転生三千

エリー.ファー

転生三千

 もう。

 殺してほしい。

 そう、何度思ったか。

 転生した。

 何度も何度も転生した。

 死ねない。

 死ねないのだ。

 もう。

 スライムにも、王様にも、奴隷にも、勇者にも、蜘蛛にも。

 空にすらなった。

 世界の滅亡を見下げる存在にすらなれた。

 魔王になったこともあった。

 死ねない。

 何度も何度も自殺を繰り返し。

 何度も何度も転生され。

 何度も何度も誰かになり続け。

 何度も何度も異世界というものを知った。

 何もない。

 異なる世界などない。

 皆、同じではないか。

 ひたすらに、種族やら常識やらを入れ替えたような場所をそのまま動かされ続け、それに飽きたかと思えば、僅かな変化を、まるで大きく異なっているかのように誇大に主張している。

 世界が。

 そう。

 世界が私にそう主張する。

 またやり直しましょうと。

 また最初からやれますよ、と。

 そういうことを知らない訳ではない。だが、なんどやり直したところで、最早どれが自分にとっての主戦場だったかなど分かるはずもない。こんなにも繰り返し、帰る場所もない。

 あてのない旅、ではないのだ。

 漂流。

 こんなにも広い世界で、自分以外に同じ目にあっている者などそうそういる者ではないし、事実あったこともない。自分の不幸を他人と共有することができたいのである。これが孤独に拍車をかける。

 世界を救ったこと、六百十二。

 世界を滅亡させたこと、二千十一。

 無駄死にしたこと百三十。

 それ以外は、どう死んだのかなど覚えていない。最後のあたりになると転生と同時に舌を噛み切ったこともあった。最初だけだ。あんなものを躊躇するのは。八回目あたりでコツをつかみ、昔来たような世界と似ていたら、やり直す意味で直ぐに舌を噛んで死んだ。

 異世界同士の繋がりはなく、私のことを知るものはいない。当然、姿形、年齢なども変化しているのだから、当然ではあるのだが。

 私は今日もそうやって転生する。

「女神です。」

「私だ。」

「知っています。」

「こちらも同じく、知っている。」

「異世界への転生の間へようこそ。」

「あぁ。よく来るな。ここには、あの柱の隅の、コンビニビニールまだ片づけていないのか。丸めて捨てればいい。」

「ゴミ箱に使えるかもしれないでしょう。」

「ホットスナックの油まみれなのが気に入らない。放置しておくと匂いが出る場合がある。やめてしまえ。」

「ここは、女神たちの異世界への天性の間。貴方に発言権はありません。」

「異世界に転生する前に、コンビニに寄って来ていいか。チケットの発券があるんだ。」

「サミュエル・ドニキンスですか。」

「あれは、ベースだな。」

「間違いないでしょう。ベースと、サポートドラムが本当にいい。」

「あの、サポートドラム、なんでメンバーに入れないんだろうな。いつもいるのに。」

「チケットよく取れましたね。」

「プラチナクラスだと、チケットの当たる確率が高くなるからな。」

「プラチナクラスのグレードはなんですか。」

「七。」

「え、八なのに、外れたんですけど。」

「そういう日もあるだろう。」

「ずるくないですか。」

「ずるくはないだろう。」

「いや、じゃあ。このサイトでチケット買ってる意味なんて、他にないでしょう。」

 次に転生する異世界は、獣たちが住む野生の王国らしい。

「千七百十八回目。」

「は。」

「また似たような世界か。」

「舌噛み切らないようにするために、アヒルにしましたから。あれ、牙ないですからね。」

「なるほど。」

 絶対、自殺してやる。

「では、よい旅を。」

「死ね、このクソ女神。」

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