019 一緒にお風呂です。
夕食を取り終え、再び真白との時間をのんびり過ごす。
しばらくして、真白が口を開く。
「お兄様、それでは参りましょうか」
「え? どこかに行くのか?」
真白の両親に挨拶にでもいくのかと、俺は身構えた。
かしこまった挨拶は苦手だ。出来れば遠慮したい。
「はい、お風呂です」
「お風呂? 俺は真白の後でいいぞ」
「いえ、私と一緒に入るのです」
「え? それは、まずいだろ。俺は一人で入るよ」
真白と一緒に入るということは、裸の真白を目にするということだ。
下着姿よりも一段階レベルがあがっている。
下着姿を見るのを拒否したのに、裸はOKとなるとおかしなことになる。
「お兄様は、お優しい人です。
藩出さんの裸を見ることにも、罪悪感があるのではありませんか?」
「それは、たしかに」
大仲に襲われたり、トイレに行ったりで、
だが、裸全体は見たことは無い。
「お風呂に一人で入るということは、藩出さんの裸をお兄様はマジマジと見ることになります。
それはお兄様にとって、一番避けるべきことではありませんか?」
「真白の言いたいことは分かる。
だが、それがなぜ一緒に入ることになる。
一緒に入ると、藩出と真白の二人の裸を目にしてしまうじゃないか」
「いえ、お兄様が裸を目にすることはありません」
「どういうことだ?」
「お兄様はずっと目を瞑っていればいいからです。
そうすれば、裸を目にすることはありません」
「目を瞑っていたら、俺は何もできないぞ」
「はい、だから私が一緒に入って、お兄様をお手伝いするのです。
洋服を脱いだり、体を洗ったり。手とり足とりすべて任せてください」
「それなら俺が裸をみることはないな。
でも、真白に負担を掛けてしまうんじゃないか?」
「愛するお兄様のためです。負担などとは思いません」
ここまで献身的なことを言われてしまっては断る方が悪い気がしてくる。
「分かった。ほんとうに全部任せていんだよな?」
「はい。おまかせください」
いつもの真面目な真白だ。
しかし、その笑みは何か悪巧みをしているように感じた。
いや、そんなことを思うのは真白に失礼だ。
彼女は俺のために好意で、手伝いをすると言い出したのだ。
兄として、妹を信じよう。
真白に連れられて脱衣所にやってきた。
脱衣所も浴室も普通の家庭に比べてかなり大きい。
これなら二人で入っても、
「お兄様、それでは目を瞑ってください。
服を脱がせますので」
「ああ、後は任せたぞ」
俺は真白を信じて、目を閉じる。
すると、真白はごそごそと衣擦れの音を立てながら自身の服を脱ぎ始めた。
始めに裸になり、その後に俺を裸にする段取りのようだ。
真白が俺の着ていたワンピースを脱がす。
上下の下着を脱がされ、俺はすっぽんぽんになる。
こうなってしまっては、もう目を開くことは出来ない。
俺は真白に手を引かれ、浴室に連れていかれる。
よちよち歩きで進み、俺は風呂用の椅子に座らせる。
俺はようやく一息つく。
「お兄様、では髪を洗いますね」
「ああ、頼む」
優しい手つきで頭を洗われる。
「終わりました。次は体を洗います」
「ああ」
真白がボディーソープを手に取り泡立てる。
そしてその手が俺の背中に触れた。
「手で洗うのか? なんかナイロンタオルとかは使わないのか?」
「ナイロンタオルは肌を傷つけるので良くないです。
こうやって手で優しく洗うのが良いんですよ」
「ほう、そうなのか。それは知らなかった」
真白の手が俺の背中を優しく洗う。
その手が背中から腕に移動し、お腹に触れる。
「ちょ、前は自分でやるよ」
「ダメです。お兄様はすべて私に任せると言ったではありませんか?
だから、前も私が洗います」
俺の言葉は即座に否定される。
そして真白は後ろから抱き付いて、俺の胸やお腹に手を回す。
女性特有のやわらかい体の感触が俺の背中に感じる。
その中でも特にやわらかい部分が、俺の背中でつぶれている。
目を瞑っているせいで、触覚が敏感になっている。
「ひゃん」
俺の口から、言葉が漏れた。
真白の手が俺の胸を執拗に洗っているのだ。
他人に触られると、非常にくすぐったい。
円を描く様に外側から、だんだんと内側に迫る。
そして山の頂上に達したとき、再び俺は声を漏らしてしまった。
俺の後ろでは、俺が悶える声を漏らすたびに、真白が含み笑いをしている。
どうやら俺を感じさせることを面白がっているようだ。
胸を責めるのが飽きたのか、真白の手が下に向かう。
そして俺のふとももを洗う。
膝に近いところから、だんだんと股の方に向かう。
俺が敏感なんか、藩出が敏感なのか分からないが、ふとももの付け根を触られるたびに、体は電気ショックを受けたように跳ね、あえぎ声が漏れた。
ようやく体を洗い終わったときには、俺は
風呂は疲れを取る場所のはずなのに、俺は疲れ果てていた。
「はあ、はあ、はあ」
「ふふふ。お兄様、終わりましたよ」
「ああ、ありがとう」
疲れ果てた俺とは反対に真白の声はとても楽しげだ。
俺をおもちゃにして遊べたのが楽しかったのだろう。
真白が喜んでくれたのなら、いいだろう。
俺自身も気持ちよかったし、こんな経験が出来るのもおそらくこれが最後。
貴重な体験が出来たと喜んでおこう。
真白に手を引かれて、浴槽につかる。
体が温まると同時に、安堵の息が漏れた。
風呂場で済ますことは全部終わった。
あとは上がって服を着れば、お風呂イベントをクリア。
体が十分温まり、俺と真白は浴室を後にする。
新しく用意してくれた下着と、パジャマを着て部屋に戻った。
俺は風呂の御礼だと言って、真白に足つぼマッサージをした。
ぐりぐりと足の裏を押すと、真白はイタイイタイと叫んだ。
俺は風呂場の仕返しとばかりに、足つぼを続けた。
真白は涙目で、睨んできたが、それもまた楽しい思い出。
兄である俺を睨みつける真白はとても貴重なのだ。
それからお互いの体をくすぐりあったりして、笑い合った。
今は、一つのベットで真白と横になっている。
眠りに落ちたら、意識は明日の夕方に飛ぶ。
上野が大仲に切り裂かれて、血を噴出した場面に。
ゆっくりした時間を味わえるのは、おそらく今が最後。
「真白、ありがとう。今日は楽しかったよ」
俺は独り言のように呟いた。
「……これが最後なんですか?」
真白は起きていたようで、言葉を返してきた。
「ああ、眠ったら意識が飛ぶ。
明日の俺は今日の出来事を経験していない俺だ。
真白から見れば、忘れているように思うかもしれないけど、今の俺はちゃんと覚えているから」
「そうですか」
「だけど、俺は結局コピー。覚えてたとしても消えちゃうんだがな」
「……お兄様」
真白が俺の手を取る。その手は震えている。
いや、震えているのは真白ではなく、俺の手の方だ。
「お兄様が……。今のお兄様が消えても、私は覚えています。
ずっとずっと覚えています」
「……俺が消えても、真白の中では思い出として生き続けられるんだな。
そう考えれば、悪くないな。
俺が消えた後、オリジナルの上野をよろしくな」
「はい」
「言い忘れたけど、オリジナルの俺に、コピーの存在は内緒にしておいてくれ。
一時的に自分のコピーがいたとか気持ち悪かったり、存在が消滅して悲しいとか思われうのは嫌なんで。
もしかしたらうっすらと気付いているかもしれないけど。
オリジナルに気付かれず、ひっそりと消えるのがベストだと思うんだ。
そういう意味で、俺は真白の中にしかいなかった存在になるな」
「私だけが知っているお兄様」
「ああ、俺はお前だけの特別な兄だ。だから忘れないでくれよ」
「もちろんです!」
「ありがとう真白」
俺は真白に微笑み返し、再びまぶたを閉じた。
大仲との最終決戦、そして俺の消滅。
それを考えると手が震えていたが、真白と話すことで震えが止まっていた。
俺が消滅して、俺のことを誰も覚えていないことは、恐怖だ。
だが、一人でも覚えている人がいるなら、その恐怖はやわらぐ。
自分の存在に意味があったんだと思える。
俺は自分の役割をまっとうして、この体を本当の持ち主に返す。
それが俺が生まれてきた意味だ。
さあ、俺の物語を終わらせよう。
俺は心地よいベットで、眠りに落ちていく。
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