第6話 卒業式
今日は卒業式。
桜は開花宣言があったもののチラホラと咲いているだけだった。学生生活は終わりを告げようとしている。皆スーツや袴に身を包み意気揚々としている。
僕達は相変わらず隣に座っていた。
「ね、日向君…私友達いなかったの?」
「ん?僕以外でって事?」
「…うん」
「ん~たまに挨拶する子はいたけど、友達って訳じゃあ無かったな」
「じゃ、ずっと日向君と2人でいたの?」
「そうだよ。変?」
「変!」
さやかはそう言って笑った。
さやかと過ごして来た4年間。いろいろあったけど楽しかったな。さやかのおかげだな。
「さやか、ありがとうな!」
「え?急だね!じゃ私も!日向君ありがとう!」
2人で顔を見合わせて笑いあった。こんな時間も今日で最後だと思うと、少し寂しかった。
僕は4月から仕事が始まる。さやかはこれから就活が始まる。別々になってしまうと、2人のこの関係は一体どうなってしまうんだろう。
「な、さやか、ドライブに行かないか?」
「うん!行きたい!」
卒業式が終わり2人で車に乗った。
二2人だけの卒業祝いだ。
「どこか行きたい所は?」
「海が見たいなぁ」
「まだ寒くないか?!」
「寒くなんかないよーだ!だって日向君がいるでしょ?日向はひなた~暖かいよ~」
「なんだそれ?ま、行くか!」
「やたー♪」
さやかは無邪気に喜びを表現した。本当に可愛い。
実は友達ではなく2年2ヶ月付き合った恋人なんだよって、言ってしまおうか。それとも好きですって、また告白してしまおうか。
そんな事を思っている間、彼女はスキマスイッチの歌を熱唱していた。歌は覚えているもんなんだな…。そう思っていたが、ついつい自分も彼女につられて歌ってしまった。海に着くまで車内はカラオケ状態になっていた。
以前さやかと2人で朝までカラオケしたっけな。2人とも帰る頃には声がかれて目にはクマを作ってたっけ…。さやかは忘れてしまっただろうが、懐かしい思い出だった。
海に着くとさやかは大はしゃぎで水際に走って行った。
「濡れるぞ!」
僕の言葉を聞いたか聞こえないか、無心に波と戯れている。そう言えばさやかの故郷は山で、海は無かったな。
さやかはスカートを持ち上げながら僕の所まで走って来た。余程はしゃいだのか息を切らしている。
「青空~雲~海~~!」
何か分からないが口に手を当て海に向かって叫んでいる。
「おひさま~波~しぶき~~!」
僕も一緒になって叫んでみた。大声を出すととても気持ちが良かった。
「真似しぃーー!」
僕に言った言葉だろうが、何故か同じように海に向かって叫んでいる。負けじと叫ぶ。
「真似し最高ーー!さやか最高ーー!」
「日向君最高ーー!」
この感じ…、告白?!「さやか好きだー!」って叫んでしまえばいいんじゃないか?
しかし僕には勇気が無かった…。初めて告白したのも2年かかってやっとだったもんな…。それもかなり他力本願的な要素。
今好きと言ってしまえば、彼女はシャボン玉のようにどこかふわふわ飛んで行きそうで怖かった。
本当にだめな奴だよ…。
「冷たっ!」
1人思いをめぐらせていたのに、さやかの海水攻撃を受けてしまった。
さやかは大声で笑っている。本当に明るくなって来たな。いつまでも傍にいて、彼女の笑顔を守ってあげたい。やっぱり大好きなんだろうな。
帰りの車では彼女は遊び疲れ眠ってしまった。記憶は無くしてしまったが、また彼女との絆は再生出来たような気がした。
この関係はどこに向かうのか、明日の事など分からない。ただ前進すれば二人の関係が深まって行く。そう安易に考えていた僕は愚かだったのだろうか。
「青空~雲~海~~!」
さやかの叫んだ声が耳に残っていた。本当に君は最高だよな。寝ている頬をつんつんしたが、一向に起きる気配が無かった。
1人またスキマスイッチの歌を大声で歌ってみた。別に起こしたい訳じゃあない。幸せな気持ちになって歌いたくなっただけ。
「うるさーい!」
怒ったのか?そう思った瞬間、歌の続きを大声で歌い始めた。元気な奴だ…。
また帰りもカラオケ状態になってしまった。
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