038 最低人間です。
狼陣営との裏取引が無事に成立したところで、神狼が割って入る。
『……なにやら遊戯の外のことを持ち出して、無理やりに勝ちをゆずらせようとしているな。
なんともずる賢い奴。まさに外道。だが面白い。
我を楽しませた
勝利した陣営は、敗北した陣営から一人を選び、
どうだ? 贄の数が減るのだ。
お前たちにとっては、喜ばしいころだろう。
では、最後まで遊戯を楽しませてもらうぞ』
……クソ狼が!
褒美と言いつつ、俺の裏取引をぶっ壊すつもりだ。
狼陣営が勝利して、結城を生贄から除外すれば、俺にわざと負けてやる
大仲と藩出が、お互いの様子を
このままでは、人陣営の勝ちが消し飛んでしまう。
「藩出、まさか狼陣営で勝とうとか思ってないよな?
人陣営が勝ったら、藩出を指名する、だから、心配はいらないぞ」
俺は藩出の説得を試みる。
そこに悲鳴のような声を大仲が上げる。
「ちょっと、私一人で死ぬなんて嫌よ。
まだ諏訪さんの……を……してないのに。
このまま狼陣営で勝利して、結城さんを指名するのが
「…………」
二人の説得を前に藩出は考え込んでいる。
「人陣営が勝利すれば、犠牲は一人で済む。
だけど、狼陣営が勝利したら、犠牲は二人になる。
よく考えてくれ、犠牲は少ない方が良いに決まってるだろ?
頼む藩出」
「お願い藩出さん」
俺と大仲は、藩出に
藩出は困ったような表情を浮かべて、口を開く。
「たしかに上野くんの言う通り、犠牲者は少ない方が良いと思います。
でも、今の状況を作り出したのは大仲さんの奇跡、なんですよね?
大仲さんが、あの狼さんを呼び出したから、今の状況がある。
狼さんも、外のことでゲームを台無しにされることを良しとしていないみたいですし。
僕は、このまま狼陣営として、勝利を目指そうと思います」
「……藩出さん」
大仲が嬉しさを隠しきれずに、藩出を見つめている。
そこに藩出が一言を付け加える。
「……ただし、上野くんが本当のことを話してくれたら、上野くんの味方をするかもしれません」
「ほ、本当のことって、なんのことだ?」
藩出の言う〝本当のこと〟が分からず俺は問う。
「僕たちが扉の前で言い争っていたとき、上野くんは諏訪さんの胸を触っていましたね。
あのとき、大仲さんと同じように、諏訪さんにも奇跡を起こさせていたんじゃないですか?
大仲さんとは違う別の奇跡を」
「え? ただ触りたかっただけじゃない?」
大仲は当たり前のように言う。
諏訪の巨乳を特別視している大仲には、触りたいから触る以外の選択肢はないようだ。
「違いますよ。上野くんはなんの理由も無くエッチなことはしません」
藩出の言葉に俺は深く頷く。
俺のことを良く分かってくれている藩出に、嬉しさのあまり笑顔がこぼれる。
「藩出の言う通りだ。
諏訪の胸を触っていたのは、光の玉を入れるため。
大仲とは別の奇跡が発動している」
「その奇跡とは、なんですか?
どんな奇跡なんですか?」
藩出が問う。
しかし、俺はそれに答えられない。
ゲーム外の情報で、勝負が決まることを神狼は良しとしない。
だから、追加の褒美を与えて、俺の
ここでまた同じことをすれば、また邪魔してくることは目に見えて分かる。
もし神の力で、ループを無効化されてしまっては、俺の考えた犠牲者ゼロのハッピーエンド計画が台無しになる。
ループを邪魔してこない可能性もあるが、あまりにリスクが高すぎる。
人の命が
「……それは言えない」
俺は口をつぐむ。
「もし言ってくれたら勝ちをゆずります。それでもですか?」
「ああ、言えない」
藩出は
「このまま狼陣営が勝ったら、僕達は紗瑠さんを指名します。
そうすれば、上野くんと来夢さんは狼さんの生贄になって死にます。
それでも言えないんですか?
自分の命よりも、大切なことなんですか?」
「ああ、そうだ。だから俺に勝ちをゆずる必要はない。
誰が生贄になるとか、誰か生き残るとか、そういうのは全部抜きにして、純粋にゲームをやろう」
「…………」
藩出は納得していない様子。
このまま
無理やりにでも藩出を納得させて、ゲームを進めさせる。
「分かった。俺の本心を言う。
俺がなんで、自分の死を受け入れているのか。
それが知りたいんだろう?
……それは、
「……懺悔、ですか?」
「狼の提案を受け入れた瞬間に、誰かが犠牲になることが決定した。
俺はゾンビ地獄から一刻も早く抜け出したくて、全員が生き残るという選択肢を放棄したんだ。
そして、俺以外の誰かが犠牲になりますようにと、心から祈った。
結果、俺はその賭けに勝った。俺は結城と同陣営になった。
結城と同陣営になれれば、ゲームには勝ったも同然。
ゲーム後の話をちらつかせれば、勝ちをゆずるらせることが出来るからな。
そして、その通りにお前達から、勝ちをゆずらせることに成功した。
だが横槍が入って、その勝ちが無くなった。
……その時に気付いたんだよ。
これは俺がひどいことを考えていた罰なんだと。
俺は自分さえ助かれば良い、自分以外が犠牲になれば良い。
大仲と藩出が犠牲になろうが、俺さえ犠牲にならなければ、それで良いと思っていた。
……もし横槍が入らなければ、お前ら二人の犠牲を俺はなんとも思わなかっただろう。
いや、違う。
むしろ、ただ運がないだけのマヌケと
そんな最低な俺に
だから俺は懺悔の意味を込めて、自分の死を受け入れることにした」
俺は長々と、もっともらしい嘘の理由を語った。
「……最低」
大仲が小さい声で俺を
狙い通りに、俺を最低人間と認定してくれたようだ。
俺がなぜ自分を最低人間だと、二人に思わせたいのか。
それは、この世界の二人に重荷を背負わせたくないからだ。
俺が最低人間になれば、死んでよかった思われて、一人分の命の重さを減らすことができる。
諏訪の分はどうしようもないが、少しでも軽くしてやりたい。
自分達のために、二人も犠牲になったと思いながら生きるのは、心を消耗させる。
せっかく助かったのに、今後の人生で二人の笑顔が失われては、助けた方も報われない。
どうせループするから関係ない、という考え方もできる。
しかしループがどういう仕組みでなされているのかは不明だ。
一つの世界をリセットして時間を巻き戻しているのか。
それとも並行世界が新たに作られて、一つはそのまま。もう一方だけが巻き戻ってる可能性もある。
もしループが並行世界を作っていたとしたら、大仲と藩出は、俺と諏訪を犠牲にした後の世界を生きることになる。
保険を掛ける意味でも、俺は最低人間になっておくべきだ。
俺はちらりと藩出の様子を伺う。
藩出は無言で何かを考えている。
そして声にならない言葉をつむぐ。
〝うそつき〟
声には出ていないが、藩出の唇がそう動いた気がした。
そして藩出は、何かを決意したようにパッと顔を上げ宣言する。
「分かりました。ゲームを続けましょう」
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