第5部 理想郷の誕生日《1》

「ふぉぉぉ!」


 目の前に広げられたダンジョンのドロップ品(仮)を見て、私は声をあげましたとも!!

 あちらの世界のお店に行って早四ヶ月、色々な物を買ってきたけど、同じような物は作れていない。

 レジンはすぐに黄変おうへんするし、モールドはシリコンみたいな軟らかさにならないし、編み機やマットレスなんかはコストの方が高すぎて、一般市民が使えない。

 でも、今私の目の前には、それらを全〜部解決してくれる、ダンジョンマスターの作ったチートなドロップ品がいっぱい! わーい♪


「まず、説明からいくぞ」

「あい!!」


 真面目な顔でリビングのローテーブルの上に乗り、ドロップ品(仮)をビシッと指差すバスケットボールくらいの大きさのハリネズミ。

 そのハリネズミの前でローテーブルに手を置いて、キラキラした瞳でハリネズミを見つめる私。“いったいどんな絵本だよ!” と言いたくなるような場面だけど、気にしないー。

 私はじっとしていられず、その場で期待に胸をふくらませぴょんぴょん跳ねる。


「まぁ、落ちつけグルナ。まず、これからだ」


 そう言ってダンジョンマスターが指差したのは、大人の手のひらより少し小さな水晶クリスタル六角柱ろっかくちゅうに似た物。真ん中に、水色の涙の雫のマークがある。


「これは、グルナがお待ちかねのレジンだ」

「ふぉぉ! れちん!」

「そう、れちん! ……じゃなくて、レジンな。この間グルナが持ってきた、透明度の高い有名メーカーのやつだ」

「わーい♪ れちん♪」


 私は嬉しくて嬉しくて、その場をくるくる回ります。


「次いくぞ」

「あーい♪」


 指差されたのはレジンの六角柱の半分くらいの大きさの、色のついた六角柱。真ん中に、クレヨンみたいなマーク。それが、色とりどりに十二個並んでいる。


「これは、天然素材でつくられた着色料だ。色鉛筆と同じ十二色だな。レジンの着色はもちろん、食べ物にも化粧品にも、繊維の着色にも、何でも使えるオールマイティーな物だ」

「おー! ちゅごい!」

「ん、ちゅごいな。次」


 ダンジョンマスターは少し場所を移動して、次を指差す。


「これは、簡単に言えばスキンケアのもととして使える、保湿成分が入っている物だ。精製水やハーブ、蜜蝋みつろうなんかを加えれば化粧水やクリームにもできるし、石鹸草シャボンそうを加えればボディーソープやシャンプーなんかも作れるな。何をどれだけ配合するか、それぞれの分量をどうするかで、様々な商品ができる」


 心なしか、ダンジョンマスターが胸を張っているよ! 確かに、すごいドロップ品だけども。


「ちーとー」


 もう、チートとしか言いようがない! こちらには、黄色い薔薇の花みたいなマークがついてる。


「次はこれ “軟” と “硬” だ」


 “軟” の六角柱には丸い波紋のマーク、“硬” の六角柱にはハンマーのマーク。


「“軟” は、言葉通り物を軟らかくする。分量を増やせばモールドのような物もできるし、少しだけ加えれば100均で買った編み機も作れるだろう」

「おぉー」

「そして “硬”、これを柔らかな素材に加れば硬くすることができる。グルナの言っていた、ハードチュールもできるんじゃないか」

「ちゅーるー!」


 私はぴょーんと跳びあがる。ハードチュールやソフトチュール、オーガンジーが作れれば、この世界では画期的なパニエやドレスが作れるよ!


「グルナは、ロゼットなんかも作りたいんだろう。作ったロゼットに、“硬” を塗って本物っぽくするのもありだな」

「ありゅー」


 うん、そう言うのもありね!


「そして、これだ!」


 ダンジョンマスターは、その小さな手元の六角柱を、ポンポンと叩いた。


「これは、“正常” だ。どんな症状でも、身体を正常に戻すだ」

「ふぉ!!」


 私はびっくりして、思わず両手が上がっちったよ。万能な薬の素、何それ? どんなチート? 真ん中に、赤い十字のマークがあるよ。


「グルナはこの間、薬局に行って買いだめしてきたんだろう。こっちは、そんなにいい薬がないからな。ある意味万能だから、この薬の素に色々な薬草をプラスすれば、傷薬にもなるし風邪薬なんかにもなる。薄めれば、予防薬とかのど飴なんかもできる。色々な病気の薬の素にはなるが、寿命は変えられないし、死者には効かない。いいか」


 私はしっかりと頷いた。この世界、あまり薬がないみたいだから、とっても心配していたのだ。


「その他は、これだな。グルナが欲しがった防寒品だ。毛糸に、服に使えるマイクロフリース、裏シャギー、裏ボアの生地。そして、毛布になるマイクロファイバー。どうだ!」

「ちゅごーい! ちゅごーい!」


 私はダンジョンマスターの手を握って、ブンブンふった。これがあれば、冬の間みんなぬくぬくだよ!


「にゅくにゅく♪」


 生地を手に取って、思わずスリスリ。

 この世界の冬は毛皮を着る、ダンジョンで取れるから。でもね、少々お高いの。収入によっては、毛皮を買えない人もいる。

 だから、できるだけ安くこれらが出回るようにしたい。ダンジョンと、錬金術の研究所の連携プレーで!


 私が仕事として発展させて行きたいのは、レジンを使ったアクセサリーや、つまみ細工や水引、モチーフを使ったアクセサリー、新しい生地を使ったドレスや服、ニット、ロゼット、化粧品、薬、そして紙のステンドグラスと言われるローズウィンドウだ。

 レジンなどのアクセサリーやニットや服は、個人が趣味でも作れるようにもしたいし、ロゼットや化粧品や薬やローズウィンドウは、領地の特産として売り出したい。

 あぁ、このダンジョンマスターの作り出したチートなドロップ品があれば、夢は叶う! 頑張って領地を発展させるぞー! 稼ぐぞー! おー!


「あと、こいつらがもう少し大きくなったら、蜂蜜と蜜蝋も出すからな」

「ふぉ! はちみちゅ、みちゅろー!」

「うん、旨いものも化粧品も作れるな」

「あい! うまうまでしゅ!」


 わーい、楽しみだなぁ♪ パステルグリーンくんと薄紫ちゃん、よろしくね!


「グルナの誕生日が近いからな、誕生日までには完成させるぞ。」

「ありあとー! たんじょん、まちゅたー♪」


 私はりゅんりゅん、いやルンルンしながらスキップして、ローテーブルの周りを回ったよ!


「そう言えばグルナ。この間アンブルが、あちらの世界の葡萄が欲しいと言っていたが」


 ダンジョンマスターの言葉に私はハッとして、お姉さんから預かっていたDVDと書籍をポシェットから出した。


「あい」


 中は、もちろん果実園の映像や葡萄なんかの特集番組が録画されたDVDと、果物の書籍です。


「あにょね、ほちぃにょは、こえと、こえ」


 と、私は書籍を指差した。そう、葡萄一つじゃなくて、他にもう一つあります! 黄緑色の種のない皮ごと食べられる葡萄と、種のない柿が欲しいのですよ。


「なえき、かう?」

「うーん、出せないことはないかも知れないが……、苗木を買った方が確実だな。何本ずつか買って、持ってこい。こっちで増やすから」

「あーい、わかったー。あっ、たんじょん、まちゅたー、ちゃちいれよー」


 私はポシェットに入れて持ってきたその黄緑色の葡萄を、どどーんと出しましたとも!! 相手は魔物さん達ですからね、二キロ入り一箱や二箱ではたりるわけがない!

 リビングで、魔物さん達が葡萄を喜んで食べています。普通の動物は食べるものはだいたい決まっているけど、ダンジョンの魔物さん達は何でも食べるんだって!

 と言うわけで、そのうち美味しい蜂蜜や蜜蝋をくれる予定の蜂さん達も、美味しそうに葡萄にかじりついていますよ。葡萄味の蜂蜜ができたりして。

 私の両隣でも、いつものように天使達がピタリとくっついて葡萄を食べています。

 動物はもちろんのこと、葡萄食べるんだねマンドラゴ。秋になったら柿も持ってこようっと。

 そして、私にも葡萄下さーい!





********

次回投稿は26日か27日が目標です。

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