第3部 理想郷の催しごと《2》


 どーなっちゅ♪ どーなっちゅ♪

 ぽてぽてと、軽〜い足どりで厨房に向かってます! きっとスキップできてる、はず。後ろでキャメリアが微笑ましげに見守ってるけど、気にしなーい。

 クンルダント領でお祖父様は、大量の小麦粉やじゃがいも、野菜を購入してきました。

 今度これらの食料を街の広場で配るんだって。一家族ごとに配るからたいした料にはならないかもしれないけど、配るときに屋台も出して無料で食べてもらう予定。今の領地では大きなイベントだよ!

 前世の私がもう少しまともに料理をしていれば色々な屋台が作れたかもしれないけど、料理に関してはポンコツきわまりない私。せめてマヨネーズの作り方がわかればポテトサラダが作れたのに。

 でもね、この世界ではごくごく普通の料理じゃがバターを配ろうと話し合っていたとき、私は思い出しました! 小麦粉と砂糖と塩と酵母だけでできる簡単料理を。イーストドーナツです!

 前世でグレーズドドーナツの特集番組を見ていた時に、簡単に作れる方法として紹介されてたやつ。これなら卵も牛乳もバターもいらないよ!

 領地ではオリーブと甜菜てんさいも採れるから油と砂糖はある。酵母もあって、パンやスコーンに似た物もあるし。

 よく思い出せたよ、私! ただ分量の記憶が曖昧で、初めて料理クック長に作ってもらった時は何とも言いがたいできだった。

 今日は二回目のドーナツ作り、もう私の記憶じゃなくて料理長の腕、だよ。相変わらずポンコツな私で申し訳ない。しょぼん……。

 自分で作れるお菓子のほとんどはホットケーキミックスを使ってたからね、今考えつくのはこれくらい。そして今日は、フライドポテトも作ってもらうんだ♪

 フライドポテトならじゃがいもを洗って切っで揚げるだけだからね。間違えようはない! はず……。


「くっくちょ、きたよー」


 私は厨房の入口に立つと、片手をあげて意気揚々と挨拶しましたとも!


「いらっしゃいまし、お嬢様」


 厨房から声をかけてくれたのは、見習いのピーノ。中には料理長のティヨルと見習いのピーノ、キッチンメイド達がいます。


「おっ、お嬢様。下準備は終わってる、両方とも揚げるだけだ」


 わ〜い、聞きました! 揚げるだけですって♪ 私は嬉しくて、思わず両手をぱたぱたさせちゃいましたよ。さっそく揚げてもらいましょう。

 最初はドーナツからですね! ドーナツは小麦粉と砂糖と塩と酵母にぬるま湯を混ぜて湯煎につけて、少し置いていたもの。ドーナツの抜型がないから、スプーンですくって油の中に落とします。


「できちゃ、できちゃ」


 私は料理長の後ろで、ぴょんぴょんはねながらドーナツができあがるのを待ってます。

 ピーノ砂糖、と料理長の声がして、ピーノが砂糖をパラパラとふりかけたらドーナツのできあがり。


「はい、お嬢様」


 ピーノがくれた小さな丸いドーナツ。できたてですよ! 熱いのでフウフウしてからいただきます。

 かぷっとドーナツにかじりつけば、外はサクッ、中はふわふわ♪


「おいちぃー!!」


 思わず飛び上がっちゃいましたよ。あぁ〜、前世のドーナツを思い出します。いつか抜型を手に入れたいですね!

 皆も食べてみてー、美味しいよー、とオススメしました。皆で試食、うまうまですー♪

 その後フライドポテトもいただいて、屋台の無料配布はじゃがバターとフライドポテトとドーナツに決まりました。









 今日はクンルダント領からコルポールティス商会の服飾担当の人が来るそうです。私はなんで、と首を傾けます。先日お祖父様達がドレスと赤ちゃんの服などの発注を受けてきました。が、この世界のドレス作りはオーダーメイド。

 ドレスを作るにはご本人に会って採寸して、型紙を作ってから仮縫いをして、また本人の体型にあわせてと色々手間がかかる。

 我が家が発注を受けてもお客様は隣国、採寸とか仮縫いとかどうするの? と思っていたら、コルポールティス商会が間に入って採寸と仮縫い後のチェックをしてくれるそうです。

 すごいね! 隣国の商会と共同作業と言うわけです。ロリエに隣国まで行ってもらうわけにはいかないからね。我が家は少数精鋭、ロリエに抜けられると困ります!

 と言うことで、コルポールティス商会の人はお店が終わった後で来るそうです。そしてここにいる間は、料理長のお家に泊まるんだって。どうして料理長のお家? と思っていたら、なんと服飾担当の一人は料理長の娘さんなんだって! びっくりです。料理長には息子さんと娘さんがいて、二人共コルポールティス商会で料理と服飾を学んでいるんだって。いつか、私も隣国に行ってみたいです!

 ドレス作りは予想外のお仕事だけど、収入を得られることは嬉しい。とにかく今は、領地の経営が少しでもよくなるよう頑張らねば! えいえいおーと片手を振り上げたら、何のお遊びですか?って言われちゃよ。

 今私はお祖父様と手を繋いで納屋の中にいます。扉を開けるとあちらの物置。物置の扉を開けて向こうの世界へ。


「ここがグルナの理想郷か」

「あい」


 隣国から帰って来た日の夜に、お祖父様とお祖母様にも話をしたらすごく驚いていたけど、向こうのお金やお母様やトルキーソの話を聞いて信じてくれました。

 昨日はお祖母様とお金の回収に来て、今日はお祖父様とです。本当は早く見に来たかったようだけど、催しごとの準備で忙しくして、今日やっと来れました。

 ここは、今の私からすると確かに理想郷なんだ。あっちの世界と違って争いもなく飢えることもない、お店に行けば欲しい物が手に入り、体調が悪ければ病院に行けて、ネットで調べれば簡単に知恵が手に入る。前世では当たり前のことすぎて考えてみたこともなかったけど、確かにここはあちらと違って安心して生きていける理想郷なんだと思う。

 辺りを見回し、車が来ないことを確認してから箱とお金を回収。今日も野菜は売り切れです! やった〜♪

 ここ、思ったよりも車が通るんだよね。さっさと箱をポシェットに入れて戻ります。


「今日もいないのかい」

「あい」


 物置の隣のお家は、まだ留守です。早く帰ってこないかな。お家の奥にある見上げた桜はまだ五分咲き。


「おちぃしゃま、まんかいなったら、おはなみしよ」

「ん、コライユも言っていたはなみか。」

「あい。おべんとう、みんなでたべゆ。ちゃくらのはにゃ、きれー。おはなみ、たのちぃ。」


 さいわい桜の木はお家の中ではなく、裏の山にあります。道路を通る車からは木の下は見えないし、ちょうどいいよね。

 まさか現世でも桜の花が見れるなんて、お母様やお祖父様、お祖母様とお花見ができるだなんて。

 私、桜の花大好きなんだ。









 夜になって、お祖父様に抱っこされて船着き場にやって来ました!

 この時代の船着き場、気になるじゃありませんか。船着き場はお屋敷を下って工場の前を通って、街と工場の間ぐらいにあります。

 お屋敷は丘の上に建っていて敷地の一番端は崖になってます。高くてびっくりだよ! 崖の下は大河が流れていて、お屋敷の畑の先からは大河と隣国が見渡せました。

 こちらは隣国と比べて土地が高い場所にあるようで、船着き場からでないと船の乗り降りはできないみたい。崖をよじ登ることはできないからね!

 そう考えるとコーメンツ辺境地区は防衛という意味ではいい所かもしれません。攻めこまれにくいしね!


「旦那様、お久しぶりでございます」

「おぉ、シェーヌ久しぶりだな。元気にしていたか。ソールも元気か。」

「はい、私も兄も元気です。こちらは同僚のエラーブルです。今回はお世話になります。あっ、もしかしてそちらはグルナお嬢様ですか?」

「ああ、そうだ。グルナ、ティヨルとノワイエの娘のシェーヌだ。」


 初めましてー、と挨拶をして二人をお出迎え。

 今日はお屋敷でお祖母さまとお母様に挨拶をして、その後は料理長のお家でゆっくりしてもらって明日からお仕事です。花びらの形を変えたり枚数を変えると色々なお花ができるし、ドレスやら赤ちゃん服作りも頑張りたいですね!

 あぁー、なんだか眠くなってきちゃいましたお祖父様。船着き場に行ってみたくて連れてきてもらったけど、もうおねむです。おやすみなさ〜い。




********

一口メモ


フランス語→日本語


シェーヌ→ナラ

ソール→柳

エラーブル→楓



次回投稿は9日か10日が目標です。


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