042 追加の褒美が欲しいです。
「投票する!
結城は、自分を賢人だと言っているが、もちろん嘘だ。
本当は占師。
そしてその対抗の大仲がおそらく賢人。
一度、結城との一騎打ちを嫌がったから、狼かと一瞬思ったが。
結局、一騎打ちを受けたので、今は賢人だと確信している。
俺は大仲に投票する」
俺が言い終えると、その後に諏訪が続く。
「はい! 投票するよん。
あたしは上野ちゃんを信じてる。
だから、大仲ちゃんに投票する」
これで大仲が三票、結城が一票になった。
藩出の投票が残っているが、その一票で結果は覆らない。
俺視点では、大仲も結城も、どちらも人陣営なので、どっちが処刑されようがかまわない。
「僕が最後ですね。
もう結果は変わらないので、入れる意味はないですが……。
正直、どっちが本物か良く分かりません。
大仲さんが本物の場合も十分、あるんじゃないかなと思います。
でも、みんなは大仲さんに投票してます。
僕は人なので、ここで変な投票をすると狼だと疑われてしまいます。
それは嫌なので、僕も大仲さんに投票します」
藩出が投票を終えると、神狼の声が頭に響く。
『……全員の投票が終わったな。
投票結果。大仲未音が四票。結城紗瑠が一票。
よって、昼の番の処刑者は、大仲未音。
大仲未音、言い残すことはあるか?』
「私が本物の占師。
みんなから信用を得て、生き残りたかったけど、出来なかった。ごめんなさい。
明日は、厳しい戦いになると思う。
だけど、人陣営が勝つことを祈ってる。頑張ってね」
『……これにて昼の番は終わり。夜の番に移る』
神狼がそう告げると、一瞬で暗闇に変わった。
前回は人だったので、やることがなかった。
しかし、今回は狼なので、誰かを選んでかみ殺すことが出来る。
諏訪が賢人なのは確定。
だとすると、結城と藩出のどちらかをかみ殺せば良いことになる。
正直、どちらをかみ殺そうが問題ない。
諏訪と票を合わせれば、勝利は確定している。
『……上野悠真。お前の役は狼。
狼は夜の番に一人を選び、噛み殺すことが出来る。
さて、誰を選ぶ?』
神狼に問われて、俺は直感的に浮かんだ名前を告げる。
『藩出由良』
『……藩出由良で、
『ああ』
少しして神狼が、再び口を開く。
『……これにて夜の番は終わり。
では二日目、昼の番、始め』
その言葉で暗闇が晴れる。
和室には俺を含め、三人しか残っていない。
俺、諏訪、結城。
一日目の昼で、大仲を処刑し、夜に藩出を噛み殺した。
俺が狼、そして諏訪が賢人。結城は占師。
俺と諏訪で、結城に投票すれば、狼陣営の勝利だ。
諏訪と一緒に勝利することで、ゾンビの情報を得ることが出来る。
ようやく事件解決の糸口を手に入れられるという思いから、俺は嬉しくなっていた。
「藩出がかみ殺されたみたいだな」
俺は半笑いで事実を述べる。
そこに諏訪が不思議そうな顔で呟く。
「あれ? 狼はもういないはずなのに、続いてる? おかしいなぁ」
諏訪は前回と配役が違うことを今、気付いたようなことを言う。
だが、それは演技だ。
演技でなかったら、諏訪は前回と同じ役の
「諏訪、もう演技しなくていい。俺は狼で、お前が賢人なんだろ?」
「……え?」
諏訪は驚いたまま黙り込んでしまった。
その横で結城が、自分の顔を指差して、私が賢人だとアピールしていた。
俺は結城からスッと視線をそらす。
すると結城が憤慨した様子で言葉を発する。
「ちょっと上野、私が賢人だってば!
私は上野が狼だって分かってたよ。
必死に私のフォローしてくれたもんね。すごく嬉しかった」
「いや、結城は占師だ。そうじゃないと辻褄が合わない」
「なに言ってるかわかんないけど、私が賢人。上野が狼。
だから、一緒に諏訪さんに投票をすれば、狼陣営の勝ちだよ。
……負けた陣営には、悪いけど。
私が必ずゾンビ事件は解決させるから」
結城は諏訪に宣言をする。
「うん、お願いね、結城ちゃん」
「俺は、諏訪には投票しない! 諏訪は賢人だ!」
俺はそう宣言をする。
すると、二人は困ったような表情を俺に向けた。
二人の心は決まってるようだが、俺は頑なに受け入れない。
「……上野ちゃん、ありがとう。
あたしと同じ陣営だと、ずっと信じ続けてくれてたんだね。
あたしも上野ちゃんと同じ陣営だって、思い続けてたよ。
でも、上野ちゃんは狼。あたしは人。別々の陣営だった。
二人で勝利するのは、最初から無理だったんだよ」
「…………」
「ねえ? 二人は一体なんの話をしてるの?
最初から二人だけで生き残るつもりだったの?」
結城が不審の瞳を俺達に向ける。
諏訪は視線で、俺に回答を預けた。
結城の言う通りに、俺と諏訪は一緒に勝つことを目的にしていた。
それが唯一、犠牲者をゼロに出来る方法だから。
二人で生き残れれば、情報を得た後でループできる。
しかし結城はループのことを知らない。
だから、裏切られていたのかと、俺達に不審の目を向けている。
「……その通りだ。
俺は諏訪と生き残ろうと思っていた」
「どうして? どうして諏訪さんなの?
なんで私じゃないの?
私は勇者で、ゾンビを倒せるのは私しかいないのよ!」
「ああ、そうだ。
普通なら、勇者であるお前と生き残りたいと思うだろう」
「じゃあ、なんで? 理由は?」
結城は叫びにも似た質問をぶつけてくる。
ここでループのことは口にできない。
言ってしまっては、神狼に知られることになる。
妨害でもされたら、一巻の終わりだ。
「……理由はない。ただ、なんとなくだ」
「なにそれ? それって諏訪さんが好きだから、一緒にいたいってことだよね?
信じられない。
ゾンビで大変なことになってるのに、そんな自分勝手な考えをしてるなんて。
おに、上野のこと信じてたのに……」
結城が俺に幻滅している。
結城は、兄である俺を心の底から信頼していた。
表面上、その信頼を裏切ったように見えるが、真の意味では裏切ってはない。
俺は誰よりも、みんなの幸せを願って行動をしているつもりだ。
しかし、今は自己中のクソ野郎を演じる他はない。
その結果、彼女をひどく傷つけてしまっても、それが勇者の兄としての務めだから。
……確か、前回も俺はクソ野郎を演じた気がする。
俺は前回を思い出し、苦笑いを浮かべた。
ここで、あることをふと思い出す。
それは前回のゲームで、ゲーム外のことを持ち出して、投票先を誘導した時のことだ。
その時に神狼が現れて、追加の褒美を与えると言い出した。
――勝ち陣営が負け陣営から一人を選んで、生贄を免れさせることができる。
俺と諏訪は今回、別の陣営になってしまって、二人で勝利することは実質的に不可能。
だが前回と同じように神狼に生贄免除権の追加をさせることが出来るなら、話は変わってくる。
狼陣営の俺が勝ったら、諏訪を指名。
人陣営の諏訪が勝ったら、俺を指名。
どっちが勝っても、二人で一緒に生き残り、目的が達成できる。
「なにがおかしいのよ!」
ニヤけていた俺を結城が
神狼から褒美の追加を引き出す、茶番を始める。
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