036 人の嘘と、狼の嘘です。


「ちょっと待った。結城はおそらく本物だ。

 占師は最初の昼には、何の情報もない。

 夜の番になって、始めて誰かを占える。

 だから、結城が知らないことは変じゃない」


 俺は結城が本物だと擁護する。


「あれ? そうだっけ?

 ごめんなさい。私の勘違いだったみたい」


 大仲は素直に自分の非を認めた。

 分かっていてわざと鎌をかけたのなら、かなりの策士さくしだ。

 もし結城が狼陣営で偽者なら、慌てて適当なことを言った可能が高い。だが、そうはしなかった。

 結城が本物の占師である可能性は、かなり高いと考えていい。


「でも、それなら隠れてないと駄目じゃない?

 占師って名乗ったら、夜に噛まれちゃうよ」


 大仲の言うとおり、結城が狼に狙われる可能性は高い。

 もし結城が翌日に占い結果を言ったら、狼陣営は非常に不利。

 だから、占い結果を言えないように、狼は夜の番でかみ殺す。

 人陣営が占師を守る手段はない。

 占師が生き残るには、占師だと宣言せずに、潜伏せんぷくする必要がある。

 参加人数が多い場合は、狼の噛みを防御する役があるのだが、残念ながらこのレギュレーションにはない。


「ちょっと待って、あたしも占師だよん」


 今まで黙っていた諏訪が突然、占師CO。結城に対抗たいこうする形になった。

 ルール上、占師は一人しか存在しない。なので、どちらかが必ず偽者。

 狼陣営は、占師が確定することを嫌がる。

 それを邪魔するために、役をかたり、人陣営を惑わす。

 役を騙るのは、狼か賢人のどちらかだろう。

 諏訪が狼陣営の確立がぐっとあがり、俺は肩を落とす。

 陣営が違ってしまっては勝っても意味がない。


 一瞬、諦めかけたが別の可能があることに思い至る。

 それは人陣営が本物の占師を守るために、人が騙ったパターン。

 狼の噛み先を惑わすことは、間接的に占師を守ることに繋がる。

 諏訪が狼陣営で騙ったとも考えられるし、人が騙ったとも考えられる。

 本物の占師という可能性もゼロではないが、かなり低いと考えていい。


 この遊戯で俺が目指すゴールは諏訪と共に勝利すること。

 一番やってはいけない悪手は、諏訪と同陣営なのにも関わらず、敵陣営だと考えて諦めてしまうこと。

 反対の敵陣営なのに、同陣営だと思うことは問題ではない。

 その場合、はなからスタートラインに立っていない。運が悪かったと思って再チャレンジするのみ。

 俺が信じるべきことは、どんなことがあろうと、俺と諏訪が同陣営だという前提だ。

 この前提を最優先で考えて行動をする。それこそがゴールへの近道になる。


「占師が二人も、出てきてしまいました。

 これってどちらかが、偽者ってことですよね?」


「本物は私よ! 諏訪さんが偽者だからね」


 藩出の素朴な疑問にすぐさま声を上げる結城。


 ここで俺は、ふと当たり前のことを思う。

 狼人遊戯が騙しあいのゲームだとして、結城は嘘をつけるだろうか?

 否、結城の性格からいって、ゲームでも嘘はつけないはず。

 結城の良いところも、悪いところもバカ正直だということだ。

 ならば結城が占師で、確定。

 そして諏訪は占師を守るために、人がわざと騙っている。


 結城が占師。諏訪が占師騙りの人、そして俺も人。

 大仲と藩出の二人が狼と賢人。

 これが俺の中の結論だ。

 しかし、この結論をそのまま言ったとしても、信用を得られる可能性は低い。


「俺の意見を言わせてくれ。

 結城は、おそらく本物の占師だ。

 大仲につつかれたとき、何も知らないと素直に答えた。

 もし狼陣営が偽者を騙っていたなら、誰かを指差して狼か人かを言っていたと思う。

 そして、諏訪。

 諏訪はおそらく賢人だ。

 結城が真の占師の可能性が高まったので、それを邪魔するために名乗り出た。

 みんなも結城が本物だと思っているだろう?

 そこにあえて名乗りでたら、処刑される可能性が高い。

 だから、狼ではなく賢人。

 賢人だから、諏訪は無視して良い。人が勝つには狼を処刑するしかない。

 そして処刑のチャンスは二回しかない。大事な一回を諏訪で使うのは狼陣営の思うつぼだ。

 狼は俺、大仲、藩出の三人の中にいる。

 俺は自分が人だって分かってるので、大仲か藩出のどちらかが狼だ」


 俺は本心を隠しつつ、諏訪の処刑回避の流れに誘導を試みた。


「私も結城さんが本物の占師だと思う。

 だとすると諏訪さんが偽者になる。

 偽者は基本、狼か賢人のどちらか。

 今の話を聞いて、私の中で諏訪さんの狼の可能性が高くなった」


「どういうことだ?」


 俺は大仲に質問する。


「今の上野の発言、明らかにおかしいよ。

 諏訪さんが賢人だから、無視して良いって言ったよね?

 賢人を残したら、翌日は狼と賢人の二人が残ることになる。

 夜に狼が一人を殺すから、翌日は三人。

 その内訳は人陣営が一人、狼陣営が二人。

 狼陣営の人数が多くなって、ほぼ人陣営の負けになる。

 だから、賢人は絶対に処刑しなくちゃ駄目」


 さらに大仲は続ける。


「あと上野は諏訪さんをかばったように感じたな。

 賢人だと決め付けて、処刑対象から無理やりにはずそうとした。

 どうしてそうしたのかーと思ったけど、上野が賢人なら納得いく。

 上野が賢人なら、諏訪さんが狼だって分かる。

 だから、処刑対象からはずそうとしたんだよ。

 諏訪さんが狼で、上野が賢人」


 大仲はそう言葉を締めた。


「…………」


 俺の誘導が大仲に打ち砕かれてしまった。

 ゲームで勝つだけなら、俺も大仲と同じ考えをしていただろう。

 しかし俺は諏訪と一緒に勝利しなければならない。

 ここで言い負ける訳にはいかない。


「今の大仲の発言で、俺は誰が狼かわかった」

「誰が狼なんですか?」


 藩出が俺の言葉に興味津々きょうみしんしんに食いついてくる。


「……狼は大仲だ!

 大仲が狼だとすると、必然的に諏訪が賢人だと分かる。

 賢人の役目は、狼の盾になること。

 賢人がわざと処刑されることで、処刑の回数を一回無駄に消費できる。

 だから、俺が諏訪を無視して他から処刑者を選ぼうと提案したとき、大仲は反対した。

 偽者だと分かった賢人を放置されるのが狼にとって一番嫌なことだからだ。

 ここは大仲を処刑するのがベスト」


「みんな騙されないでね。上野は賢人。

 狼の諏訪さんを必死に守ろうとしてる。

 諏訪さんを処刑すれば、人陣営の勝利よ」


 すぐさま大仲が反論してくる。

 お互いの言い分は平行線。これ以上話し合っても答えはでないだろう。


「誰か他に意見がある奴はいるか?

 …………。

 無いなら、そろそろ処刑対象を選ぼう。

 一人一票の多数決で、処刑者を決める。

 投票の順番は自由。やりたい奴からで」


 俺はそう言って全員を見回す。

 誰も投票をしようとしないので、俺が先陣せんじんを切る。


「じゃあ俺が一番に投票する。

 俺の予想は、結城が占師。

 諏訪が占師を騙った賢人。

 大仲が狼。

 残りの俺と藩出が人。

 ……俺は大仲に一票を投じる」


 俺が言い終わると、大仲が口を開く。


「じゃあ次は私。

 私は結城さんが占師。

 諏訪さんが狼。

 そして上野が賢人だと思う。

 私と藩出さんは人。

 ……私は諏訪さんに投票する」


 諏訪が手を上げる。


「はい、投票するよん。

 あたしの予想は、結城ちゃんが賢人。

 それで、もちろんあたしは占師。

 狼は大仲ちゃん。

 上野ちゃんと藩出ちゃんは人かな?

 ……あたしは大仲ちゃんに一票を入れるよ」


 これで大仲に二票、諏訪に一票。

 諏訪が言い終えると、藩出が恐る恐る口を開く。


「ええと、よく分かってないんですが、投票します。

 僕は、紗瑠しゃるさんが本物の占師。

 それで来夢らいむさんが、狼か賢人のどちらか。

 上野くんも狼か賢人、だと思います。

 なんだか、来夢さんと上野くんがお互いをかばい合ってる気がします。

 人陣営は、誰が人か狼か分かりません。

 だから疑心暗鬼ぎしんあんきになって、誰かをかばうといったことは出来ないと思うんです。

 それが出来るのは、二人が狼陣営だから。

 僕は、諏訪来夢さんに投票します」


 話し合いでは人の意見を聞くばかりだった藩出だが、意外としっかりした考えを持っていたことに驚く。

 藩出の言うとおり、狼陣営は仲間を見つけてお互いをかばいあうことが比較的やりやすい。

 俺が人陣営なのにも関わらず、諏訪を仲間だと思うのは、それが前提条件だから仕方ない。

 俺と諏訪が同陣営で勝利してはじめて、神狼から情報をただで奪うことが出来る。

 誰かを生贄にしなくても良いハッピーエンドの道はそれしかない。


 四人の投票が終わり、大仲が二票、諏訪が二票となり互角になった。

 最後の結城の一票で処刑者が決定する。

 全員の視線が残された結城に集まる。

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