第1部 理想郷の真実《3》
やって来ました! 昨日見たかった工場です。
キャメリアに手を繋いでもらい、とてとてと自分の足で歩いてきましたとも! 後ろには、お母様もお祖母様もいます。
実はこの工場の鍵、お祖父様が持っていました。昨日お母様と話をした時に、私が工場を見たいと言っていたという話を聞いて、今朝工場の鍵を渡してくれたのです。やったーと喜んだのは、言うまでもありません。
その様子を見ていたお母様とお祖母様も、一緒に工場を見に行くことになりました。
「ほわ〜」
工場の中は、クモの巣だらけで埃ぽかった。と言うようなことはなく、綺麗に手入れされ、今すぐにでも使えそうです。何でかなぁ。キャメリアが言うには、定期的に屋敷のメイドさん達が掃除に来ているのだそう。
入ってすぐは何にもないガランとしたところ、その奥には大きな洗い場とコンロや冷蔵庫のような物がありました。
冷蔵庫も錬金術で作られるんだって、知らなかったよ!
洗い場の奥は倉庫のようになっていて、倉庫の前に二階への階段がありました。
二階には机や椅子が幾つかある事務所に使われていたと思われる部屋と、何にもない部屋が二つと、何と小さいながらも猫足バスタブがあるお風呂場がありました。
そうなんです、この世界のお風呂は猫足バスタブなんです。私の部屋にも、子供用の猫足バスタブがあるのです。
二階から三階に上がると、従業員の部屋だったと思われる部屋が六つありました。驚いたことに、各部屋には二段ベッドが二つずつと、机とタンスが一つずつ置いてあります。ベッドの上には布団もあり、すぐにでも住むことができそうです。
お祖母様に聞いた話によると、この工場は隣国の商人が建てたものらしい。経営も、隣国の人がしてたらしいよ。
この隣国の商人さん、曽祖父が戦を終結させるために暗躍していた時、たまたま盗賊に襲われていた商人さんを助けたことがきっかけで知り合ったのだとか。しかも助けた商人さんは、隣国ではかなり大きな店や支店を幾つも持つ人で、貴族や王族への
曽祖父が隣国での暗躍に成功したのも、危ない所を助けてもらったことに感謝した、商人さんのおかげだったんだって!
その後も、隣国と大河を挟んだこの地に曽祖父が来たことで交流が続き、この地に工場をたてコーメンツ辺境伯領の発展にも力をかしてくれていたのだとか。
曽祖父亡き後も交流は続き、この国が戦を始め仕方なく工場をしめ隣国に帰るときも、何かの役に立つかもしれないと工場の物はすべて置いていってくれたのだとか。とってもいい人だよ、その商人さん! さっそく使わせて欲しいです!!
お祖父様は、戦が終わった時にいつでも商人さん達が戻って工場が再開出来るようにと、メイドさん達に掃除をさせていたらしい。でも、あまりにもこの大地の疲弊が激しく、戻って工場を再開することはできそうにないとのこと。
それでも定期的に取引があり、今この領地の経営が成り立っているのは商人さんのおかげもあるらしい。商人さん、本当にいい人!
工場探検を皆でして、裏の空き地で畑も作れそうなことは確認したので、私は満面の笑みで言いました。
「みんなで、しゅむの!」
私の皆で住む宣言に、お母様やお祖母様達が驚いた顔をした。そうだよねー。
工場から帰って昼食後は、お昼寝タイムです。お祖父様のお仕事が長引いていて、領地のお話はもう少したってからということになり、ゆっくりお昼寝させてもらいます。お昼寝大事!!
そして今、お祖父様の執務室にてソファーに座り、話を聞いています。領地の経営は、かなり厳しいようです。
街で何らかの仕事をしている人達や、ある程度広い土地で農作業ができている人達は少ないながらも収入があり、ギリギリでも生活はできているらしい。
確かに、街で見かけた人達は活気はなかったけど、痩せこけてはいなかったもんね。でも従業員を雇ったり、生活に余裕があってお金を自由に使えるわけじゃないから、領地にお金は回らないらしい。
働いている人がそうなんだから、お年寄りにいたっては最低限の食べ物にも事欠く生活だって。うん、昨日のお婆さんのところがそうだったよね。
孤児がいることもわかってはいるが、暮らしぶりや人数は把握できていないらしい。何とかしたいが、今は何もできそうにないとのこと。
「情けない」
そう呟いたお祖父様が、少し小さく見えました。お祖母様もつらそうです。
「おちぃしゃま、おばぁしゃま」
さぁ、ここで私の出番です。私はお母様を見つめました。お母様、バシッと言って下さい!
「お父様、先ほど工場を見に行った時にグルナが言ったのだけれど。」
「グルナがかい、いったい何を言ったんだ」
お祖父様が私を見ました。
私は計画が達成されることを願って、両手を上げてお祖父様に
「皆で工場に住めばいいって」
「んん、皆で工場に住む?」
「ええ、孤児達を工場に集めて住まわせるの。」
そう、工場からの帰り道、私は孤児院出身のぺルルが
小さな手で遠くなっていく工場を指差して、一部屋に四人で寝起きしてたんだって、と。
一緒にお年寄りも住んだらいいよね、とも言ったよ。
前世の世界でも老人ホームに子供が慰問に行ってたように、慰問じゃなくて一緒に住むことで、お年寄りは孤児に生きていくための知恵を教え、孤児はお年寄りの話し相手になり手助けをしてあげればいい。
この世界にも孤児院はあるしお年寄り達の介護施設みたいなものもある。
だけど、子供達とお年寄り達を一緒に暮らさせるって考えがないんだよね。はじめはお母様も、ぜんぜん話がつうじなかった。この口で説明するのは大変なの。でもさすがお母様、王都でも仕事ができる女性だったから、何とか私の言いたいことはわかってくれたの。
お母様、大好きー♪
「工場に住まわせる、孤児とお年寄りを。」
「ええ、お互いにできないことを助け合って、協力しあって、一緒に畑を耕して暮らすの。どうかしら」
「確かに、工場なら部屋もある。風呂も、業務用だがキッチンもある」
「部屋にはベッドも机もタンスもあるわ」
「できるか。だが必要な物もあるだろう、いくらかの資金が必要だな」
そんな話をしていたとき、ドアをノックする音がして、トルキーソが入って来た。
「旦那様、クンルダント家からお手紙が届いております」
「クンルダント殿から」
クンルダント、誰でしょう?
コテンと首を傾けた私の前をトルキーソが通りすぎ、お祖父様の机の上に持って来た手紙を置きました。私はお母様を見て
「くんる、だんちょ、だえ」
と聞いてみました。
お母様は曽祖母の実家で大河の向こうに見えるお屋敷の人よ、と教えてくれました。おぉー、隣国の人だよ!!
「何のお手紙ですの」
お祖母様がお祖父様に聞いています。お祖父様は手紙に目を通し
「お茶会の招待状だ。久しぶりにこちらにいらっしゃいませんか、と書いてある。何か売れる物があれば、喜んで行くのだがな」
「うっ?」
どういうこと? 私はお祖父様を見つめました。お母様も同様のようです。
私達の態度に気づいたトルキーソが教えてくれました。
なんと、お祖父様は戦で困窮する中、お祖母様と一緒にお屋敷で売れそうな物をクンルダント家からお茶会の招待があった時に隣国に持っていき、そこで売ってお金を作っていたんだって。
そしてそのお金を領地のために使っていたのだそう。だが、お屋敷にはもう売れる物がない。
クンルダント家はこちらの困窮をしり、何らかの力になれればと度々お茶会の招待状を送って来てくれるのだとか。
向こうに行っている間はクンルダント家でお世話になり、とてもよくしていただいているのだとトルキーソは言った。
遠い親戚、いい人!! 私は思わずソファーの上に立ち上がり言った。
「おちぃしゃま、おばぁしゃま、くんる、だんちょ、いく。うりゅもの、あゆ。ぐうな、もっちぇる」
と。そう、任せたまえ、まだまだ私のポシェットの中にはお宝が眠っているのだ。
私は自慢気に胸をはったよ!
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一口メモ
エスペラント語→日本語
クンルダント→味方
次回更新は23日か24日が目標です。
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