第2部 理想郷の売買《3》

 か〜ら〜げ♪ か〜ら〜げ♪ おいちぃ〜よ〜♪


 いったいなんの歌だよ! とツッコミをいれたくなるけど、そんなのは気にしなーい。だって、私2歳だもーん♪


「グーちゃん、今日は唐揚げなの?」


 私のルンルン具合を見たお姉さんが、聞いてきます。


「きょーは、はんばーく、なにょ!」


 そうなんですよ、今日の夕飯はチーズインハンバーグなの。それも、お姉さんをお招きしての食事会ですよ! 料理クック長も、朝から張り切って準備をしています。


料理長りょうりちょうのハンバーグ、楽しみね」

「あい!」


 今や料理長は、お姉さんのお家に行って、テレビやタブレットで料理の作り方を見せてもらうくらいには、親しいの。

 お姉さんとぺルルに両手を繋いでもらい、ルンルン♪ ピョンピョン♪ とダンジョンマスターの部屋への道のりを歩きます。


 か〜ら〜げ♪ か〜ら〜げ♪ ルンルン♪


 何でハンバーグじゃなく、唐揚げかって? それはね、ダンジョンマスターへの差し入れが唐揚げだからだよ!

 昨日は我が領地の食料事情のため野菜コロッケだったけど、今日は唐揚げ! なの! 皆喜ぶねー、きっと♪


「たんじょん、まちゅたー、きたよー」


 ぺルルに抱き上げてもらい、虹彩認証こうさいにんしょうを済ませ、お姉さんに分厚い扉を開けてもらいます。

 玄関で靴を脱がせてもらって、スリッパをはいてパタパタと歩いて行くと “よっ” とダンジョンマスターが手を上げて迎えてくれました。

 私はよじよじとソファーによじ登り、ダンジョンマスターの前にペタンと座る。すると、いつものように天使達がやってきて、両隣にピタッとくっついた。そして、マンドラゴやスライムなどの魔物さん達も、回りにやってくる。私は両手を上げて


「たんじょん、まちゅたー、ちゃちいれ、よー」


 と言った。ダンジョンマスターはハハハと笑うと


「昨日売り行った宝石が高く売れたのか?」


 と言う。私はポシェットから通帳を取り出すと、ダンジョンマスターに差し出す。ダンジョンマスターが、ソファーからテーブルに移り通帳をつかむと、その短い手を器用に動かし通帳の中を見た。


「はぁーーー!!」


 金額を確認したハリネズミ、もといダンジョンマスターが、その金額に目を見開く。うん、そーなるよねー。


「100以上、予想金額と違うじゃないか!」

「あい。びっくり、でしゅ」


 そう、私もびっくりよ! でもね、差し入れは通帳の金額とはべつなの! 私は自慢気に胸をはり、言いましたとも! めてくれてもいいんだよー。


「へぇ、グルナの作った服のデザイン料か」

「あい!」

「グーちゃんすごい、レジン作品だけでもすごいのに、ドレスまで作れるなんて」

「おねえしゃん、およめ、いくとき、ぐうな、どれちゅ、つくりましゅ」

「えぇーー! ほんと!!」

「あい! まかしぇる、でしゅ!!」


 私はコクンと、大きく頷いた。お姉さんとキャメリアとぺルルのウェディングドレスを作ることが、私の今の目標なのだ。


 目の前では、ダンジョンマスターと魔物さん達と天使達が、唐揚げをむさぼっていますよ。味つけは、昔ながらの日本風。料理長が、タブレットを見て選んだ味つけです。

 ダンジョンマスターは “懐かしい〜” と言いながら、魔物さん達は “美味しいー” と言いながら食べています。いゃ〜、こんなに喜んでくれとは。料理長にお願いしたかいがありました。

 私も一口あ〜ん、うまうまでしゅ〜♪


 そして今、ダンジョンマスターからドロップ品の案を聞いている。

 それはまるで、手のひらサイズくらいの水晶クリスタル六角柱ろっかくちゅう。傷一つない透明な水晶みたい。


「これを数種類作るつもりだ。例えば、グルナが必要としているレジン液。この六角柱の中からレジン液が取れるようにする。または、グルナの言っていたスキンケアのもとだ。これに精製水とハーブなどをたせば化粧水になり、蜜蝋をたせばクリームにもなる。たすものによって、様々な化粧品ができるようになるだろう」

「万能」


 お姉さんが、思わず呟いた。ほんと、万能です。ダンジョンマスターの話では、ほかにも考えている物があるそうで、色々な話を聞いた。

 また、以前スーパーで買った冬用の裏シャギーやマイクロフリースなどの服の布地やマイクロファイバー毛布も、ドロップ品として出してくれるそうだ。魔物を倒せば、六角柱か布地が手に入るようになるらしい。

 だが、そこで必要になるのが見本になる現品。レジン液の六角柱は、スライムを倒せば出現するようになるため、一度ここにいるスライムの本体が、身体にレジン液を取り込まなければいけないそう。

 取り込んだ物がそのまま出てくるらしいから、できるだけいい品物を用意したい。


「どうだ、グルナ。用意できるか」

「あい。おねえしゃん、ぱしょこん、ぽち、いーい」

「もちろん、いいわよ」


 よかった。レジン液は、透明度が高いことで有名な某メーカーの黄変しにくい物が欲しいけど、この辺には売っているお店がないらしいから、通販で購入させてもらおう。


「それと瑠璃、悪いができるだけ大型のテレビとホームシアターシステムを購入してもらえるか」

「テレビとシアターシステム?」

「あぁ、なんとかここで使えるようにしたい。こっちに転生してから、前世で趣味だった映画や舞台が見れないことだけが辛くてな」

「ふぉ! みゅーじかゆ、みゆ!!」


 何だってー! 舞台、私も見たい!! 菫の花の歌劇団でも、フランス語で八百屋の劇団でも、オペラでもいーい!!


「グルナも見るか!」

「みゆ!」


 私はついついテンションがアップして、ソファーの回りを、くるくると回ってしまったよ。

 そんな私のあとを天使達や魔物さん達がついてまわるから、皆でグルグルグールグルだよ!


「ほかに、どんな物が必要?」

「あ、べっちょ、いゆ」


 そうだよ、ベッド買わないと。グルグル回ってる場合じゃないよ。

 せっかくマットレスを作ってるんだから、マットレスに合う向こう世界サイズのベッドが必要。じゃないと、お姉さんにお泊まりしていってー、も言えない。


「あとは、ひたすらDVDだな。グルナは、テレビはいいのか」


 ダンジョンマスターの言葉に、私は首を左右にふった。この世界の私には、必要ないものだ。この世界には、テレビ局なんてないんだから。DVDが見たい時は、ここに見に来るからいい。

 それに、この時代にテレビなんてあったら、まるでオーパーツだよ。ダンジョンの中は何でもありの所だからいいけど、地上はダメだと思う。あっ、でも


「ちぇんたっき、ほちぃ」


 この世界、洗濯はすべて手洗い。まぁ、だからランドリーメイドがいるわけだけど、冬場の洗濯はお屋敷も普通の家も大変だと思わの。

 全自動じゃなくてもいいから、二槽式洗濯機みたいなのが欲しいな。


「瑠璃は、何かないのか」

「えっ、私。なんで」

「多分瑠璃のことだから気がついてないと思うが、瑠璃がいなければ向こうの金は手に入らなかった。分け前がないわけないだろ」

「えぇー、要らないよ私。皆の役にたてただけで嬉しいよ。こんな異世界にも連れてきてもらえて、ダンジョンまで見学させてもらえたし」

「だめ、でしゅ! ぐうな、いにゃくても、おかね、できゆ。でも、たんじょん、まちゅたー、おねえしゃん、いにゃかったら、おかね、てきない。ちゃんとうぷん、すゆ」

「三等分、もらいすぎだよ! どうしてもなら…、端数、端数でいいよ」

「いや、ここは俺と瑠璃が100ずつ、残りが全額グルナだ」


 えぇー、役にたってない私が一番もらいすぎだよ! と、思ったけど


「グルナは領地の発展のために金を使うんだろう。ありがたくもらっとけ」


 と言うダンジョンマスターの言葉に、ありがたく頷かせてもらった。


「となると、少しでもいい商品が安く買えた方がいいわよね。来月、私が使ってるネット通販の会社のセールがあるけど、買うのはその時でいい」

「あぁ、いいぞ。迷惑かけるけど、よろしく頼むな」

「OK」


 お姉さんはそう言うと、私に目線を合わせ


「ねぇ、グーちゃん。来月うちにお泊まりして、一緒に “ぽち” しない」


 と、言った。


「すゆ!!」


 喜び勇んで、私が飛び回ったのは言うまでもない。




********


次回投稿は30日か31日が目標です。投稿は12時予定ですが、もしかすると18時になることがあるかもしれません。m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る