第4話 自己紹介タイム

(……なんだ? この人形、GM的な立ち位置なのか?)


俺は頭だけを回転させ続ける執事を見てそう思った。


「なんだてめぇ、頭回しまくりやがって、バカじゃねぇのか!?」


トサカ頭が、執事に怒号を浴びせる。

だが、執事もただの人形なので、全く動じることはなかった。


『会議の時間です。代表を決めてください。時間は30分です』


執事が機械のような声でそう言った。

30分、て長いな……。


「じゃあ、ここにいる皆でまずは自己紹介をしよう」


一人の男性が、落ち着いた口調でそう切り出した。


「僕は岩野いわの 和也かずや。コンビニの店長をやってたんだけど、あの仮面男が現れて、突然落っこちて来ちゃったんだよね……あはは」


和也という男はその話を笑って済ませた。

確かに、コンビニ店員の服装をしている。


「次は私、ですかね……」


眼鏡をして、三編みの陰気そうな女性が続けた。


景山かげやま 美佳みかです。えっと、仕事は……いいですか?」


「あ、はい」と、皆で察して答えた。


「じゃあ、次は私かな」


活発そうなショートカットの女の子が始めた。


雨戸あまと 麗那れなです。高校生で、テニス部をやってました。皆でこのゲームを終わらせましょう!」


……この子はまだ何にも知らないんだなと、少し哀れむような感情になった。


「あー、めんどくせぇ」


トサカ頭が、他所に目をやりながらだるそうに心ない声で言った。


鳥飼とりかい 貴史たかしでーす。あの殺された奴と一緒につるんでましたが、いつの間にかここにいましたー。それだけ」


やる気のないやつだな……。しかも、全然死を悲しむ心が見えないんだが。

死んだあの人が報われないな。関係ないけど。


「と言うわけで、俺の番っすね!」


次は、雨戸や俺と同じくらいの、ヘッドフォンを首に掛けた男が自己紹介を始めた。


「俺は真野まの 奏太かなたっす。高校で軽音楽部やってたんすけど、なんかこっち来ました! あ、あと麗那ちゃんとは同じ高校っす!」


「うっさい、発狂マン」


雨戸が真野を睨み付けて言った。


(あれ? さっきまで元気一杯のキャラだった筈なのに、どうしちゃった?)


「あ、麗那ちゃん結構暴言吐きますけど、俺だけなんで気にしないでくださいね!」


あ、成る程。俺はそれで納得したが、お前は気にしろよとも思った。

じゃあ次は……。

俺は次の席に視線を移した。


「………」


その子は猫耳のフードを被った女の子の様だったが、ゲームをして一向に喋ろうとしなかった。


「えっと、君にも自己紹介してほしいんだけど……」


和也が呼び掛けると、女の子は一言だけ発した。


阿南あなん 寧々子ねねこ……」


それだけで、ゲームに夢中なのかそれ以上のことは話そうともしなかった。


「よし、名前だけでも聞けたんですし、もういいんじゃないんすかね?」


真野は次の人へと切り替えるように言った。

じゃあ次は……。


「次は俺か……」


俺は皆と目線が合うようにして始めた。


香村かむら 敦弥あつやです。俺も高校生ですが、部活は入ってません。登校中にここに連れてこられて、状況もよく分からないですけど、犠牲者を出来るだけ抑えるように勤めます」


それだけ言って、俺は次の人の方を見た。


「「じゃあ二人で行かせてもらいます」」


堅い口調で、一気に男性二人が自己紹介を始めた。


「僕は三木みき 泰助たいすけ。僕たち双子で、共に靴屋を営んでいたのですが、突然現れた仮面男に、ここに連れてこられたのです」


三木みき 大地たいちです。母も病気なのに、心配です」


二人が俯いてしまった。


「それは、早くこのゲームを終わらせないといけないね」


和也が慰めるように微笑んで言った。

「はい」、そう答えて二人も顔を上げた。


「だが、自己紹介なんかして良かったのか?」


鳥飼が、その円満な空気の中、そう言った。


「? 鳥飼、何言ってるんだよ?」


俺は鳥飼に質問するが、鳥飼は執事に言った。


「なぁ執事! 今日は誰か死ぬのか?」


執事は鳥飼の方に首を向けて言った。


『はい。今日から代表を決め、一人を殺害します』


「うんうん、そうかそうか」


鳥飼は納得したように腕を組んで、首を小刻みに縦に振った。


「じゃあ今日、この中で一人は死なないといけないという訳だな」


鳥飼がそう言うと、部屋の中は不穏の空気で満たされた。

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