閑話 常盤木テメェ!!!

 ※この話は本編より後の話になります。

 具体的には二年生あたりです。


 本編にほとんど出ない人たちの話でもあります。

 よかったらお読みください。



 ◇◇◇



 今日は、いつも通りバイトをこなしていて、レジではなく裏でバーガーを作る係をやっていた。

 そして、そろそろ休み時間かというところでバイトの先輩に声を掛けられたんたが…………。



「え。今、先輩は、なんて言いましたか?」


「いや、だから。すげぇ美人なお姉さんが『シェフをお呼びしてくれ』って言って来てるんだよ」


「ここ普通のバーガー屋ですけど?」


「知ってるよ! だけど、外国の人みたいだし……しかも美人なのに食べる量半端ねぇし……。ほら、常盤木って、結構勉強できるんだろ? それにこの店のシフト的に今日のシェフってお前みたいなもんで……」


「あー、なるほど。じゃあ俺が行って来ますよ先輩」


「ありがとう常盤木! あんな美人、話したくても俺らじゃ近づけないんだ! お前ならきっと免疫があるっ!!!」


「ははっ。なんですか、それ」



 俺は休憩をとり先輩に促されるまま、その客のところに向かうことにした。


 ……普通にクレームだったら嫌だなぁ。

 ま、クレーム処理って何故か俺がやること多いし、いざとなったら頭を擦り付けて詫びて……。

 あ、でも非がない状態でそういうことになったら凛は怒るし、考えないと。



 今日は、バイト先に凛が来ていない。

 そんな状態で何かあれば、後で知った凛の対応の方が大変なことになる。



 ——うん? あれ??



 その時、ふと何か予感のようなものがした。

 既視感のような、ような用意周到さに……覚えがあった。


 そして——客のところに向かうとサングラスをかけた見慣れた女性の姿が……。



「やっほ〜、ポンちゃ〜ん」


「リサさん、何やってるんですか……」


「今までバイト先に来たことなかったでしょ〜? だから、ポンちゃんを見たかったのと、どうせなら売り上げに貢献しようかと思ってぇ」


「だからって、セットメニュー四つは食べ過ぎなような……。普通にメガメニューとか入ってますし」


「ふふふ。全く問題ないわよぉ」


「胃袋のコントロールまで完璧なんですね……」



 痩せていて、目を見張るような綺麗な見た目をしているのに……一体どこにバーガー達は収納されてしまったのか?

 相変わらずの規格外っぷりに俺は思わず苦笑した。


 いや、なんとなく“リサさんが来ている”そんな気がしたよ。

 スケジュールを話したわけじゃなくても、最低限迷惑をかけない時間、そして休憩を狙ってきたあたりね。


 たぶん俺を驚かせるために、注文の時はアプリでやったんだろうなぁ。

 万が一、顔を見られれば驚かすことが出来ないしさ。



「こういう場所は、あまり来たことないからなんだか緊張しちゃうわね〜」


「そうなんですか?」


「そうなのよぉ。凛ちゃんって外食を嫌がるし、しんちゃんもあまり外では食べないからぁ」


「リサさんの料理って美味しいですからね」


「ふふっ。嬉しいこと言ってくれるわねぇ〜。口説かれたら、落ちちゃうわぁ〜」


「いやいや、落ちないでくださいよ」



 俺の頰をつんと突き、意地悪な笑みを浮かべるリサさん。

 この人の冗談はいちいち心臓に悪い。



「でも、ポンちゃんに出会ってから凛は色々と外を見るようになったわぁ。だから、私も気になって来ちゃったのよ〜」


「なるほど……。でも、だからってサングラスや服装が……」


「なるべく地味にして、サングラスで変装よぉ? これでも、外を歩くと声をかけられることが多いから目立たないようにしているのよー」


「いや、逆効果だと思いますよ……。目立ちまくりで、リサさんの煌びやかな感じが隠せてないですし」


「ふふっ。やぁね〜」



 あまり自覚してないといか、無防備に見えてしまう空気感とか……。

 凛のお父さんも苦労してそうだな……。


 こんな雰囲気だったら、声かけられても仕方ないよ。



 ◇◇◇



 からかわれ続け、40分後。

 満足したリサさんは背を伸ばし、にこりと微笑みを向けて来た。



「さーて、ポンちゃんの様子も見れたし……。これ以上、いても邪魔になりそうだから帰ろうかしら」


「だいぶ話ましたからね。俺もそろそろ休憩が終わりそうです」


「ありがとねぇポンちゃん。話に付き合ってくれて」


「いえいえ」


「このお礼は必ずするわ〜。あの子の誕生日にバレないようにサプライズをしたいとかあれば協力するからねぇ〜」


「か、考えておきます……」



 凛には確実にバレるからサプライズとかは諦めてたけど……リサさんが手伝ってくれるなら行けるか?



「じゃあね〜ポンちゃん。今日はお家で待ってるから、寄り道しちゃダメよぉー?」


「わかってますよー」


「早く来ないと凛ちゃんにあることないこと吹き込んで、暴走させちゃうからねぇ? 『ポンちゃんが最近、ロリータの服にハマってる』とかね〜」


「げっ、てきとーなこと言わないで下さいよ! 後で火消しが大変なんですから……」


「ふふふ。冗談よぉ。じゃあ、を楽しみにしてるわねぇ。からぁ」


「はいはい」



 俺は店を出て行くリサさんに手を振り、送り出した。


 まさかリサさんがクソゲーにハマるとはなぁ〜。

 自分の予想とは反したトラブルが多く起きることが堪らなく好きらしい。


 ま、リサさんからしたら自分の予想が外れるのが珍しくて、それが嬉しいんだろう。



「まぁでも、本当はそんなことを言うために来たんじゃないんだろうな」



 今日は凛に用事があって来れない。

 付き合って以来、以前よりも『四六時中、一緒にいたい!!』というのを全面に出すようになった彼女だ。


 心配性なのも相変わらずで、自分がいない間が心配でリサさんに頼んだのだろう。


 ま、これはあくまで俺の想像で妄想かもしれないが。



「休憩ありがとうございましたー。って、どうかしましたか?」



 俺は控室でパーカーを脱ぎ、キッチンに戻ろうとすると、何故かバイトメンバーに囲まれてしまった。


 しかも、みんな……表情が怖い?

 中には、「なんで常盤木ばかり」と泣いている奴までいる始末だ。


 いや、どうしたんだよ。

 一体……。


 ってか、店長まで??



「常盤木君……まさか、あのお嬢さんまで飽き足らず、あんな美人な人まで……? 僕は君が人を大切にする人だと思っていたんだけど……」


「えっと店長? 言ってることはわかりませんが、ですよ」



 凛は恋人として、リサさんはその恋人の身内として、これからも大切にしていかなくてはいけない関係だ。

 自分の家にはなかったから、余計にそう思う。



 そう思っての発言だったのだが、バイトメンバーの顔が見る見るうちに赤く染まり、まさに怒り心頭という様子になっていた。


 え、いや、どうしてよ……。

 普通大切にしない??



「「「常盤木テメェ!!! ちょっと集合!!!」」」


「え、はい? なんで……?」



 この後、連行されたわけだが……。

 誤解が解けても、何故か余計に責められることになった。

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