025 布団でぐるぐる巻きです。
俺はまぶたの裏に感じる光で、意識を取り戻した。
どうやら仰向けで寝ているようで、天井の光がすごくまぶしい。
「う、……あれ? なんだ、体が……」
体を起こそうと、身をよじる。
しかし体はおろか、手足すらまとに動かすことが出来なかった。
自分がどうなっているかを頭を起こして覗く。
俺の体は布団でぐるぐる巻きにされていた。
いわゆる
自分の状況が分かったところで、今度は部屋を見渡す。
少し離れたところで女子たちが、五人で会話をしていた。
その中に俺の目的の人物である結城紗瑠もいる。
「はやく先生を呼びに行こうよ」
「待って、まずは本人の話を聞いてから」
「話って何を聞くの? 半裸で女子部屋にいる。これだけでアウト」
「この部屋に着ていた服がないってことは、半裸で廊下を歩いてきたんだよ。
それっておかしくない? 何か事情があるんだよ」
どうやら俺の
小虎達の女子三人組が、俺を今すぐ先生に突き出す連行派。
結城と藩出が、俺の話を聞く対話派。
この部屋は六人部屋だ。
現状、連行派が三人。対話派が二人。
残りの一人はどこにいるのかと視線を
すると、その人物はすぐ隣で寝ていた。
その人物とは、もちろん諏訪だ。
「お前も会話に混じって、俺を擁護しろ。
というか、一番事情を分かってる奴が、寝るな」
「……ふぇ? ……ああ、上野ちゃん、起きたんだ。おはよ~」
「おはよ~、じゃねえ! 今は夜だ。
それより諏訪もあっちの会話に混じって俺の味方をしてくれ」
「味方って?」
「俺がここに来た理由を説明して、変質者じゃないってみんなを説得するんだよ」
「結城ちゃんに借りた100円を返しにきたことは言ったよ。
そしたら結城ちゃんは、そんなの知らないって」
「ああ……」
諏訪に、嘘の理由を伝えていたのを思い出した。
結城と口裏を合わせていたわけではない。
だから結城も訳が分からずバカ正直に答えてしまった。
もし相手が真白だったなら、察してくれただろうが、仕方ない。
今、真白は頭をハゲ散らかしたゾンビになってしまっている。
早く結城に光の剣で元の姿に戻してやりたい。
「上野ちゃんヒドイよ~」
「何が?」
「ジョークTシャツ着てるって言ってたのに、本当に裸だった」
諏訪は頬に空気を入れて、ぷくーっと抗議のまなざしを向けてくる。
「裸だと驚かせると思って嘘をついた。すまん」
「みんなが裸だって騒ぐから、あたしがこれは裸Tシャツだって言ったんだ。
裸Tシャツを脱がして、裸じゃないって証明しようとしたけど、全然脱げなかった」
「……まあ、そうなるよな」
「あと、結城ちゃんは100円のこと知らないって言ったけど、上野ちゃんが100円を持ってれば、それが証拠になると思ったから、体を調べさせて貰ったよん」
諏訪の顔が少しだけ
「……まさか、パンツの中を」
「うん、もしかしたらって思ったから……」
「いやいや、あるわけないだろ。
もしあったとしても、パンツの中に直で入ってた100円なんて、絶対に誰も受け取らない」
「そんなことないよー。
あたしは、上野ちゃんのだったら受け取るよ」
「そ、そうか。それはありがとう。
でも、俺以外のだったら、嫌だろ?」
「……うん、上野ちゃん以外だったら嫌」
「そういうことだ。一部例外はあるけど、基本的には嫌なんだよ」
「でもあたしが上野ちゃんのパンツの中をまさぐってるとき、結城ちゃんウキウキしてたよ。
あの感じだと喜んで100円を受け取ってた気がするなー」
「……それも一部例外だ」
結城は兄である俺のことが大好きだ。
好意を向けてくれるのは嬉しいが、変態ちっくな好意は
「あっ! おに、上野が目を覚ましたみたいね」
少し離れた場所で会話をしていた結城が気付き、視線を俺に向けた。
女子五人が俺の近くにやってくる。
俺は簀巻きで横になっており、女子五人の瞳が俺を見下ろす。
小虎達の連行派の目はひどく冷たい。まるで犯罪者を見る目だ。
一方、結城と藩出の対話派は、不安げな瞳。擁護してあげたいけど、上手く擁護できるか不安でいっぱい。そんな感じに思えた。
横にいる諏訪は眠そうな目をしている。いつも通りだ。
そして俺に対する
「私は今すぐ先生に突き出したいんだけど、二人が話を聞いてからっていうから、とりあえず話を聞いてあげる。
半裸でこの部屋にいた理由は何?」
小虎が俺に質問をする。
もし小虎達を納得させることができれば、俺は無罪放免で解放される。
しかし、それは難しい。
ゾンビが現れたといっても誰も信じない。ただし結城を除いて。
逆説的に考えれば、勇者である結城だけは、絶対に俺の言葉を信じる。
ここは小手先の嘘をいうよりも、本当のことを言った方が良いだろう。
「まずは嘘を付いたことを謝る」
「嘘?」
「俺は結城の元に行くために、諏訪に嘘をついた。
半裸だったのにTシャツを着てること。結城に100円を借りたこと。
この二つはその場しのぎの嘘だ。すまん」
そう言って顔を横に向け諏訪を見る。
諏訪はすぅーすぅーと寝息を立てて寝ていた。
「…………」
「……それが嘘なのは分かった。じゃあ本当のことはなんなの?」
諏訪が寝ているのはいつも通りなので、小虎が話を進める。
「俺の目的は結城だ。俺は結城に会いにここに来た」
俺がそう言うと女子たちの視線が一斉に結城に向いた。
「……えっ!? わ、わたし?」
結城の顔が赤くなり、嬉しさを隠しきれていない。
大好きな兄が自分を求めてくれたことが嬉しいのだろう。
「二人は付き合ってる。そういうこと?」
「ええー、そんなー。まさかー。私と上野がー。
上野がどうしてもって言うなら……」
結城はチラチラと俺に期待のまなざしを向けてくる。
「違う。俺は結城に助けを求めにきたんだ」
俺が否定すると、結城はがっくりと肩を落とした。
「助け? お金でも借りにきたの?」
「金なら同室の奴に借りれば済む。
結城にしか解決できない問題が発生した。
俺が半裸なのもそのせいだ」
「結城さんにしか解決できない問題って?」
全員の視線が俺に集中し、その答えを待っている
俺は
「魔物が現れた。今回はアンデッド。つまりゾンビだ」
一瞬の静寂の後、小虎達は笑い出す。
「あはは、ゾンビ? なにそれ映画の見すぎ」
「もう少し、マシな嘘をついたらどうですか?」
「上野くんって、面白いね」
一方、結城は真剣な表情で俺を見つめる。
俺の言葉が真実だと分かっているから、笑ったりすることはない。
「あのあの、ゾンビが現れたのは分かりました。
でも、どうして上野くんは、その。服を着ていなかったんですか?」
藩出もゾンビについては半信半疑。
一度、魔物化したことのある藩出だが、その記憶を失っている。
それでも必死に俺を擁護しようと、話を進める。
その
「部屋の連中がゾンビ化して襲ってきた。
その時に服を捕まれて、力任せに逃げたせいで、パンイチになった」
「あはは、バカらしい。そんな話信じるわけないでしょ?
早く先生を呼びに行こう」
「小虎さん、待ってください。
上野くんの話が本当かどうか、確かめてからでも遅くないと思います」
「どうやって確かめるの? 藩出さん」
「それは簡単です。
上野くんの部屋に行けば良いんです。
もし本当なら、ゾンビがいるはずです」
「ああ、なるほど。確かにそうね。
それじゃあ、今から確認しに行きましょ。
もしゾンビがいれば、上野くんは解放する。
いなかったら、先生に突き出す。
それで良いよね?」
小虎は女子全員に確認し、女子達はそれぞれ頷いた。
かくして俺への尋問は終了し、ゾンビを確認しに行くことになった。
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