荒れ果てた農地は理想郷《2》
翌朝、お母様とアルボ達が朝食の準をしながら話をしていた。お店に買いに行かなければパンが足りないらしい。
コロコロと寝返りをして、まだよく動かない頭で聞き耳をたてる。コロコロ、コロコロ。ん、目が覚めた。
「おかぁしゃま」
「まぁ、グルナ。おはよう、目が覚めたのね」
「あい。おはよーごじゃいましゅ」
とりあえず元気に朝の挨拶をすませる。そして
「ぐうな、パンもってゆ。みんなで、たべゆの」
はい、まだ自分の名前がはっきり言えません。前世の記憶のおかげで、けっこうおしゃべりは上手にできるつもりなんだけど発音がねぇ。
「グルナは何でも持ってるのね」
お母様はちょっとびっくりしています。
だって、自然災害の多かった前世の日本では、家具の転倒防止とか、一週間分の食料の備蓄とか、基本中の基本でしょ。この世界での災害がどんなものかわからないけど、父親はあんなだったしメイドさん達も防災とか興味なさそうだったから、ちょっと不安になっちゃったのよね。
だから自分でやってるの。準備大事、備えあれば憂いなし!って言うし。
「シュープもいゆ」
「お嬢様、スープも持ってるんですか」
「あい」
ふふ〜ん♪ ちょっと胸はっちゃうよ!
このマジックバッグは時間停止機能付きだから、スープは熱々よ。お料理はね、家の厨房に見習いとして入ってきた子達が練習用に作ったものだけど、けっこういいできだったからいっぱい練習して作ってもらったの。
パンにスープにお野菜もあるよ! あとお菓子とか色々。もちろん、2歳児用の食事もね。
朝ごはんを食べながら、皆で今日の予定を確認しあう。私は早く寝ちゃったから知らなかったけど、ジャッドとリュビはお母様が書いた紹介状を持って、お母様のお友達のお屋敷を回るらしい。
ジャッドは男の子だから、きっとすぐに勤め先は決まると思う。四年前に終わった他国との
リュビは女の子だけど、手先も器用で気がきく子だからオススメなの。今日中に次の勤め先が決まるといいな。二人とも王都に家族がいるから、王都でお勤めしたいんだって。
ほかの皆は私達と一緒にコーメンツ辺境伯領に行くそうです。あ、コーメンツ辺境伯領って言うのはお母様の実家ね。
お祖父様の名前はアンブル・コーメンツ、お祖母様はグリシーヌ、お母様の名前はコライユって言うのよ。
メイド長の名前はシプレ。先の戦で息子さんを亡くし、戦から戻った旦那さんも戦地でおった怪我がもとで亡くなったそうなの。身寄りがないから、できれば私達と一緒に行ってお仕えしたいって。
メイドのぺルルは孤児院の出身だから、こちらも身寄りがなく一緒に来たいんだって。
庭師のアルボと奥さんのマーロは王都から少し離れた街に娘さん夫婦が居るけど、今は言ってみれば戦後の復興時期で、皆らくな暮らしではないから迷惑はかけたくないんだって。アルボはまだお屋敷を首になったわけじゃないけど、時間の問題だと思うと言ってたし、それに今住んでいる借家が区画整理で立ち退きを迫られているみたい。だから私達と一緒に行きたいって。
うん、皆で行こう。皆で力を合わせて頑張って生きていこう。皆で頑張れば何とかなることも多いよ。きっと。
「じゃ、お母様は冒険者ギルドと乗合馬車の確認に行ってくらから、グルナはぺルルとお留守番しててね」
えぇー、私も冒険者ギルドに行ってみたかったー。お母様ー。
夕方、皆で本日の報告会です。
まずはジャッドとリュビですが、めでたく再就職が決まったそうです。回ったお屋敷が皆お母様のお友達の所だったと言うこともあり、事情を察してくださってか、今日からでもいらっしゃいと言ってくださったとか。
と言うわけで、ここでお別れになるそうです。もう行っちゃうの、寂しくなるね。
「今日からでもと言っていただけたなら、早く行ってお屋敷の仕事を覚えたほうがいいわ。別れは寂しいけど、頑張るのよ。もし、これから先何か困ったことがあったら、いつでも訪ねて来てちょうだいね」
皆に見送られ、何度も頭を下げながら、ジャッドとリュビは再就職先に向かって行きました。
そしてアルボも今日限りで庭師を辞め、マーロも大家さんに数日中に出ていくと伝えてきたそうです。
お母様とメイド長は情報収集。乗合馬車は二日後に予約できたそうです。
「今日冒険者ギルドに行って聞いてきたんだけど、実家のほうは
あぁ、王都は王様のいるところだから復興も早いけど、お母様の実家は辺境地区だもんね。
王都から遠く取り立てた産業がなければ、復興には時間がかかるのかもしれない。確か、農業主体のところだったよね。
「奥様、私は身寄りがございません。どんなところでもお連れくださいませ。農作業の経験はございませんが、勉強させていただきます」
「わ、私も、どこにもいくところがありません。精一杯お仕えしますのでよろしくお願いします」
「私達も、家庭菜園くらいですが育てております。少しはお役にたてるかもしれません」
「えぇ、年はとっておりますが何かのお役にはたつかもしれません」
メイド長もぺルルもアルボ夫妻も、荒れ地でも一緒に来てくれるそうです。よかったねお母様、私も早く大きくなって頑張るからね!
この日は、お母様が買ってきた夕食を皆でいただきました。美味しかったです。
さて、翌日。
明日は乗合馬車に乗ってコーメンツ辺境伯領に向かいます。今日はアルボのお家の引っ越し準備、と言っても持っていく物をマジックバッグに入れていくだけです。
この世界には魔法はないけど、錬金術がとっても盛んだそうで、マジックバッグも錬金術で生まれた産物。つい数年前まで戦が繰り広げられていたこの国では、一家に一つはマジックバッグがあって、逃げるときには家財道具を一気にマジックバッグに入れて、バッグ一つを持って逃げるんだって。
ちなみに、マジックバッグの値段は一般庶民でも買える値段。内容量が大きくなればなるほど高く、また時間停止がつくとさらに高価になるそうです。
私のポシェットは、大容量なうえに時間停止機能つき、さすが辺境伯のお祖父様のプレゼント!、と言うところでしょうか。
アルボ、入らない物は私のポシェットに入れるからね!
お家の物は何にもなくなりました。ご近所さんへの挨拶回りも終わり、今日で王都ともお別れです。
王都最後の晩餐と言うことで、今日は私のポシェットから料理を出しました。
「あい」
「ありがとうございますお嬢様、助かります」
何にもない床にちょっとしたラグを出して、ちっちゃなテーブル、そして料理をならべて皆でいただきます。
「しかし、お嬢様はすごいですね」
「本当に、魔法のポシェットのようです」
アルボ夫妻が感心しています。いゃ〜、それほどでもー。
「グルナのポシェットの中身は、いったいどうなっているのかしら」
お母様が不思議そうに首を傾けます。私はえへん、と胸をはって
「みんなで、にちゅうかん、くらしぇましゅ」
と答えました。本当はもっと暮らせるけどね!
私とお母様の分は二週間分、屋敷のメイドさんや執事さん、料理人さん達の分は一週間分で食料を確保していたからね。
食後は皆でゆっくりして、夜はお布団の代わりになる物を出して、皆でおやすみなさい。
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