第4部 理想郷の夏祭り《3》
後半、馬を “ひく” と言う表現に二種類の漢字を使っています。人間が先頭にたって馬を “ひく” 様子が “曳く”。馬がやる気があって、人間よりも前に出て物を “ひく” 様子が “引く” となっています。m(__)m
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「まぁ!」
「なんと、美しい!」
今日は、あちらの世界の花火大会の日ですよ! 花火大会を知らないお祖父様やお祖母様、そしてお母様達は、
お姉さんのお家から見える花火大会は、天空の城に行く道沿いにある川で開かれる、この辺りでは一番大きな花火大会だそうです。
ここからだと、斜め上から見る感じでそんなに大きく見えるわけじゃないけど、視界をさえぎる建物がないから、迫力重視でなければ綺麗に見えるらしい。
そりゃ川の近くで下から見上げる大きな花火もいいけど、向こうの世界の皆は花火大会初心者だから、あの花火の音だけでもびっくりすると思うんだよね。だから、“こんな物もあるんだよ”、くらいの感じでいいと思う。
お屋敷での夕食を終え、お祖父様とお祖母様、お母様と私、それにトルキーソとキャメリア、
花火を見ながらの飲み物やちょっとしたおつまみは、料理長が持ってきてるの。
「ふぉ! なちゅかちぃ」
お姉さんが持ってきた
お姉さんが手に持つのは、焼きものの豚さん。中には、虫除けの線香が入っています。昔ながらの、夏の
「ぶちゃちゃん」
顔を上げて、ぴょ〜んと跳んで見つめれば、お姉さんが笑って豚さんを見せてくれます。
お姉さんのお家は山の中腹で、下に比べれば涼しく、夜は縁側の窓を開けていればエアコンはなくても大丈夫そう。でもそのぶん、虫が気になるの。
縁側の両端に豚さんを置いて、準備は完了です。
「もうすぐ始まりますよー」
お姉さんの声に、皆で縁側へ。飲み物やおつまみも用意して、準備
『ヒュー……ドン!! パラパラパラ』
大きな音と共に大輪の花が咲いて、パラパラパラと散っていきます。あぁ、日本の夏ですね。
「おぉー!!」
「ほぉ!!」
「綺麗ね!」
と歓声があがる中、“あぁ、やっぱり花火って素敵!!” と私は、“きえー、きえー” と言いながら、パチパチと手を叩いた。
『ヒュー……ドン!! パラパラパラ』
『ヒュー……ドン!! パラパラパラ』
花火を見ながら、和気あいあいと縁側で、皆がそれぞれに飲んだりおつまみを食べたりしている中、私は目の前のお皿に手を伸ばしましたとも!
房から取った、短
前世の私が一番好きだった果物で、今世の私ではどう頑張っても絶対に手に入らなかった物です。
一粒を優しく手に取り、お口にパクっとしてモグモグ。“はぅ〜” 思わず、ほぼ無意識に両手と両足をパタパタ。
「おいちぃ〜♪」
お口の中に広がる甘味と果汁、黄緑色の葡萄さん。両手で葡萄を掴んでは “パクリ”。
あぁ〜、美味しいー♪ 至福の味。自然に、ふにゃりと笑顔になるの! 向こうの世界にも欲しいなぁ〜。
「グルナ、何を食べてるの。皮は? 種は?」
「うっ?」
お祖母様が隣にやってきて、私の手の中を見ます。
「まぁ、グルナ。皮も種も食べてしまったの? ペッ、なさい」
「おばぁしゃま、こえ、たねにゃい。かあ、うまうまできゆ」
“えっ?” と、お祖母様が不思議そうに首を傾けます。すると、お姉さんが隣にきて、お祖母様に葡萄の説明をしてくれました。
「そんな、種のない皮ごと食べられる葡萄がありますの?」
「はい。グーちゃんこの葡萄が大好きみたいで、何よりも先に “ぽち” してましたよ」
そーなんてすよ! 他の品物はネットの通販会社のセールまで待って買ったけど、これだけは普通にすぐに買っちゃいました。
「おばぁしゃま、あ〜ん」
私は両手に持っていた葡萄を、お祖母様の口元に持って行きました。
「うまうま、でしゅー♪」
ご機嫌な私の様子に、お祖母様はパクリと葡萄を食べ、そして
「美味しい……!!」
と呟いた。
「アンブル。これ、領地で作れないかしら! グルナも、毎年食べられたら嬉しいわよね!」
「あい!! なちゅ、いちゅも、たべましゅ!!」
我が領地の特産品の一つはワインだ。領地の高台から大河に向かって、広い斜面一面に葡萄畑があり、そこで
「どれ」
お祖母様の言葉に、皆が葡萄に手を伸ばします。そして “ハッ” と、目を見開く。
「うまい!」
「なんと!」
「作りましょう! 何とかしましょう!」
マージェさんも叫ぶ。うん、マージェさん達が頑張ってくれたら、領地でも作れるかもね! マージェさんに任せた!
「えっ、これって葡萄の本とかDVDが必要なパターン?」
お姉さんが呟きます。そうですね、きっと葡萄の木は、ダンジョンマスターのチートに丸投げの案件かも。いや、苗木こっちで買う?
『ヒュー……ドン!! パラパラパラ』
『ヒュー……ドン!! パラパラパラ』
「わぁ〜」
「これはすごい」
おっと、花火大会がクライマックスのようです。たくさんの花火が次々にうち上がり、まるで花畑のよう。いつか、向こうの世界でも花火大会ができたらいいね!
「クーちゃん、おりこー!」
毎月一回の配給日、クーちゃんはベトゥーロに
もちろん、先頭にはフラーバに乗ったお祖父様。次に、クーちゃんに乗った私。そしてその後ろには、屋台を積んだ三台の荷馬車を引くニーガ、ルータ、グリーザ。一番後ろにお祖母様とお母様、お姉さんが乗った馬車をヴェーダとブルーアが引いていますよ。我が家のお馬さん達、総動員です!
今日は、“夏祭り” と言う名の配給日なのです。いつもよりも遅い夕方、夕焼けの中始めますよ。この時代の夜は、暗くて危ないからね!
中央広場の真ん中に配給用の荷馬車を置いて、その少し前に沢山のテーブルと椅子を並べていきます。そして広場を取り囲むように、十二の屋台を配置。食べ物屋さん六つ、ゲーム六つです。
ベビーカステラ・フランクフルト・たこ焼き・唐揚げ・綿菓子・かき氷、水風船・金魚すくい・輪投げ・射的・玉入れ・紙飛行機飛ばし。
全員が楽しめるよう、お金の代わりに十二個の
人数が人数なので、ベビーカステラやたこ焼きや唐揚げは三つずつだし、フランクフルトは半分だけど、少しずつ全種類食べられるから、今年はこれで楽しんで欲しい。
屋台の大部分は、この数日をかけてお屋敷の厨房で作り、できた物からマジックバッグに放り込んできました。
「さぁ、頑張って作るぞー!!」
「おー!!」
お姉さんは、担当のたこ焼きの屋台で右腕を高くあげ、気合いを入れます。私もその横で、張り切って手を上げました!
お姉さんにもマジックバッグを渡して、お家の台所でたこ焼きを作ってもらっていたけど、ソレだけじゃたりないからね!
唐揚げは料理長が、フランクフルトはピーノが、ベビーカステラや綿菓子やかき氷は、キッチンメイド達が作ってくれていますよ。さぁ、開店です!
「おいしいー!」
「お姉さん、とっても美味しいです!」
「はじめてのあじー!」
「ありがとう、どの屋台も美味しいから、全部食べて行ってね」
「はーい!」
たこ焼き、皆初めて食べるよね。うん、うん、美味しいよね。屋台の食べ物は、どれも好評ですよ! 皆、もくもくと食べています。
「これフワフワ!」
「やわらかいね、年寄りにはちょうどいいよ!」
ベビーカステラも好評です。お年寄り達は中央のテーブルで椅子に座り、若者達は歩きながら、子供達はゲームの回りで食べていますよ。
「酒のつまみにいいな!」
「おいしー」
唐揚げも、大人にも子供にも好評です。
「わぁ、パリッっていった」
「うまーい!」
フランクフルト、美味しいもんね。わかるわかる。
「すごーい、とけてなくなっちゃう!」
「あまーい! おいしー!」
綿菓子の食感も、初めてだよね。楽しいよね!
「冷たーい!」
「これ、暑い時にいいわね! 美味しいし!」
暑い夏にはかき氷だよね! 私も食べたい! お姉さんさんの分ともらってこよう。
「やった〜!! とーちゃん、魚取ったー!」
「でかした!!」
金魚すくいの場所から、大きな声が聞こえてきました。この国には金魚はいないから、金魚すくいでは、大河にいる魚の
稚魚が取れれば、大河で釣ってきた大きな魚と交換してもらえるので、食料確保ですよ。皆、頑張って金魚すくいをしています。
「とれたー!」
女の子が、水風船を釣りあげて大喜びしています。水風船も、この世界にはまだない物だから、珍しいだろう。子供達がいっぱいです。
輪投げと射的には、駄菓子のほかにも野菜の盛り合わせや果物、アクセサリーやワインなどが景品として置かれている。
アクセサリーは、私とお屋敷のメイドさん達が作ったレジンやつまみ細工のアクセサリー、水引を使ったアクセサリーや、花のモチーフを使ったシュシュなんかが並んでいます。
若い女の子や奥さん達、また旦那さん達も並んでいますよ。皆、頑張って!
玉入れと紙飛行機飛ばしは、玉を入れた数と飛行機を飛ばした長さで景品が決まります。
景品は、紙風船や凧、お手玉やコマと言った遊び道具になってるけど、参加賞として全員に駄菓子がもらえるの。小さな子供達が、楽しそうに遊んでいますよ。
空に星が瞬き始め、夏祭りも終わりの時間がやってきました。最後にいつものように配給の食料を配って、“楽しかったね、また来年も夏祭りしようね!” と言って、皆にバイバイしてお屋敷に帰りました。楽しかった!
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一口メモ
エスペラント語 → 日本語
ニーガ → 黒
ルータ → 赤
ヴェーダ → 緑
フラーバ → 黄
ブルーア → 茶
グリーザ → 灰
次回投稿は22日か23日が目標です。
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