第2部 理想郷の売買《2》
「ふみゅ……」
グルナは、片方の瞳でジュエリールーペの中を覗きこむ。そして
「ちゃむ…!!」
と身体を震わせ、小さな両手で自分の身体を抱きしめ、肩の近くをさすった。
「はぅ……」
現実逃避して、座っていたソファーの上からスカイツリーを見る。すると “終わった? 終わった?” とばかりに天使達がやってきて、グルナの両隣にピタッとくっついた。
あぁー、天使達の小さくて暖かい身体が今は癒しに思えるー。
「おねえしゃん、なんがちゅ、うまりぇ?
」
「私、私は4月」
「ふぉ、たいや!」
「キャメリア、は?」
「私は12月です」
「たーこいじゅ、らぴしゅ、たんじゃ、ないちょ!」
「グーちゃんは」
「くがちゅ、しゃふぁいあ!」
なんて、お姉さんと右手、キャメリアと左手を繋いで、誕生石の話をしながらトテトテ歩いてきた道のりが懐かしいよ!
グルナはもう一度、手に持つジュエリールーペでダイヤモンドの
「はぅ……」
綺麗すぎる……。これはもう、
「むり、でしゅ」
こんなの売りに行ったらどうなるか、考えただけでもまた寒気が……。うん、これは見なかったことにして、ネックレスの方のルースに行ってみよー。
元々は指輪だったり、ネックレスだったり、ブローチだったり、ブレスレットだった宝石達だけど、ダンジョンのスライムさんが丁寧な仕事で金とルース、プラチナとルースに分けてくれたのー♪
私はテーブルの上に無造作に置かれている、元はネックレスだったダイヤモンドのルースの中から、
前世、私の両親くらいの年齢だと
さて、ネックレスと言えどショーケースの商品です、カラーは無色に近いように思える。クラリティはVVSだと思いたい! これがFLとかIFだったら超高価になって怖い、ガクブルだよ! カットはエクセレントかな? ショーケースだから。ラウンドブリリアンカットだから使いやすそうだし、これ候補の所に置いとこう。
次、オパール。ブローチの一番大きな石だったウォーターオパールがすごく綺麗。水滴のように透明感があって、何より豊かな
「どうだ、グルナ」
「きれーしゅぎて、こわいでしゅ」
ふぅ、と息をはいてダンジョンマスターに答えれば
「休憩にしよ、グーちゃん」
と、お姉さんが言ってくれます。ちょっと疲れたし、休憩しよ。首を左右に傾けつつ、キャメリアが入れてくれたジュースを、天使達と “ぷはー” して飲みましたよ。
お次は、サファイア。めっちゃ色が綺麗です! これはもう、コーンフラワーブルーじゃないでしょうか。2カラットくらいの大きさかな、これ候補。
その他、ダンザナイトやルビーなど十数個を選び、それを私の予想で三個〜五個ずつ に分けキャメリアに渡します。キャメリアはルースを布で綺麗に拭いてケースに入れてくれました。
ケースを、用意していた三つの袋に入れてお姉さんに渡します。お姉さんが明日、向こうの世界に売りに行ってくれるの。大変申し訳ないです。
「おねえしゃん、よろちぃく、おねがいしましゅ」
ペコリと頭を下げると “任せて!” と、笑顔で言ってくれました。横で天使達も私の真似をして、ダァー “よろしく” やら、ウー “お願いね” などと言って頭をさげていますよ。
お姉さんはそれを見て “よしよし、えらいねー” と、ニコニコしながら天使達の頭をなでています。
その後、皆でお昼ご飯を食べましたよ!
今の我が領地にはお肉が少ないので、領地で収穫しやすいじゃがいもと小麦粉で作った食パンです。
ダンジョンマスターや魔物さん達には、久しぶりの向こうの世界の味ということで大好評♪
魔物さん達の数が少ない時は、よく向こうの世界の食べ物を召還して皆で食べていたそうだけど、今のこの数では無理ということで、長らく向こうの世界の物は食べてなかったらしい。
もともと、ダンジョンマスターや魔物さん達は魔素があれば生きていられるので、食事をする必要はないんだって。でも、ダンジョンマスター前世日本人だから、食事をしたくなるそう。
ちなみに、他のダンジョンでは肉のドロップ品があるから肉には困らないらしいけど、このダンジョンには肉のドロップ品はない。
“何でーっ” てダンジョンマスターに聞いたら、肉のドロップが出るダンジョンは生きた魔物を倒しているから、らしい。
えぇー、ここは?
「このダンジョンはな、大きさのわりに他のダンジョンに比べたら、圧倒的に魔物の数が少ない。この部屋にいるのが全員だからな。それに、本体はダンジョンの中には行かない。」
「ほんちゃい?」
コテン、と首を傾けて聞けば
「大切な仲間が傷つくねは嫌だからな。このダンジョンの中にいる魔物は、こいつらの身体の一部から作られる分身みたいなもんだ。俺が魔素を使って生み出す魔石を核に、こいつらの毛や羽を使って身体を作り出している。作り出した魔物達は魔素の吸収率にもよるが、倒されてドロップ品を落としても、三度くらいは復活する。数が少なくなれば、また魔石と毛や羽で作り出すの繰り返しだな。実体じゃない魔物だから、肉は落とさない。魔石か、魔石から変化したドロップ品だけだ。あと、食物の種な。」
にゃるほど〜。じゃなかった、なるほどー。それでこのダンジョンには肉のドロップ品がないのかー。
ダンジョンマスターは仲間を傷つけたくないし、曽祖父は食物の種や多くのことに使える魔石ができるだけ簡単に欲しい。二人の利害が一致して、今の初心者向けダンジョンの形ができたらしい。
「で、グルナは何が欲しいんだ」
今回、ダンジョンのドロップ品を変更することになったの。今のままじゃどうしようもないから。
「ぐうな、れちん、ほちぃ」
私がそう言うと、キャメリアが100均のレジン液とモールド、できあがったレジンの作品を出してくれた。ダンジョンマスターはそれらを触りながら、“うむー” と呟き “他には” と言った。だから私は、欲しい物を遠慮なく言ってみた。
「わかった。なんとかできるように考えておく。」
と、ダンジョンマスターは言ってくれた。何がどうなるのかはわからないけど、良い物が手に入るといいなぁと思う。
「グーちゃん〜、怖かった〜!!」
お姉さんが宝石を売りに行ってくれた日、夕方お姉さんのお家に行くと、ちょっとガクブルしてた。
「おねえしゃん、どうちたにょ!」
ビックリして、私がお姉さんの元に駆け寄って聞くと
「こんな大金見たことなくて、持って歩くの怖くて、銀行に口座作って速攻入れて帰ってきたのー。」
と言いながら、私に通帳を差し出した。お姉さんの言葉に “はて?” と思いながら、通帳を受け取って中を確認すると
「ふぉぉぉぉ!!」
驚き飛び上がった。“なんじゃ〜、こりゃ〜!!”
予想とまったく違う
お姉さんには祖父母からもらった物と言う設定で、質屋さん三軒に売りに行ってもらったの。
宝石は売値は高いけど、買い取り価格は売値からしたらたいしたことないはずだから…、と思ったんだけど。行く店行く店で帯封を渡され、すぐに銀行に駆け込んだらしい。
それは怖いね。お姉さん、ごめんなさーい。
“それはグーちゃんが持ってて” と言うことで、通帳は私のポシェットの中にないないしましたよ! 明日、ダンジョンマスターに見せに行く約束してお屋敷に戻ると…。
お屋敷では、
「おぉ、グルナ。グルナのおかげで肉がたくさん手に入ったぞ。その他にも、色々な種類の小麦粉が手に入った」
と言った。
「ぐうな?」
私?と、首を傾けていると
「グルナは新しいドレスの形や、花のモチーフやドレープ、新しいパニエなんかたくさん作っただろう。」
「あい」
そーねー、お祖父様の服とお祖母様のドレス。その他、夜会用のドレスと子供用のドレス、モスリンの赤ちゃん服なんか作ったよねー。
「その形や作り方を、コルポールティス商会があちらとこちらで登録してくれている。今あちらでは、グルナの作ったドレスがとても流行っているそうだ」
「ふぉ!」
なんだってー! いつのまにー!
“それでなグルナ” と、お祖父様は私に目線を合わせると
「今日、コルポールティス商会からデザイン料が食べ物で届いた。これで、ホットケーキも食パンも唐揚げもハンバーグも、いっぱい作れるぞ」
と言って、ニッコリ笑った。
「ふぉぉ! からーげ! はんばーく!」
「あぁ、次の配給日にいっぱい作って、領民達に配ろう」
「あい! たんじょんにもー」
ダンジョンマスターや魔物さん達も喜ぶよー!
私は嬉しくなって、お祖父様に抱きついた。
からーげー♪ はんばーくー♪ と嬉しそうにルンルン歩く私を、使用人達が微笑ましげに見ていたけど、それは気にしなーい。明日はハンバーグだからね!
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次回投稿は27日か28日が目標です。
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