第3部 理想郷の催しごと《3》
ルン♪ ルン♪ ルン♪ 私はクーちゃんの背中に乗りご機嫌です!
えっ、クーちゃんって誰?って、隣国のクンルダントさんがくれた青毛のシェトランドポニーちゃんのことだよ。
クーちゃんは2歳の女の子なんだけど
それにね! クンルダント領には子供の乗馬用に持ち手がついた鞍があって、それもプレゼントしてくれたのー♪ だから私は鞍に乗りベトゥーロに
で、何処へ向かっているかといえば、街の中央広場。今日は領地の皆に、食料を配る日なのです。準備も告知もバッチリ!
組み立て式の屋台と食料は荷馬車に、お母様とお祖母様は馬車に、お祖父様はやんちゃなフラーバと言うお馬さんに乗って、中央広場に向かっています。
やんちゃ馬を乗りこなせるお祖父様、カッコいいですー♪ いつか私も一人でクーちゃんに乗れるようになるんだもん。ベトゥーロ歩かせてごめんね!
さて、やって来ました中央広場。先に準備に来ていたハウスメイドと
私達はささっと屋台を組み立て、
隣では荷馬車の前に従僕が立ち、その横ではお祖父様が領民の皆さん達に話をしています。
私はクーちゃんの上から辺りを見回しキョロキョロ。小さな影を見逃さないようにしなければ!
お祖父様の話が終わり、家族総出で中央広場にやって来ていた人達は、配給の食料をもらい屋台で食べ物をもらい、皆笑顔です。
「おいちぃー」
「こんなの初めて食べる」
「うめぇなぁ」
と次々に喜びの声があがります。そーでしょう、そーでしょう、ドーナツ美味しいよねーと思いつつ、私も領民の皆さんにニッコリ笑ってご挨拶。
「ぐうなでしゅ。よろちくおねがいちましゅ」
先にご挨拶してくれたのは元料理長のお爺さんや元メイドのお婆さん達です。皆さん定年を向かえ街に住んでいるそうです。
お屋敷で定年を向かえるまで働いてくれた使用人さん達には、老後に住む家と生活できるだけのお金が毎月支払われます。だから一般の領民よりは生活に不安がないのかもしれません。
お爺さんお婆さんに愛想を振りまき領民の皆さんにも顔見せし、クーちゃんの背中から降りて一休みです。あーつかれた。
冷たい果実水をグビグビ飲んでいると、こちらを見ている男の子を発見! 年は5歳くらいでしょうか。壁の向こうから顔だけ出してこちらを、いえ屋台の食べ物を見つめています。きっとお腹をすかせているのでしょう。
私はメイドのぺルルのエプロンを、クイクイと引っ張ります。ペルルは頷くと、ドーナツを取り渡してくれました。
私はててーと男の子に近寄ると
「あい、どーじょ」
と、ドーナツを差し出します。男の子はびっくりしたようだけど、その目はドーナツに
「どーなっちゅ、おいちぃよ」
コテンと首を傾ける私を見て、どーなっちゅ、と男の子は呟いた。どーなっつだけどね!
「お、おれ、おかねもってない、から」
「たいちょうぶ、おかね、いらにゃいの」
私は男の子の目の前まで行くと、あい、とドーナツを手渡しました。男の子は私とドーナツを交互に見て、でもドーナツの誘惑に負けて、カプっとドーナツにかじりつく。
「おいちぃ?」
「お、おい……しい」
ポロリと、男の子の目から涙がこぼれ落ちた。
「みんにゃで、どーなっちゅたべゆ。おともらち、いゆ。ぺルル」
すぐ後ろまで来てくれていたぺルルに声をかけると、ぺルルは頷いて男の子に声をかけてくれた。
今日ぺルルに来てもらったのは、2歳で言葉が上手く出ない貴族の私じゃなく、孤児だったぺルルの方が彼らの気持ちがわかると思ったから。
孤児院出身のぺルルの方が、工場のことも今後の生活のことも誰よりも上手く話すことができる。ぺルルは
「行ってきますね」
と言うと、男の子の手を引いて街の中に消えて行った。
「くーちゃん、あーい」
私は只今、クーちゃんに人参を食べさせています。小さな手で人参を持って、手をカプっとされないように気をつけて、クーちゃんの口元に、はいどーぞ。
今日はクーちゃんもよく働いてくれて、可愛いーと近寄ってくる人達にも、おとなしく対応してくれてました。クーちゃんえらーい!
そうこうしているうちに、アルボとマーロが数名のお年寄りを連れて来ました。
「おばぁーしゃん!」
私はとてとてとお婆さんに近づきます。
この辺境地区に来た日、男の子に荷物を奪い取られたお婆さんです。お婆さんは私に目線を合わせると、久しぶりですね、と言ってニッコリしてくれました。
おっといけない、足腰の悪いお婆さんに中腰はダメ。私はお婆さんの手を引いて、近くにあるテーブルと椅子の所にご案内しましたとも! できる2歳を目指すのです♪
アルボとマーロ夫妻はあの日から、ちょくちょくお婆さんのお家を訪ねていたそうです。私とお母様も一度、パンを持って行ったよ。
マーロ夫妻はお婆さんにご近所さんを紹介してもらい工場の話をして回ったらしく、今日は工場に住む予定の皆さんがお世話になりますの挨拶をしに、お祖父様とお祖母様に会いに来たんだって。わぁーご近所さんになりますね、お婆さん!
工場の三階は、もう四部屋うまっているそうですよ。早い! お婆さん達が四人で二部屋、お爺さん達が二人で一部屋、あとは病気をかかえるご夫婦が一部屋。この他にも、考え中の人もいるんだって。
あっ、ぺルルが子供達と一緒に帰って来ました。男の子3人と女の子3人の6人を連れています。
私はドーナツをあげた男の子に近寄ると、その手を取ってテーブルと椅子のある所に案内しました。そして
「おばぁしゃんたちに、ごめんしゃいすゆ」
と、一番年上の男の子に言った。
お婆さんから荷物を奪い取った君だよ! そりゃね、君の気持ちもわかるよ。自分より年下の子供達をかかえ、生きて行くためにはそれしか手段がなかったのかもしれない。ぺルルも孤児院では色々なことを注意されていたらしいからね。
あらかじめぺルルが話をしてくれていたので、子供達は皆でごめんなさい、と頭を下げていた。
お婆さん達も、食べ物がなくて辛かったね、と子供達に言ってた。
子供達が食べる物もなく困っていたのに、大人である自分達が何もできなかったことを気にしていたらしい。でも、お婆さん達だって生活に困っていたのだ。
工場に一緒に住むことで、なんとか助け合って生活が良くなってくれるといいなー。そんな話をしていると、別に4人の子供達がやって来た。別グループの子達らしい。一応、この街で孤児と思われるのはこの子達だけらしい。ぺルルが子供達に会いに行った時に別グループの話を聞いて、別グループにも話をつけてきたらしいから。
孤児達は今日の食べ物にも困る生活なので、皆で工場に行って今日から一緒に住む。男の子が6人、女の子が4人だ。
食料の配給と屋台が終わり、街の皆に挨拶をしてから屋敷に戻る。帰りは途中の工場まで孤児達と一緒。
皆クーちゃんに触りたそうだったから、大人達が挨拶をしている間に
「さわゆ。くーちゃん、おとなちぃ。やさちく、いいこーすゆ」
そう言えば、皆は恐る恐ると言う感じでクーちゃんに手を伸ばした。クーちゃんのおかげで、皆仲良しになりましたよ!
私は行き同様クーちゃんの背に乗って、子供達は荷馬車のあいた所に乗って工場まで行きました。そこでちょっぴりお手伝いをして、またねーと言葉をかわしてお屋敷に帰りました。
「今日は大活躍だったわねグルナ、えらいわ」
と、お母様が褒めてくれましたよ! お母様ー、私頑張ったのー、と甘えん坊になったのは言うまでもありません!
今日は皆、いい仕事したよ!
********
次回投稿は12日か13日が目標です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます