第5話 椅子取り合戦

俺は不穏に包まれた部屋内を、プレイヤーの一人一人の表情を覗いた。

阿南と鳥飼以外はみな、さっきまでとは別人のように相手を疑うような表情を見せている。


(さっきまで仲良くしようみたいな雰囲気だったのに、どうしたんだよ……)


これが、死の恐怖なのかと、そう思った。

だが、こんなことでは埒が明かない。

俺は場の空気を変えようと、皆に言った。


「えっと、ここは人外を見つけるために話し合った方がいいと思います。こんな風に、疑りあってないで……」


そう言うと、鳥飼が俺に賛成した。


「確かにそうだな。本来の人狼なら占い師とか言う役職があった筈だ。誰か持ってないのか?」


鳥飼が聞いてみるが、誰もその言葉に反応することはなかった。


「……あ、そうか。このゲーム、役職も明かされてないから守って貰えるか分からねぇもんな」


鳥飼が気付き、独り言のように呟く。


「そうかな?」


岩野が話し出した。


「Wolfs VS Huntersって題名なんだし、狩人らしき役職はありそうだけどね」


「おいおい、題名で決めれるほど、このゲームは甘くねぇと思うぜ?」


「確かに、ただ人間陣営のことを「Hunters」と言ってるだけかもしれませんしね……」


鳥飼と雨戸が、岩野の意見に反対した。


「でも、そうとでも思わないと、このゲームは一歩先には進めません」


その会話の中に泰助が、意味ありげにそう言った。


「……僕が占い師です」


そう言った。


「本当か泰助!」


「うん、兄さんすらも、この状況じゃ信じられなかったんだ。ごめん」


成る程、泰助が占い師か。


「じゃ、こいつに話聞こ~ぜ~」


「やった! これで勝ちに一歩近づいたっすね!」


真野が嬉しそうに、そう言った時だった。


「ち、違います! その人、嘘つきです!」


景山さんが椅子から飛び上がって、泰助を指差した。


「………どう言うことですか?」


泰助が、訳が分からないような顔をした。


(まさかこの人………!)


俺の予想はこの後、見事に的中したのだった。


「わ、私が占い師です」


泰助が、あまりの驚きに飛び上がった。


「何を言ってるんですか、景山さん……」


「何って、私はあなたが何を言ってるかすら、分かりません……」


く……不味いことになった。

きっと片方は人外なのだろう。

しかし、それが人狼なのか、それとも他の何かなのか。



本来の物なら、狂人という人外の補佐をする役職があるが、このゲームではそれが存在するかすら分からない。

ここは占い師から選ぶべきか、はたまた何も明かされていない人たちから選ぶべきか……。


「ま、まずは話を聞かないことには何も始まらねぇよ」


「それぞれ、誰を占ったのか言ってくれるかな?」


「はい……」


最初に言ったのは、景山さんだった。


「私は、岩野さんを占って、Humanという表示が出ました」


「いや、違います!」


今度は泰助が言った。


「僕も岩野さんを占いましたが、キングのトランプカードが表示されました。僕はあれが、人間陣営の証なのだと思います」


キングの……トランプカード……?


俺はそのキーワードに、少し疑問を持った。

しかも、お互いに違う表示の仕方を話している。

どちらが正解なんだ?


「だが、これで岩野は晴れて人間になったということだ。宜しく頼むぜ?」


「あぁ」


岩野は皆の顔を見るようにして言った。


「占い師は殺さない。そこにきっと人外はいないだろうし何より、大事な役職を失いたくないからね」


すると岩野の目が、ゲームを無表情でやっている阿南に向けられた。


「そこで、僕は君の意見も聞いてみたいんだけど、何かあるのなら話してくれないかな?」


阿南が岩野に目を向けると、自分に語られていると理解したのか、ゲームを閉じて皆に向けて語り始めた。


「きっと私が、この中で一番疑われてる。というか、不必要と思われてる。人狼が断定しないのなら、きっと私は先に皆に殺されると思う。だから話す」


阿南は、岩野と俺に視線を移した。


「岩野さんと香村くん、の表情でバレバレ。私が人外だったら終わってたよ? まぁ、結構だろうけどね。次からは気を付けてね」


…………え?


なんだこいつ、さっきまで一言も喋ってなかった、ゲームに夢中だったのに…………。


すると次は、鳥飼の方を見た。


「君、こんな状況なのになんでそんなに嬉しそうなの? 役職を持って優越感を感じてるのかな? しかもそれは私たちの誰よりもとか、役職。私の予想だけど、きっとだろうね。頑張って有効活用してね」


なんなんだ? こいつ、何なんだよ……。


「そして、私が占い師以外で怪しいと感じてる人物は……」


なんでそこまで分かっちまうんだよ……。


阿南は俺たち皆の表情を一人ずつ覗き込んだ。

自分が見つめられた時、それは今までかつてないほどに心臓が高鳴るのをやめなかった。


そして全員を覗き込むと、言った。


「いない」


…………は?

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