第39話 イケメンサイドテールさん
原稿を提出した十一月から一月。世間はすでにクリスマスムード一色。
「それじゃあ~! アオハルとユメちゃんの一次選考通過を願って~、かんぱーい!」
俺の部屋の中心には来客用の卓テーブルが準備され、炭酸ジュースやスナック菓子などで溢れかえっていた。クリスマスイブイブと、一次選考通過願いをかけたパーティーである。
「でもチアキ、勉強は大丈夫なのか?」俺がそう訊ねると、ブブー! と奇怪な声が響いた。
「はいアオハル罰ゲーム!」やたらと楽しそうなチアキが手作りの箱から紙切れをつまみ上げた。「えーっと何なにぃ? 『洗濯ばさみでアオハルの乳首を挟む』だってさ! ほら早く洗濯ばさみ取ってきてよアオハル」
「なんで自分の乳首挟むために洗濯ばさみ持ってくるんだよ! 真性のマゾか俺は!」
「アオハルがつまんないこと言うからじゃん。いくら受験生とはいえイブイブくらい遊んだって良くない? ……こうして三人で遊ぶことなんて、もう無いかもしれないんだし」
「なんでだよ。別に普通に遊べば良いじゃん」
「はっーわかってない。アオハルわかってないわ」
深い溜息と共にチアキがげっそりした表情で俺とチアキを交互に見る。
「な、なんだよ……」
チアキとユメに挟まれながら、なんとなく居心地の悪さを感じる俺。チラリとユメに横目を送ると、彼女は焦ったように言葉を挟んできた。
「あ、わたしジュースのおかわり持ってくる!」
「え? ジュースならまだたくさん――」
「ぎゃっ」
足を躓かせるユメ。俺は瞬時に彼女の手をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがとう」
「擦りむいたりは? 完全インドアマンなんだから、気をつけないと」
「だ、大丈夫だってばっ……! それに、ウーマンですっ!」
子供みたいに接されることが照れくさいのか、ユメはむっとした顔で手を離す。
「はは、ホント抜けてるんだから……なあチアキ」笑いながら彼女のほうに視線を向けると、
「……爆発案件っ」
「「はい?」」俺とユメの言葉が重なる。
「なんでもありません~! そんなことよりほら、早く洗濯ばさみ」
「だからやらないってのに!」
「ちっ。じゃあもう一枚。えーっと……はい。『アオハルの髪の毛を一本抜く』だってさ」
「被害対象全部俺になってんじゃないかなぁ!? 誰が引いても俺の髪の毛が減っていくだけなんじゃないかなあ!」
「えへっ!」
「俺が禿げるのも時間の問題だった!」
「ハゲルガ!」
「最上位魔法みたいに言うな!」
俺とチアキが頭の悪いやりとりをしていると、ユメのスマホがピコンと鳴った。
「あ、来たみたい! わたし下行ってくるね~」
ユメが部屋を飛び出して行く。やたらニヤニヤしたチアキと、二人でその場に残った。
「そわそわしちゃって。まるで娘が彼氏連れてきたときのお父さんみたいだぞー」
「うるさいな。緊張しないほうがおかしいだろ。それなりに……色々あったんだから」
「何そのBLっぽいの。もし飛びかかってきたらどうする? アオハル総受けっぽいけど」
「ひらりと躱してやるよ! あと総受け言うなっ」
瞬間、扉が開く。
黒のライダースジャケットに無造作な金髪オールバック。さらにはサングラス、ジャラジャラとシルバーアクセまでもフル装備した客人で戦友の男が、ふるふると身体を震わせている。
もしかして緊張してるとか? 総受けはこの人かもしれませんよチアキさん。
開口一番、彼の言葉は――、
「部屋がッ……部屋が汚ねェ!」
* * *
「――えー同い年なの!? イケメンサイドテールさん」
「何度言ったらわかるんだ! 俺ァイケメンサイドカーだっつってんだろ!」
サイドカーは俺の部屋に入るとすぐに部屋の掃除を始めた。因みにパーティーを開始してからの散らかり具合はほとんどチアキのせいである。袋の上で散乱しているポテトチップスを食べやすいように一列に並べ始めたときはコイツマジかと思った。そんな几帳面ヤンキーが、俺たちと同じ高校三年生だと言うのだから驚きである。
「因みに、そのペンネームの由来ってなんなの? てか本名は?」
「いっぺんにたくさん聞くんじゃねェよ……ああ、疲れるな……ええと、宮前さん」
「へえー、てっきり“そこの女”とか言われるかと思ってたのに。キャラ的に」
「俺ァはそんなことはしねェ。女性に対して、それはとても失礼なことだからな」
「ふぇー……意外にフェミニスト。アオハルも見習ったほうが良いと思う」
こちらをじっと見つめながらチアキが言う。ほっとけ。
「ペンネームの由来は…………な、なんとなく語感が良いからだ」
チラチラと視線を反らしながら言うサイドカー。
「うっそだー」とチアキ。
それには俺も同意する。だって目が泳いでるんだもん。
「う、嘘じゃねェ! ウェブで目立つためにインパクトの強い名前にしたかったってのはあるが、特別な理由があるわけじゃねェ」
頑なである。俺はやれやれとチアキとサイドカーの間を取り持つ。
「人それぞれ言いたくないことはあるもんだしさ、そのくらいにしてやんなよ」
「えー、つまんない!」とぶーたれるチアキ。それを隣で見ていたユメがよしよしとチアキの頭を撫でた。まるで子供をあやす母である。
「……かつての俺は、病弱な少年だった。そんなとき、病室での友達は……物語だったぜ」
「「語るんかいっ!」」俺とチアキのツッコミが重なる。
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