見守った。
続いて僕もお線香をあげ手を合わせた。写真のさやかの両親は優しく微笑んでいる。どれほどの愛情を持ってさやかを育ててきたのか、この写真で全てを物語っている気がした。
振り返ると大きなテーブルに叔母さんが所狭しと料理を並べている。
叔父さんと息子の義文さんはさやかを囲みテーブルに座していた。さやかは叔母さんにお土産を渡していた。
「森さんもこっちに」
叔父さんに言われ座布団に座ると、グラスを持たされビールを注いでくれた。
「真昼間じゃが麦茶の代わりだー」
僕も叔父さんにビールを注いだ。
「帰りは義文に送らせるで、わしも飲むかの」
叔母さんと娘の彩乃さんもテーブルに着くと
「さやちゃんおかえりー!」
と皆がさやかの帰宅を喜んだ。
「んだけど、さやちゃんの表情が明るくなったのぉー」
叔父さんがさやかの顔を見ながら優しくそう言った。
「そうよ。卒業も出来たし家も覚えてなかったけど落ち着けるし、それにそれに就職も出来たんだもの!何か夢のようだわ」
「そうかそうか、それは良かった。一時はどうなるかと心配しよった…これもみんな森さんのおかげだ……」
「いえ、僕は何も…」
「ううん、日向君のおかげ!全部全部日向君がいてくれたから出来たの。本当にありがとう」
「改まって言われると恥ずかしいな…」
僕の顔はみるみる高揚していくのがわかる。
「それでさやちゃんと日向君は恋人なの~?」
彩乃さんがいきなり会話に入ってきてそう言うから面食らった。
「なんね、急に…」
叔母さんは制してくれたが、
「いいじゃない!素朴な疑問よ~ねぇどうなの??」
「えっと…それは」
僕がなんて言おうかと困っていると、さやかがにこやかに答えた。
「お友達よ!すっごく仲のいいお友達、親友かしらね」
「へ~そうなんだ」
彩乃さんはそれを聞いたがまだ納得が行かないという表情をしていた。
食事の後、さやかがお墓参りに行きたいと言ったので叔母さんと車に乗り込み義文さんが運転して出かけて行った。叔父さんはたらふく食べビールも沢山飲んだので、座布団を枕にスヤスヤ寝てしまった。
僕は庭に出てあの夏の日さやかを待つために座ったベンチに腰掛けた。あの日とは違って、穏やかな陽の光と爽やかな風が僕を包んだ。いろいろなことが思い出される。さやかとの付き合いは終わってしまったが、今のこの友達関係も悪くはなかった。違う意味で深まったような気がしていた。
「ここにいたの?」
「あ、彩乃さん。ちょっと飲みすぎて風にあたりに来たんだ」
「ねぇ~日向さんの家ってどんな所?」
「ん?家は小汚いアパートだよ。1人暮らしだからね」
僕がそう言って笑うと、彩乃さんは隣に座り僕の手を掴んで言った。
「行ってもいい?ねぇ~、というか住みたい!」
「はっ?!」
突拍子もない事をいう子だ。あまりの発言に驚いて空いた口が塞がらないまま彼女をまじまじと見つめた。
「あたし、都会に住んでみたいの!憧れかな~こんな田舎もう真っ平」
彩乃さんは僕の腕を離し立ち上がってそう言った。
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