異世界転生なのです、お姉さん!

乃平 悠鼓

プロローグ

荒れ果てた農地は理想郷《1》

 あぁ〜、ふわふわする。いや、ふらふらする〜。あーつーいー、何でかなぁー。

 あ! そうか、そうだよ! あの父親ばかおやじのせいだよ! 最近不穏な動きをしている

 昨日のお昼寝前まではいつもとおりだったのに、私がお昼寝中に私つきのメイドさんを首にしやがったんだよ。


「お天気がよくて風が心地いいですから、窓は開けたままにしておきましょうね」


 そう言って窓際の方にあるベッドの上でお昼寝してたのに、あいつが急にメイドさんを首にしちゃうから、突然雲行きが怪しくなって強い風が吹いて雨が降ってきたのに、誰も私には気付いてくれなかった。私が顔にあたる雨粒で目を覚ましたときには、私もベッドもびしょ濡れだったんだよ!!

 窓を閉めようにも手が届かないし、大声で叫んでみたけど誰も来てくれなくて、身体が冷たくなって濡れたお布団の中に潜ってみたけどどうにもならなかった。

 用事で出かけてたお母様が帰ってきたときには、私は熱を出してうなされてたんだ。

 お母様はびっくりして、急いでお医者様をよんでくれたけど、もう苦しくて辛くてギャン泣きしたよ! 2歳児の身体なめんな!

 それで今にいたるわけなんだけど、昨日飲んだ激まずのお薬のせいか体調はちょっとだけマシになった。今日はお母様もずっと一緒にいてくれるから嬉しいし。

 そんな中、バタン!!と凄い音がして、あいつが入ってきたみたいなの。


「今すぐに出ていけ!!」


 とか、何かわけのわからないことをお母様に言ってるよ。何様のつもり、駄目男の金食い虫のくせに! お母様がいなかったら、この家とっくにつぶれてるよ!

 メイドさん達の話をこっそり聞いたところによると、お祖父様の頃はよかったみたいなんだけど、数年前の戦と祖父母の死後の経営手腕のなさで家は傾き、何とかお母様の頑張りでもってたのに。お母様は、お仕事のできる女性なのよ。

 だからね、この家……、終わったね。うん、終わった。

 えっ、2歳児に何でそんなことがわかるのかって。それはね、私前世の記憶持ちなの。

 この世界とはまったく違う世界の、地球の日本っていう国に生まれてね、32歳まで生きたんだ。日本国内ではめったに起こらない海難事故で地球とバイバイして、前世の記憶を持ったままここに生まれてきたの。

 あっ、話終わった? お母様が私を抱き上げる。


「まだこんなにお熱があるのに、すぐに出ていけなんて。ごめんなさいねグルナ、頼りないお母様で」


 お母様、そんなことないよ! 悪いのは全部あいつなんだから! そんな悲しそうな顔しないで。


「奥様」


 メイド長がきたよ。えぇー、メイド長も今日限りで首になったの、他に3人も。何それ。


「荷造りのお手伝いを」

「まずはグルナの荷造りをお願い。私は自分の荷造りをしてきますから。グルナ、ちょっと待っててね」


 そう言ってお母様は私をベッドに寝かせると、私の身体をポンポンとして出ていった。私は苦しい中メイド長に声をかける。


「メイドちょ、ポチェットほちぃ」

「お嬢様」


 メイド長にポシェットを取ってくれるように頼む。


「一番お気に入りのポシェットでよろしゅうございますか」

「あい」


 これは2歳の誕生日に、お母様の父親であるお祖父様がプレゼントしてくれたもの。このポシェット、見た目は普通の可愛いポシェットなんだけど、実はマジックバッグになっていて何でも入る優れもの。


「メイドちょ、タンちゅ、ちゅくえ、ベッちょ、いれゆ」

「タンスと机とベッドを入れるのですか?」

「あい。かびん、カーちぇん、みんな、いれゆにょ」


 さっき聞いた話によると、私達が出ていったら子供部屋の物はみんな処分するとか言ってたからね。捨てられるくらいなら全部持って行くよ。

 前世一般庶民の私には、お貴族様の要らない物はすぐ捨てる、がぜんぜん受け入れられない。もったいないお化けが出るよ! だからポシェットの中には、この家で要らなくなった物がいっぱい。全部高価そうなやつ、お貴族様の家の物だからね。

 思うにあいつ、お母様を追い出したあと、愛人でも入れるつもりなんじゃないかな。愛人好みの物に替えてるんだと思うんだよね。だって、帰ってくるたびにすごく香水臭いし。


「お嬢様、全部入れ終わりました」

「ありあと」


 あー、あーつーい。ふら……ふら……。


「お嬢様、抱っこいたしましょうね」

「あ……い」


 あぁ、電池切れだ。バイバイ、我が家。









「それで奥様、これからどうなさるのですか」

「えぇ、まずは皆の紹介状を書くわ。少しでもいい所に行ってほしいもの。あと、いくばくかのお金も渡したいし」

「奥様、ご無理はなさらずに」

「皆には、本当によく働いてもらったもの。再就職に向けて、少しでも力になりたいわ」


 んん……っ、なんか声がする。

 アレ、ここどこ? 見たことない部屋、なんか庶民の家っぽい。


「おかぁ、しゃま」

「まぁグルナ、目が覚めたの。大丈夫」


 お母様が抱き上げてくれる。まだ熱くてぼっーとするけど、さっきよりはマシな気がする。


「ここ、どこ?」

「ここは庭師のアルボのお家。これからお祖父様の所に帰るのだけれど、その前にすることがあるの。今はお祭りの時期だから宿が取れなくて、アルボの所でお世話になってるのよ」

「お世話などと奥様、とんでもございません。こんなあばら屋で、申し訳ありません」

「とんでもないわアルボ、私の方こそ皆で急に押しかけてしまって」


 そうか、ちょうどお祭り時期中だったんだ。宿屋、空いてなかったんだね。

 アルボの家に私とお母様とメイド長、そして一緒に首になったぺルル、ジャッド、リュビ。これからどうするんだろう。

 お母様が紹介状を書いて、別のお屋敷に紹介するのかな。


「とりあえず、まずは紹介状ね。今日中には書き上げるわ。それと、明日は冒険者ギルドに行ってお金を下ろしてこないと。少しでも皆に渡したいもの」


 んん、それってお母様のお金ってことよね。あいつ、退職金も出さなかったの! なんて奴!

 あっ、待ってお母様。私いい物持ってるのよ〜。


「おかぁしゃま」

「なぁに、グルナ」

「いいもにょ、もってゆ。こえ、うゆ」


 そうそう、コレ売っちゃいましょう! 私はポシェットの中から次々と、処分されそうになっていた高級品達を取り出していく。どれが高く売れるかな〜♪


「まぁ、グルナ! 宝物をいっぱい持ってるのね。これ、皆くれるの?」

「あい!」


 うん、とびっきりのいいお返事。

 グルナはお家の物を皆守ってくれてたのね、偉いわねと、お母様に褒められました。


「ジャッド、コメルティストの所に行ってもらえるかしら。これを買い取ってもらおうと思うの」


 コメルティストさんは、お母様の知り合いの商人なの。

 その後、お店が終わったコメルティストさんが来てくれて、けっこうなお値段でさまざまな物を買い取ってくれました。コメルティストさん、ありがとう!

 この日は皆で雑魚寝。アルボはお母様に自分達のベッドを使ってくれって言っていたけど、アルボも奥さんももうお年だからね。身体を労ってほしいってお母様は言ってた。だからもちろん私は、お布団の代わりになりそうな物を探して出しましたとも。そしてポシェットに入れていた自分のベッドも出して、私はそこで寝させてもらいました。病人だからね、ごめんね皆!

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