第5部 理想郷の誕生日《2》
「ほぇー」
大きな大きな大樹、このお山の山神様であるナラの木を見上げ、思わず後ろに倒れそうになった私を、お祖父様が手を出して支えてくれましたよ。
「ちゅごい」
「本当にすごいな」
今日は、あちらの世界に御神木を見にきています!
夏休みの間は、実家に帰省したお子さんやお孫さんを連れて、山神様を見にくる村の人が多いと言うことで、夏休みが終わっておちついた今日やって来ました。山の中に、いかにも外国人の私達が来ていたら、きっと皆びっくりするからね!
ダンジョンマスターにも “御神木に行く時には声をかけてくれ” と言われていたので、昨日行って
お祖父様が持ってきている大河の水に混ぜて、御神木の根元にまくといいらしいよ。
「ふみゅ〜」
私は以前お姉さんから見せてもらた、お姉さんのお祖父さんの弟さんの日記に書いてあったように、両手を広げて大きな幹に抱きついてみた。幹と言うよりは根元に近いけど、気にしないー。
弟さんは、“ナラの大樹の生命の音が聞こえた” と書いてた。静かな山の緑の匂いに混じって
『しゅるしゅる』
と、何か生命の
トルキーソが大河の水が入った
「ふぉ! とるきーちょ、ちゃぢゃれは?」
「お嬢様、さざれは水に入れると溶けてしまうようです。」
「ふぉぉ、とけゆ!」
何だってー! びっくりです、さざれ溶けるのかぁー。びっくりしすぎて、両手がパタパタしちゃったよ!
それからお祖父様とお祖母様、お母様と私、そしてお姉さんは、
「ごきげんでしゅ♪」
ナラの木が “サワサワ” と機嫌よく揺れたような気がして、嬉しくなった私は大樹の側を駆け回った。
「では、帰るか」
「あい!」
お祖父様の言葉に、お母様と手をつないで
ナラの大樹に背を向けたとき
『またおいで』
「う?」
何かの声のようなものが聞こえ、思わず辺りを見回す。でも、そこにはサワサワと葉を揺らす、ナラの大樹しかなかった。
ナラの大樹の枝葉から降り注ぐ
「またくりゅね」
そう言って、御神木に手をふった。
“あちたはー、たんちょーびー♪” と、ぺルルとつないだ手をブンブン振りながら、勝手に作った歌を歌い、もと工場へと向かっています。
もと工場では、お年寄りと孤児達が助け合いながら暮らしている所。裏の畑ではたくさんの野菜を育てていて、今やお
特に、ここにいる一番年上の10歳の男の子と女の子がすごく手先が器用なの。
この間、ホームセンターと100均で買ってきたDIY用品を男の子に渡して、今年の冬は室内では暖かスリッパを履いてもらおうと思っていると話をしたら、お爺さん達と協力して立派なシューズボックスを作り上げていた。もうびっくりだよ!
そして女の子、100均で買ってきた編み機を数種類、一通り説明して渡してたんだけど、どれも使いこなして立派な作品を作ってて、これまたびっくり!
「お嬢様、いらっしゃいまし」
畑仕事を終えたアルボが私達を見つけ、にこやかに迎え入れてくれました。
「まぁまぁ、お嬢様。明日は3歳のお誕生日でございますね」
「あい!」
そうなんだよ! 明日は3歳の誕生日。3歳になればもう少しお口が回って、きっとスラスラと喋れるようになるんだよ! たぶん…きっと……。
入ってすぐの食堂では、マーロやお婆さん達が、編み機でネックウォーマーを作っていました。冬になる前に、全員のネックウォーマーとアームウォーマーを作るんだと張りきっています。これも、100均の老眼鏡のおかげだね。
食堂でお婆さん達とお話をしていると、お爺さん達や子供達もやって来ました。そして
「お嬢様、私達ではたいしたものはできませんが、全員で作ったプレゼントです。お誕生日、おめでとうございます」
と言って、アルボとマーロ夫妻が皆を代表して、二つの小さな紙袋を渡してくれました。
「ぐうなに!」
「はい」
3歳になったら、きっとグルナと自分の名前もハッキリ言えるようになるんだ! 私は二つの紙袋を受けとると、その場で開けさせてもらった。
「わぁー、おいちちょー!」
二つの紙袋の中に入っていたのは、裏の畑で作っている野菜を使って作った蒸しパンのようなものと、クッキーです! どれも野菜の色で、色とりどり。
皆で育てた野菜で、お婆さん達が作ってくれたそうですよ。心温まるプレゼント、嬉しいです! 皆さん、ありがとう!
私がプレゼントに感動していると、今度は子供達が
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとー」
と、木箱をくれました。その箱は観音開きになっていて、そっと開けてみると
「ふぉぉぉ!!」
中は、六つに仕切られた部屋になっていて、そこに六つの編みぐるが入っていました。一つ一つの部屋には、絵が描かれ色が塗られています。
「俺、箱作ったんだ」
「おれは色塗った」
「私、お花を描いたの」
「リボンつけたー」
と、子供達が一つずつ教えてくれます。木箱を作ったのは手先の器用な男の子、上手に作れたそうです。そして六つの編みぐるを作ったのは、同じく手先の器用な10歳の女の子。
小さな子達は、お爺さんやお婆さんに教えてもらいながら、木箱に色を塗ったり絵を描いたり、編みぐるをデコレーションしてくれたようです。
「かあいい♪」
うんうん、可愛い。クマさんやらウサギさんやらおウマさんやら、とーても可愛いのです! この子達には才能があるよ、将来はコレで食べていけるかもしれない。
女の子は編みぐるをいっぱい作って、子供達やお年寄りにも渡してるんだって。今はバザーなんて開けないけど、確実にバザーを開いたら売れるね。
この世界、まだ編みぐるなんてないから! 来年こそは、バザーをしたいよ!
その後、子供達と編みぐるを使って楽しく遊び、今後は縫いぐるみや抱きぐるみも作れるようになりたいなと思った。
子供達が抱きしめて眠れるような縫いぐるみ、いいよね。領地経営に縫いぐるみも入れるべきか?
「ほう、すごいな」
「可愛いですね」
お屋敷に帰って “もらったのー” と、お菓子や編みぐるをお祖父様達に見せれば、感心したように頷いている。
「お菓子も、色とりどりで綺麗ね」
と、お母様。そーなんですよ、お母様! しかも、とっても美味しかったのー。
「来年はバザーがしたいな」
「そうですね」
皆考えることは同じらしい。来年こそは領地を改革し、暮らしやすいコーメンツ伯爵領を目指すのです!
********
次回投稿は30日か31日が目標です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます