045 笑顔の勝利です。
今のところは、かなり順調だ。
賢人である結城を処刑できたので、二日目に狼陣営のパワープレイは発生しない。
人陣営二、狼一の純粋な読み合いが発生する。
そしてもし俺が噛まれずに、生き残ることが出来たら、俺は占い結果を元に推理が出来る。
断然有利な状況だといっても言い。
『……上野悠真。お前の役は占師。
占師は夜の番に一人を選び、その者が人か狼を知ることが出来る。
さて、誰を選ぶ?』
神狼に問われて俺は考える。
残っているのは、俺を除いて三人。
諏訪、藩出、大仲。
俺は、諏訪のことを人だと信じているので、除外。
藩出か大仲の二択になる。
大仲の言動はかなり人っぽいと感じた。
だとすると、残っている藩出が狼。
『藩出由良で頼む』
『……藩出由良で、
『ああ』
『……藩出由良は狼。狼だ』
俺の推理がドンピシャで的中する。
噛み殺されずに生き残れば、俺と諏訪が同陣営で勝利できる。
三回目にして、ようやく念願が叶う。
『……これにて夜の番は終わり。
では二日目、昼の番、始め』
神狼の声で、暗闇が晴れる。
残ってるのは三人。それは俺、諏訪、藩出だ。
事実確認をしつつ諏訪に目配せする。
「大仲が噛まれたようだな」
「そう、みたいだね」
諏訪も今の状況が分かってるようで、表情が少し柔らかい。
諏訪は俺と藩出のどちらが狼か分かっていない。
しかし、きっと俺を人陣営だと信じていてくれている。
二人揃って二日目まで生き残り、そして同じ人陣営。
まさにストレート勝利と言っていいだろう。
「二人とも、何か嬉しいことでもあったんですか?」
藩出が、怪訝そうに俺達を見つめる。
その瞳を正面で受け、俺は改めて宣言する。
「ああ、俺は占師。そして狼を見つけた」
「上野くんは、一度占師だと言って、すぐに否定しました。
そして、また占師だと言うんですか?」
「ああ、狼に本物の占師だと思われないために、あえてあんなトリッキーなことをした。
そしてまんまと、騙されてくれたみたいだな藩出」
「僕が狼だと言いたいんですか?
僕目線では、上野くんが狼に見えます」
「俺と藩出で言い争ってもしょうがいない。
簡単に言えば、俺と藩出は別陣営が確定している。
どちらを選ぶかは、諏訪次第ってわけだ。
諏訪はどっちが狼だと思うんだ?」
「ごめんね藩出ちゃん。あたしは藩出ちゃんが狼だと思う」
諏訪は迷い無く答える。
「……もう心は決まってるみたいですね。
僕が何を言おうと、来夢さんの意見を変えることは無理そうです」
藩出は諏訪の表情から負けを察した。
「上野くん、一つ聞かせてくれますか?」
「なんだ?」
「紗瑠さんは、僕と同じ狼陣営です。
そして負けた陣営は生贄になります。
ゾンビ化の元凶が分かったところで、紗瑠さんはいません。
ゾンビを倒せるが人がいません。
どうするつもりですか?」
「ああ、そのことか。
ちゃんと考えがあるから、心配いらない。
この勝負で俺と諏訪が勝てば、すべてが丸く収まる予定だ」
「……そうですか。
その予定に僕と紗瑠さんはいないんですね」
藩出は悲しげな表情で笑う。
この世界での結城と藩出は、ゲーム後に生贄になって死ぬ。
だが、ループ後の世界では、もう知りたい情報を手に入れている状態なので、ゲームはやらない。
だから誰も犠牲になったりはしない。
そのことを伝えて、藩出を安心させてあげたい。
だが、それは出来ない。
神狼に気付かれては、すべてが台無しになる可能性がある。
せっかく掴んだチャンス。
藩出の悲しそうな笑顔を見るのが辛いという個人的な理由で、壊すわけにはいかない。
「…………」
「何も言ってくれないんですか?」
藩出のすがるような瞳が、俺の心に重く押しかかる。
「……すまん。お前を助けられなくて」
「謝らないでください。
上野くんが助けるのは僕個人ではなく、世界なんですから。胸を張ってください。
紗瑠さんがいなくても、ゾンビを倒せる秘策があるんですよね?」
「ああ」
「それなら安心です。
みんな投票先を決めているようですし。
議論は終わりにして投票をしましょう。
じゃあ僕から、僕は上野くんに投票します」
藩出が投票を終えると、諏訪が続く。
「あたしは、藩出ちゃんに投票する」
諏訪と藩出が俺の投票を待つ。
俺は覚悟を決める。
この投票が終われば、ゾンビの元凶を知ることになる。
ようやくこのループから抜け出せる。
うっとうしい狼人遊戯だったが、終わりと分かるとなんだか物悲しさを感じる。
「俺は、藩出由良に投票する」
『……全員の投票が終わったな。
投票結果。上野悠真が一票。藩出由良が二票。
よって、昼の番の処刑者は、藩出由良。
狼が処刑されたため、人陣営の勝利とする。
……内訳を発表する。
人、諏訪来夢、大中未音。
占師、上野悠真。
狼、藩出由良。
賢人、結城紗瑠。以上五名。
……約束通り負けた陣営の魂を贄としてもらう。
これにて狼人遊戯の終幕とする』
今回は負け陣営から一人を選んで助けるという追加の条件はない。
神狼はゲーム終了をあっさりと告げた。
そして、世界が崩壊を始める。
「上野くん、来夢さん、さよならみたいですね」
「ああ、ここが壊れたら、きっと藩出と結城は元の場所にはいない」
「藩出ちゃんバイバイ。絶対に世界は救ってみせるからね。上野ちゃんが」
「はい、お願いします。
僕と紗瑠さんの命を無駄にはしないでください」
「絶対に、無駄にはしない。約束する」
「ありがとう、そう言ってもらえれば、安心できます。
最後に、お願いがあるんですけどいいですか?」
控えめに藩出はそう申し出る。その手が微かに震えている。
藩出の一生のお願いだ。断れるはずもない。
「ああ、なんだ? 俺に出来ることなら、なんでもしてやるぞ」
「なんだか手が震えるんです。握ってもらえませんか?」
申し訳なさそうに藩出は手を差し出す。
俺はその華奢な手をそっと両手で包む。
冷たい藩出の手に、俺の体温が流れ込む。
始めは小刻みに震えていたが、やがて震えは小さくなっていく。
「あたしも!」
諏訪もぴょんと手を重ねた。
三人の手が重なり合う。
冷たかった藩出の手に、体温が戻り震えも消えた。
世界に光が溢れる。
視界が光に染まる中、俺達は笑顔で別れを告げた。
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