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理事長室のあるフロアでは、母親の理事長時代にリクリエーションルームが設置され、応接室も お客さんがいない時には生徒や学生たちに開放されていました。
また理事長室も 理事長と楽しく会話ができる、安らぎの空間となっていました。
いつも 笑い声と歓声が絶えない楽しいフロアでした。
しかし島太郎が今、目にして、心に感じる空間は冷たく、暗く、緊張感あふれるものです。
かつて誰もが自由に出入りが出来たドアは固く閉じられ、屈強な警備員が守っています。
島太郎がドアに近寄ると、いきなり怒鳴りつけてきました。
「おい!何の用だ!」
ほんの数ヶ月前までの警備員は、生徒や学生に優しく接し 愛情の眼差しで生徒たちを見守っている存在でしたが、今は違います。
そう、理事長を守るための警備員なのです。
それでも 島太郎は怯みません。
「俺は理事長の息子、浦 島太郎だ!親父に話があってやってきた。親父に会わせろ!」
理事長の息子と知った警備員は、態度を豹変させます。
「これはこれは、お坊っちゃまで有らせられますか。
誠に申し訳のないことではありますが、こちらのお部屋には、理事長様がお招きになった方か、あらかじめ面会の許可を受けた方以外は、お通ししないよう、理事長様より仰せつかっております。
どうか お引き取り願えませんでしょうか」
慇懃無礼とは まさにこの事でしょう。
その時、ゆっくりと理事長室のドアが開きました。おそらく、二人のやり取りが聞こえていたのでしょう。
島太郎の父親の姿が現れると、警備員の顔は いきなり硬直して そのまま深々と最敬礼をしました。
手は真っ直ぐに伸ばし微動だにしない姿から、理事長の恐怖政治のさまを 島太郎はひしひしと感じとりました。
父親は おもむろに語りました。
「やはり島太郎か。今日 運転手から お前が登校したと連絡があってな、ここに来るだろうて思っていたが やはり来たか。
他ならぬ お前のことだ、話を聞いてやろう。入りなさい」
その間も警備員は最敬礼のままです。
招き入れられた島太郎は 部屋に入るや 否や思いをぶちけました。
「父さん! これは どういうことなんだ!
母さんが! 母さんが愛した自由な学園を こんな風にしやがって あんまりじゃないか!
ひどいよ、あまりにもひどいよ!」
それに対して 父親は冷徹に話します。
「自由などというものは、人を堕落させるだけのものだ。人は規則で縛りつけられて初めて立派に成長していけるんだ。
ところで島太郎、お前は 学園批判が退学処分の対象になることを知っているかね。
普通ならお前の行動は即退学となるが、特別に許してやろう。
学園が気に入らないなら、さっさと退学届けを出すんだな。
わしは今さら校風を変える気など さらさらないからな」
「解ったよ、もうこんな学園には何の未練もないよ。
これから帰る。
退学届けは、じいやに渡しておくよ」
島太郎は静かにつぶやくと、運転手が待つ車に乗り込み、帰宅したのでした。
帰宅した島太郎は まず退学届けを書き、執事のじいやさんを呼び出しました。
もちろん、退学届けを渡すためです。
しかしそれだけではありませんでした。
島太郎の部屋の前に 大きなテーブルと、呼び出しベルを用意させたのです。
この日から 島太郎の 長い長い 引きこもり生活が始まったのでした。
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